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言ノ葉スクラップ・ブッキング〜シーン&シチュ妄想してみた。〜

管理人が妄想したシーンやシチュエーションをショート・ストーリー(?)にしたもの。
ジャンルはファンタジー・恋愛などなど。

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義理の妹は亡国の王女(幼少期・兄妹のふれあい編)
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JUGEMテーマ:ファンタジー恋愛もの

 

シェヴィーはユーディス家の娘として、ますます愛らしく育っていった。
そんなシェヴィーに対し、俺は……

→よく遊んであげたものだ
→何かとプレゼントをあげたものだ
→毎日のようにおしゃべりをしたものだ
→ついつい、いじめてしまったものだ
→よく部屋を訪ねたものだ
→シェヴィーは放っておいて城の探検に夢中だった

 


→よく遊んであげたものだ

エディー
「シェヴィー!今日は英雄ごっこだ!シェヴィーはお姫様役だぞ!」
シェヴィー
「いや!シェヴも“えーゆー”する!」
エディー
「だめだよ。シェヴィーは女の子なんだから。英雄になるのは男の仕事。シェヴィーはお姫様になって、僕に守られてなきゃ」
シェヴィー
「あにーえ、ずるい!!シェヴも剣をもつの!」

当時、シェヴィーはまだ舌足らずで、俺のことをちゃんと『兄上』と呼べずに、『あにーえ』と呼んでいた。
自分の名前もちゃんと呼べていなかったっけ……。
あの頃からおとなしくしているのが嫌いで、男の子と同じことばかりしたがっていた。

 


→何かとプレゼントをあげたものだ

エディー
「シェヴィー!今日はくまさんだぞ」
シェヴィー
「ありがと、あにーえ」

当時はまだ素直に、ぬいぐるみでも人形でも何でも受け取ってくれていたんだ。
俺のことを『兄上』と呼べず、『あにーえ』と呼ぶ様は、それはもう可愛らしかった。

 


→毎日のようにおしゃべりをしたものだ

エディー
「その時俺の行く手に巨大な蜘蛛がどさっと!」
シェヴィー
「それで?それで!?」
エディー
「俺は勇気を振り絞って、その蜘蛛にフライパンを振り上げて……」
シェヴィー
「あにーえ、かっこいい!」
乳母
「若様だったんですか!?フライパンで蜘蛛を叩き潰したのは!料理長がカンカンでしたよ!!」
エディー
「わ、悪かったよ……。だって、武器になるようなものが他になかったんだ」
シェヴィー
「しかたないのよ、悪をたおすには“ぎせい”がつきものなのよ」

思えば、この頃から既にシェヴィーの言動には賢さがにじみ出ていた気がする。
(こういうことを言うと、すぐに周りからは「兄ばか」扱いされるんだが…。)

乳母
「……若様、姫様におかしな言葉ばかりお教えにならないで下さいね」

 


→ついつい、いじめてしまったものだ

シェヴィーが泣き出すと困るくせに、それでも俺はよくシェヴィーに意地悪をした。
いわゆるアレかもしれない。好きな子ほど……ってやつだ。

シェヴィー
「あにーえの、いじわるぅ!あにーえなんか、きらい!!」
エディー
「き……きらい……」

自分でいじめておきながら、嫌いと言われるとショックを受けたりしていた。
それでも意地悪をやめないのだから、俺は当時から相当屈折している。

 


→よく部屋を訪ねたものだ

 

メアリ
「まあ、若様。いらっしゃいまし。
姫様は今クラヴィーアの練習中ですよ」

この娘はメアリ。後にシェヴィー付きのメイドとなる少女だ。
当時はシェヴィーの遊び相手として城に上がっていた。

エディー
「……ってことは、この音はシェヴィーのクラヴィーアか。………なんというか、独創的だな」
メアリ
「まだ始められたばかりですもの。仕方ありませんわ」
シェヴィー
「あにーえ!いらっしゃい!」
エディー
「ああ。ジャマしたかな?随分熱心に弾いてたみたいだが……」
シェヴィー
「えへへー。シェヴさっきょく『アマガエルのひめい』だい2がくしょうだよ」
エディー
「……ひ、悲鳴……?しかもアマガエルの……?どんな状況を想像して作ってるんだ?」

シェヴィーはいつもこんな感じで、見ていて全く飽きなかった。

 


→シェヴィーは放っておいて城の探検に夢中だった

……………まあ、俺も遊びたいさかりだったし。

 

 

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タイトル
タイトル
義理の妹は亡国の王女(プロローグ)
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JUGEMテーマ:ファンタジー恋愛もの

 

・学生時代にノベルゲームで作ろうと思って書き始めたものなので(そしてゲームは作らずじまい…)小説というよりシナリオ的です。

・選択肢による展開の分岐があります。

・とりあえず冒頭部分のみです。
(他のシーンもそのうち出したいとは思っていますが、間のシーンがちょこちょこ抜けていたりするので…。)

 



幼い頃、俺は何も知らず無邪気に母にねだったものだった。

 
「ねぇねぇ、母上。僕には弟はできないの?」
「まあ。エディーは弟が欲しいの?」
「うん。ジェームズにはお兄さんがいるし、ヘンリーにだって弟がいるんだ。僕も弟が欲しいよ」
「そうねぇ。でも、これは神様のお決めになることだから。弟じゃなく妹ができるかも知れないわよ?」
「えぇ〜っ!?やだよ、妹なんて。僕は絶対に弟が欲しいんだ」
「……まぁ、どうしても弟なの?妹じゃだめなの?」
「女の子なんかつまらないよ!家にとじこもってお人形遊びばっかしてて!弟だったら、いっしょに木登りもできるし冒険ゴッコだってできるもん」
「あらまぁ。困ったわね。そんなことを言ってもどちらが生まれるかは私たちには決められないのよ。赤ちゃんができるかどうかも神様しだいなんですからね」
「やだ。弟が欲しい。母上、神様にお願いしてよ。僕に弟を下さいって」
「まぁ。それじゃあ、父上がお帰りになったら一緒に教会に連れて行ってもらいなさいな。神様にお願いしてくるといいわ」
「そうだね。父上はいつお帰りになるの?」
「……さぁ。大変な戦ですもの」

 
その当時の俺には戦というものがどういうものかも、その戦が父にとってどんな意味を持っていたのかも知らなかった。
貴族である以上、国王に命じられれば戦に赴かなければならない。だが、その戦は偽りの大義を掲げた侵略戦争。その上、相手は父にとって親友とも呼ぶべき人間だった。

 

トントン

 

「奥方様、旦那様がお戻りになられました」
「まあ!それじゃあ、戦が終わったのね!?」
「はい。それで、旦那様から大切なお話があるとのことで、奥方様だけいらして下さるように、と旦那様が」
「……まあ、何かしら」

 
母は眉をひそめて部屋を出て行った。俺は早く父に会いたくてたまらなかったが、メイドに引き止められ、しぶしぶ部屋で待っていた。
一時間ほど経って戻ってきた母の腕には…………。

 

「エディー、ご覧なさい。あなたに妹ができたのよ。今日からあなたはお兄さんになるのよ」
俺は思わずぽかんとして母の腕に抱かれたその赤ん坊を見つめた。
リクエストした“弟”ではなく“妹”ができてしまったということに怒りを覚えることすら忘れて。
……その出逢いの日のことは、今でもよく覚えてる。
あんな綺麗な生き物を見たのは初めてだった。宗教画の天使くらいでしかお目にかかったことのない、えもいわれぬ薔薇色の頬。鏡のようにきらきら辺りを映す、つぶらな瞳。あの時の赤ん坊の愛らしさを表現するには、どんなに言葉を尽くしても足りない。とにかく、俺はひと目でその赤ん坊に夢中になったのだ。

 
「可愛いでしょう?もっと傍でご覧なさいな」

 
俺はおずおずと母の傍に歩み寄っていき、その赤ん坊を間近から見つめた。赤ん坊は俺の顔を見て、きゃっと笑った。

 
「さ、さわっても、いい?」
「ええ。そぅっと、ね?」

 
俺は壊れ物にでも触れるようにそのぷくんとした頬に触れ、もみじのような小さな掌を指先でつついた。赤ん坊はつついた俺の指先を小さな手で握り締めてきた。

その様子が、食べてしまいたいくらいに愛らしくて、俺は言葉も忘れて赤ん坊の笑顔を眺めた。

 
「だっこしてみる?」
「ええ!?いいの?」
「大丈夫よ。重いから、気をつけてね。ほら、しっかり支えて」
「……うわぁ〜」

 
抱き上げた赤ん坊は予想より重かったが、俺はこの愛らしい生き物が俺の腕の中にいるということに夢中で全然気にならなかった。

 
「僕の、妹。僕の……」

 
頬を緩めて赤ん坊をぎゅうっと抱き締めて……俺はふと気がついた。名前をまだ知らないことに。

 
「ねえ、母上。この子の名前は?」
「シェヴールグレンっていうのよ。シェヴールグレン・ユーディス。それが今日からこの子の名前よ」
「シェヴール…グレン……。僕の、シェヴールグレン」

 

まだ子どもだった俺は、赤ん坊がこんな風にある日突然「やって来た」ことに何の疑問も抱いていなかった。
新しい俺の“妹”シェヴールグレンは、家族の間では「シェヴィー」と呼ばれるようになった。
俺は赤ん坊だったシェヴィーに……

 

→よく花をつんできたものだ
→よく遊んでやったものだ
→子守唄を歌ってやったものだ
→さわって無理矢理起こしたものだ

 


→よく花をつんできたものだ

 

乳母
「まぁ、若様。姫様は今お休みですよ。お静かにお願いしますね」
エディー
「あのね、おはな、つんできたんだ。シェヴィーの髪に飾れるように」
乳母
「あらまぁ。今まで花なんか見向きもしなかった若様が珍しいこと」
エディー
「だって、シェヴィーがきれいだと僕もうれしいもん」

 

あの頃の俺は、この、俺だけの小さなお姫様を飾り立てるのに夢中だった。
ままごとや人形遊びばかりの女の子たちを馬鹿にしていたのに、思い返せば俺のやっていたことも、まるで着せ替え人形遊びだ。
だが、それでもシェヴィーを自分の手でますます可愛らしくしていくことが、俺にとって何よりの喜びだったのだ……。


→よく遊んでやったものだ


エディー
「たかいたか〜い!!」
シェヴィー
「きゃっ♪きゃっ♪」
乳母
「きゃあ〜〜あ!!若様ッ!!何をしておいでなんですか!?」
エディー
「何って『たかいたかい』だぞ」
乳母
「…………それは…ッ、赤ちゃんを放り投げて受け止めるものではありませんッ!!」
エディー
「え?違うのか?シェヴィーが大喜びしてるから、てっきりこれで合っているものだと……」
乳母
「…………お願いですから、まともなあやし方をなさって下さいッ!」

 
その後俺は、乳母にも母にも……父にまでもたっぷり叱られ、しばらくの間シェヴィーと遊ぶことを禁止されてしまった。
……あの時は本当に哀しかった……。

 


→子守唄を歌ってやったものだ

 

乳母
「わ、若様!?一体何をお歌いなんですか!?姫様が泣き出してしまわれます!」

 
当時の俺は自覚していなかったが…………俺は、実はものすごく……音痴なのだ。

 

エディー
「何って、子守唄だぞ。シェヴィーがよく眠れるように」
乳母
「こ、子守唄!?あ、あの……もう少し……その……静かな子守唄はございませんか?」
シェヴィー
「きゃっきゃっ♪」
エディー
「シェヴィーは喜んでくれてるみたいだぞ」
乳母
「………………姫様はきっと、たくましくお育ちになられますわ」

 


→さわって無理矢理起こしたものだ

 

シェヴィー
「みゃあぁああぁぁッ!!!」
エディー
「うわっ、泣いちゃった」

シェヴィーが眠っているのがつまらなくて、目を覚まして欲しくて、ちょっかいを出して……それでよくシェヴィーを泣かせたものだった。
シェヴィーが泣いてしまうと、俺はどうしたら良いのか分からず右往左往して……結局 乳母や母に助けを求め、シェヴィーを泣かせたことがバレて叱られたりしたものだった。
思えばあの頃から既にシェヴィーの泣き顔には弱かったんだ……、俺。

 

そうしてシェヴィーはユーディス家の姫君として大切に育てられ、すくすくと成長していった。

 

 

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タイトル
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ミトコンドリアの恋
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JUGEMテーマ:恋愛小説

JUGEMテーマ:恋愛小説

 

「なぁ、知ってるか?太古の生物には寿命なんて無かったんだ。生殖行為を行わず、分裂で ( ) える代わりに、最初からプログラムされた死も無い。単細胞生物なんてばかにしてるけどさ、せっかく育てた身体(からだ)も記憶も、何十年か経てば必ず消滅してしまう人類(ぼくたち)に比べたら、ずっと生命体として完成された、永遠に近い存在なんじゃないかな」

僕は、なんで君にこんな話をしているんだろう。

養護教諭のたまたまいない、二人きりの保健室。
君は保健委員として僕につき添って来てくれただけで、特に親しいわけでもなければ、そもそも会話を交わした記憶さえ、ほとんど無いくらいの間柄なのに。

……ただ、いつも教室の隅で一人静かに本を読む君が、時々、妙に視界の端に引っかかるのは感じていた。

皆が群れを作って居場所を確保しようと必死でいる中、独りになることを恐れず“自分”を貫こうとするようなその姿は、まるでサバンナを独りで生き抜くライオンのように、気高く、強い存在に見えて、そんな君を何だか眩しく思ったこともあった。

だからかな。
君だったら、僕のこんな聞くほどの価値も無いような愚痴だって、笑わずに聞いてくれるんじゃないか――そんな風に、思ってしまったのは。

 

「なぁ、何で僕たちは、こんな不完全で儚い、永遠を生きられない生命体に進化してしまったんだろうな?太古の命のままでいれば、死に怯えることも、そもそも人生に悩む頭さえ無かっただろうに」

こんな話、友達とだって、親兄弟とだって、したことがない。

死ぬのが恐いだとか、人間の生命のあり方に納得がいかないだとか、言い出したところでどうにもならないことだし、答えなんて見つかるはずもない。

だから皆なんとなく、そこからは目を逸らし、見ないようにして、受け入れたフリをしながら日々をやり過ごしている――そういうものだと思っていた。

君だって、急にこんな重苦しい話をされたら、きっと戸惑って、困惑して、僕から距離を置きたくなるに違いない……そう、思っていたのに……。


「……それなら、私たちは、もしかして“恋をする”ために永遠を ( ) てたのかも知れない」

ひそやかに告げられたその言葉に、僕はまともな反応が返せなかった。

「……え?」

「ううん。“恋”だけじゃないかも知れないね。“友情”や“親愛”の気持ちだってあるかも知れない。あるいは、見も知らない芸術家の作品や、遠い国の偉人の人生に触れて、感動したり涙を流したりするためかも知れない。でも、たぶん、 そういうもの ( ・・・・・・ ) を知りたくて、私たちはこういう生命に進化したんじゃないかな。どこまで殖えても、自分の分身ばかりで、結局どこまでも“ひとりぼっち”で生きるより、永遠の命を棄ててでも、自分とは違う誰かを生み出して、出逢って、心を震わせたかったから。ひとりだけじゃ感じられない何か、ひとりだけでは生み出せない何かを、この世界に創り出したいから」


それは、思いもよらない“答え”だった。
理想論だと、ただのロマンティシズムだと一笑に付してしまえばそれまでの、どこか夢見がちな感情論。

だけど、僕は笑えなかった。
君が笑わず真剣に答えを返してくれたことにも、その答え自体にも、言いようのない衝撃を受けたからだ。


きっと僕ひとりでは、永遠に 辿 ( たど ) り着けなかったであろう、答え。
僕とは生まれてきた環境も、成長してきた軌跡もまるで違う君だから見出せた、僕にとっては未知の、全く新しい考え方。


どうしてこの世界に、君にような人間が存在するんだろう。
どうして僕は、今日この瞬間まで、そのことに気づけずにいたのだろう。

いつの間にか、心臓が、今までに感じたことのない激しい速度で、けれどどこか妙に甘ったるいリズムで、鼓動を刻み始めていた。

これは、今までに味わったことのない感情だ。
だけど僕は、生まれてから十数年間、ずっとこの瞬間を待っていた気がする。


この地球に生命が生まれてから、およそ40億年。
生物と呼べるかどうかすら分からない単純な姿から、少しずつ形を変え、遺伝子を組み換え組み換え、繋がれてきた、命。

自分とは異なる遺伝子を持つ誰かと、出逢っては恋をし、似て非なる遺伝子を持つ子どもを生み出しては、また新たな世代で新しい恋をする――。

そうして途方もないほどの時間と世代を超えてきた生命のリレーの、数えきれないバトンパスの果てに、 現在 ( いま ) 、こうして僕が生まれ、同じようにこの時代を駆け抜けるべく生まれてきた、けれど僕とはまるで違う、たった一人の君と出逢う。


これから僕は、君に対して、どんな気持ちを抱いていくのだろう。
甘いドキドキや幸福感ばかりじゃなく、切なさや苦しさも、味わうことになるのだろうか――。

だけど、そんな切なさや苦しささえも引っくるめて、この痛いくらいの胸の震えが、永遠を棄ててまで手に入れた代価だと、君は言うのだろうか。


僕は、きっと、今日のこの瞬間を忘れない。
魂の根幹を揺るがすような衝撃と、初めて覚えた甘い胸の震えと、風に揺れる白いカーテンや、伏し目がちな君のまつ毛の長さまで。

きっと、ひとつ残らず覚えている。

もしかしたら、この想いは、実らないかも知れない。
君に知られることさえなく、終わってしまうかも知れない。

それでも、僕はきっと後悔はしない。
君は僕に、大切なものをくれたから。


いつか必ず終わりが来ると分かっているこの命に、否応なく、僕は生まれ落ちた。
自らの意思でもなく、選択の余地すら与えられずに。

だけど、永遠に背を向けてまで、この儚い生命に生まれてきた、その理由が、君のくれたその優しい答えなのだとしたら――この世界も、そう悪くはないのかも知れない。
そう、思えるんだ。

 

 

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タイトル
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若殿と幼馴染と鎮守神の和風ファンタジー・ラブコメ小説
記事本文

 

「時。お前に伝えねばならぬことがある」
 いつになく真面目な父の声に、時子は居住まいを正す。
「如何なるお話でございましょうか、父上」
「実はな、お前に縁談が持ち上がっておる」
 時子はわずかに眉を上げたが平静な態度を崩さなかった。時子の家は代々、国の家老職を務める家柄。いつかはこの話が出ることを、物心ついた頃から覚悟していた。
「それで、相手はどちらの家の御方なのでしょう?」
「それが、な……」
 父は珍しくひどく言いづらそうに言い淀む。娘の顔色を窺うように幾度も言いかけては止め、言いかけては止めを繰り返した後、ようやく意を決したように口を開く。
「我が国の若殿様なのだ」
 その瞬間、時子は固まった。父の言葉を頭がまるで受け付けてくれなかった。
 たっぷりの間を置いてやっと出てきた言葉は、政略のための結婚を幼い頃から受け入れていた名家の娘とは到底思えぬ悲鳴じみた叫びだった。
「じょおぉだんじゃありませんよっ!」
「……うむ。私も、冗談であれば良かったと、そう思うておるぞ」
「何故です!?何故私が、あの大うつ……若殿と夫婦にならねばならぬのですか!?」
「幼き頃より若殿の御側仕えを務めてきたお前であれば、あの若殿をお支えし、この国を良き方向へ導いていけるであろうという、殿のお考えでな……」
「要は若の御守をこの先もずっと私に押し付けようということですよね!?」
「いや、まぁ、その……な」
「私がこの十年以上、若の御側でどれほど大変な目に遭ってきたか、分かった上で仰っているのですか!?もうこれ以上は御免です!それに、今さら若とだなんて……あの若が御承知するはずがありません」
「……いや、若殿は存外乗り気でいらっしゃったぞ。『それはなかなか面白いな』と仰って」
 その言葉に、時子は開いた口がふさがらなかった。震える拳を握りしめ、時子はすっくと立ち上がる。
「私、今からお城に上がります。若に真意を伺って参ります!」

 

 

 時子が鬼の形相で“真意”を問い質すと、次期国主であるはずの若殿は、城下の子どもとほとんど変わらない汚れや破れ目だらけの着物でけらけらと笑った。
「ああ、その話な。聞いたぞ。あれは笑えるな。おぬし、そういえば女子であったのだなぁ。親父殿から話を聞くまですっかり忘れておったわ」
「忘れないでください!と言うより、意味が分かりませんから!若と初めに会ったときから私はちゃんと女だったでしょう!?」
「確かに昔は一応ちゃんと女子に見えていたがな。今はぱっと見どちらか分からぬぞ。おぬし何ゆえそのように男前に育ってしまったのだ?」
 目の前の時子を頭から膝まで一通り眺め、若殿は不思議そうに小首を傾げる。
「……誰のせいでこうなったと思ってるんです」
 時子は苦虫を噛み潰したような顔でつぶやく。
 若殿の言う通り、時子の姿は一見、女には見えないものだった。髪は頭の高い所で一つに束ねて馬の尾のように長く垂らし、着物も女物ではなく、名家の若君が着るようなすっきりとした袴姿だ。知らぬ者が今の時子と若殿を見たならば、まず間違いなく時子の方をこの国の“若殿”だと思うだろう。
 時子がこのような姿をしているのは、ひらひらした女物の着物では、到底この若殿の側に付いていられないため。そしてさらに言うなら、本来であれば若殿と歳の近い少年が務めるはずの側仕えを時子が女の身で務めているのは、この国で時子以外にこの若殿についていける者がいなかったためである。
「それで、私との縁組の件は、若の方からきっちりお断りいただけるのですよね?」
「断る?何ゆえだ?」
「何ゆえって、ありえないでしょう。先ほども仰っていたように、若、私のことを女子として見ていないではありませんか」
「わしはべつに構わぬぞ。嫁を娶るならば、わしに理解ある女子と昔から決めておったし、おぬしほどわしのことを理解しておる女子はおらぬだろうからな」
 特に何も考えていなさそうな顔であっけらかんと告げられたその言葉に、時子は憤怒した。
「『べつに構わない』なんていう適当な理由で嫁にされてたまるかぁあ〜っ!」
 

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花火の中の一生
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JUGEMテーマ:ショート・ショート

 

浴衣ってね、見た目ほど涼しくはないんだ。
着付けするのにコツも要るし、キレイに着るの、結構大変なんだよ。

でも、初めてのわりには上手く着られてるでしょう?
帯だってね、今時よくあるワンタッチのやつじゃなくて、自分で結んでみたかったから、調べて、練習したの。
思ってたよりナナメになっちゃったけど……これでも頑張ったんだから、笑ったりしないでよね。


花火、もう始まっちゃったね。
確かに、ちょっと遠いけど、ここからでも充分だよ。
人でいっぱいだから、これ以上前には進めないし……。

あ、今ちょうど打ち上がった。

……綺麗だね。

弾けて、光って、消えていく……。 
こんなに一瞬で、あっと言う間に消えちゃうのに、どうしてこんなにも沢山の人がこれに惹かれて集まって来るんだろうね。


本当言うとね、昔は花火って、ちょっと苦手だったんだ。
物悲しく思ったり、恐くなったりして。

……そうだよね。
自分でも独特の感覚だとは思うんだけど……。


花火って、ほら、ぱぁんと弾けて、無数の星がきらめきながら、どんどん広がっていって、最後にはすぅっと消えちゃうでしょう?
似てると思わない?この宇宙に。

大爆発 ( ビックバン ) から始まって、どんどんどんどん膨らんで。
最後がどうなってしまうのかは、私にはちょっと分からないけど。


そう思っていたらね、あの打ち上げ花火のひとつひとつが、小さな宇宙に見えてきたんだ。
私たちの目には、ただの打ち上げ花火に見えても、あの中には実は、私たちには知覚できない無数の命が、一瞬で生まれては消えていってるんじゃないのか……なんて。

あるいは私たちのこの宇宙自体、実は途方もなく巨大な花火の一部で、この宇宙の外には今の私たちみたいに、この宇宙の誕生から消滅までを、花火のように眺めている何者かがいるんじゃないのか、なんてね。


一生が長いか短いか、なんて、きっと相対的なものでさ、私たちがセミの一生を短く儚いものと思うように、百年の人生だって、千年万年の途方もなく長い寿命の生命体から見たら、ほんの刹那の瞬きなんだろうね。

花火みたいなこの宇宙の中で、ほんの一瞬のきらめきのような一生を、懸命に生きてる。
――そう思ったら、なんだかこの人生が、ひどく儚く物悲しく思えて、恐くなっちゃったんだ。


ね、手を繋いでもいい?

……確かに暑いけど、手汗なんて気にしないよ。
今は、そういう気分なんだ。


何かを成し遂げても、どんな夢を叶えられても、結局最後は死んで無になっちゃうなら、意味なんて無いんじゃないか――そんな風に思ってた時期もあるよ。

でも、それは違うよね。意味ならちゃんとある。

だって、ほんの一瞬だけ光って、咲いて、次の瞬間には消えていく――こんな儚いシロモノを、今、こんなにも多くの人がわざわざ見に集まって、そのひとつひとつに声を上げたり、見惚れたり、感動したりしてる。

花火なんて、燃え尽きたら形も何も残らないのに。
――それでもこんなにたくさんの人が集まるのは、形が残らなくても残る 何か ( ・・ ) があるからだよね。

……ううん。
たとえ人の心や記憶に刻まれたその“何か”さえ、途方もない時の流れの中で消え去ってしまったとしても、無駄なことなんて、きっと無い。


あの一瞬の光の花も、身体の芯まで響く音も、この生ぬるく澱んだ夜の空気も、繋ぎ合ったこの手の熱さも……今日のこの一瞬の中にはこんなに確かに存在しているのに、明日になったらもうどこにもなくなってしまう。 
いつか、私の記憶の中からさえ消えてしまうかも知れない。

でも――それでも、私は、今日、ここに来たんだ。

今の、この一瞬を味わうために。
今日ここでしか味わえない何かを、感じるために。


きっとこの世界は、限り有るものだから価値が無いだとか、存在が儚いから意味が無いなんて、そんな単純なものじゃないんだろうね。

だって、私、今この儚い一瞬だけで『今まで生きてきて良かった』って、思ってる。
『今日ここで、この夜を味わえただけでも、生きてきた甲斐があった』なんて、思ってる。

……花火が綺麗だから、だけじゃないよ。


ねぇ、あのセミたちだってさ『人間に憐れまれる謂れなんて無い』って思ってるかも知れないよ。
地上に出てからはほんの数週間しかない命だって、その一生を懸けて全力で、本気の恋ができるなら、下手な人間より幸せなのかも知れない。


単に生命を次の世代へ繋ぐだけなら必要ないものの気がするのに、どうして私たちの中には恋なんていうプログラムが仕組まれているんだろうね。
不思議で、素敵で、ちょっぴり切ない。

きっと、今までも、これからも、この花火みたいな宇宙の中で、数えきれないほどの恋が、生まれては消えていく。

その儚さを思えば思うほど、余計に、今ここに在る何かを確かめたくなるんだ。


……ねぇ。花火が終わっても、まだ一緒にいたいって言ったら、困る?
こんな夜は、一人になりたくない気分なんだ。

永遠なんかじゃなくても、この夜の間だけにしか存在しないものだとしても、今、ここに在るものを確かめていたい。
溺れてしまってもいいから、この儚くて寂しい、花火みたいな宇宙や命のことを、忘れさせていて欲しい。
……誰でもいいわけじゃ、ないよ。


こんな気持ちになるのも、仕組まれたプログラムに踊らされてるだけなのかな?

――それでも、いいよ。
それでも私は、この気持ちに出逢えて良かったって、思うから。


ねぇ、たぶん最期の瞬間に振り返れば、百年の人生だって、あっと言う間のあっけないものに思えるんだろうね。
でも――それでも『この世界に生まれて来て良かった』って、そう思えるほどの“何か”は、きっと在るよ。
私はもう、それを知っているのかも知れない。


ねぇ、一秒でも長く、そばにいてね。
永遠じゃなくてもいいから、できる限り長く、一緒にいてね。
花火みたいに広がり続ける、儚い、この宇宙の中で……。

 

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タイトル
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乙女商人のサクセス・ストーリー…のプロローグ
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JUGEMテーマ:オリジナル創作

 

「ねぇ、私、おかしくないわよね?変な恰好になっていたりしないわよね?」
同じ問いをしつこいくらいに繰り返し、ローゼリットはそわそわと落ち着きなく鏡の前を歩き回る。答えを求められたメイドは苦笑しながら太鼓判を押す。
「大丈夫です、お嬢様。御招待客のどの御令嬢にも負けない完璧なドレスです」
「そんなことは分かっているわ。問題はドレスじゃないの。中身なのよ」
メイドを返答に困らせる一言を言い放ち、ローゼリットは既に整えられた前髪の微調整を始める。
「今更何をなさっておいでなのです。そろそろおいでくださいませんとパーティーを始められませんよ」
皮肉とも呆れともつかぬ声に振り向くと、そこにはローゼリットのよく見知った顔があった。
「ウォルフレッド、どうしてここにいるの?私、入室を許可した覚えはないのだけれど」
ローゼリットはささやかな抵抗とばかりに突き放すが、ウォルフレッドは意にも介さない。
「それはそれは失礼致しました。まさかお嬢様がこの時間に未だグズグズと控えの間にいらっしゃるとは思いもしなかったものですから」
あからさまな皮肉を返され、ローゼリットは拗ねたように頬をふくらませた。
「だって、どうしたってこのドレスが似合う気がしないのですもの。こんな恰好でパーティーに出たら、皆に笑われてしまいそうだわ」
「そのようなことを悩んでいらしたのですか。典型的な被害妄想ですね。スノゥフリッツ家の御令嬢であるあなたを笑い者にする勇気のある人間などいませんよ。この国で当家の援助を全く受けずに暮らしている者が一体どれほどいると思っているのです?」
「でも、それとこれとは話が別でしょう?私、知っているのよ。皆、表向きはお父様に感謝しているけれど、裏ではうちのことを『成金』と蔑んでいるのでしょう?」
その瞬間、ウォルフレッドの双眸が眼鏡の奥で冷たく光った。
「『成金』ですか。どんな王侯貴族も元をたどれば“ただの人”でしょうに。そんなに面白くないものなのでしょうかね、ただの人間が自分たちよりも上の立場に成り上がるのは」
その毒舌の容赦の無さに、ローゼリットの方があわててしまう。
「言葉が過ぎるわ、ウォルフレッド。誰かに聞き咎められでもしたら、ただでは済まないわよ」
「おっと。私としたことが、ついつい口が滑ってしまったようですね。ですが、ここにいらっしゃるお二方は私の他愛のない戯言を誰かに告げ口なさるような方ではございませんでしょう?」
ウォルフレッドはそう言って、取ってつけたような微笑みを浮かべた。その笑顔にローゼリットは呆れ、メイドの方は呆けたように見惚れる。
「さて、お嬢様。会場入りする御覚悟は決まりましたか?早くいらしてくださらないと、予定より一刻以上も早くお着きになってしまわれたあなたの婚約者様が、暇を持て余して何を始められるか分からないのですが」
「レオン……じゃなくて、殿下がもういらしてるの!?ウォルフレッドったら、それを先に行って頂戴!」
ローゼリットはつい先ほどまで前髪ひとつに散々迷って時間をかけていたことも忘れ、弾丸のように部屋を飛び出して行った。その背を見送り、ウォルフレッド『やれやれ』とでも言いたげに吐息する。
「お嬢様も御苦労なことだ。あの歳でもう未来の御夫君のお守をしなければならないとは」
そんなウォルフレッドに、メイドがおそるおそるといった感じで声を掛ける。
「あの、ウォルフレッド様。このようなこと、あなたがなさらずともよろしいのでは?お嬢様をお呼びするためだけにわざわざこちらへ足をお運びになるなんて……。あなたはお屋敷の使用人ではなく、スノゥフリッツ商会の番頭(ヘッド・クラーク)ですのに」
その問いに、ウォルフレッドは振り向くこともなく皮肉な笑みで答えを返す。
「使用人だよ、私は。屋敷ではなく商会に籍を置いているというだけの、な」


ローゼリットの婚約者は会場の大広間に入る前に見つかった。
中庭で十数羽の兎たちと戯れていた彼は、ローゼリットに気づくと屈託のない笑みを見せた。
「ローゼリット!久しぶりだね」
「レオ……じゃなくて……殿下!何をなさっておいでなのですか!?あぁ……もうっ、そんな恰好で動物と触れ合ったりして……御衣装に毛がつくではありませんか!」
「『レオン』でいいよ、ロゼ。ここには僕と君しかいないみたいだし」
「そんなことより御自分の恰好の方を気にしてください!もうパーティーが始まるまで時間が無いのですよ!?」
「あぁ、そうか。じゃあ急がないとだね。僕も早く『未来の義父上』にお会いしたいし」
「だから、その前に兎の毛をお取りになってください!そんな姿を他の方々に見られでもしたら、また何を言われるか分かりませんよ!」
なかなか噛み合わない会話にイライラしながら、ローゼリットは彼の手を取り立ち上がらせる。
ローゼリットより二つ年上の彼は、彼女がまだ赤子のうちに定められた将来の結婚相手だった。名はレオニウス・ゴルド・リプレブルーエン。ブルーエン王国の国王と平民出身の第五王妃との間に生まれた、王位継承権第11位の王子である。
ローゼリットが彼をメイドたちの控室へ引っ張って行くと、中にいたメイドの一人が悲鳴を上げた。
「殿下!またそんなに動物の毛をお付けになって……今度は何をなさったのですか!?」
「……また(・・)?」
ローゼリットが問うような眼差しを向けると、レオニウスは無邪気に事情を説明しだす。
「離宮を出て来る時、ウチのコたちに飛びつかれてね。頭の良いコたちだから、服装や皆の態度だけで、僕がどこかへ出掛けるのを察したんだろうね。皆して『行かないで』って引きとめるから、大変だったよ。仕方がないから小さいコたちは馬車に乗せてギリギリまで一緒に連れて来たし」
「え……?」
ローゼリットが凍りついたように動きを止めた。
「何を、どこまで連れて来たとおっしゃいました?」
「うん。だから、ウチの小さいワンコたちを、馬車に乗せてこの屋敷まで……」
ローゼリットはレオニウスの言葉を最後まで聞くこともなく顔面を怒りで真っ赤にして叫んだ。
「この屋敷に、犬を!?何っってことをしてくれたの!私が大の犬嫌いだってこと、あなたも知ってるでしょう!?」
「お嬢様!敬語!敬語を忘れてます!」
メイドがあわててたしなめるが、ローゼリットの耳には入らない。
「だいたい、パーティーに小犬連れで来るなんてどういうことなのよ!?離宮の人たちは何をしていたの!?誰もあなたを止めなかったの!?」
いきり立つローゼリットを不思議そうに眺め、レオニウスはのんびりと口を開く。
「そんなに怒らなくても、犬たちはちゃんと君の目の届かない所に預けてあるから大丈夫だよ。それより、いいのかい?急がないとパーティーが始まってしまうんだろう?」
あまりに緊張感の無い物言いに、怒っていた自分が馬鹿らしくなり、ローゼリットは大きな溜め息をついて何とか心を落ち着かせた。
「そうだったわね。もういいわ。さっさと身だしなみを整えて行きましょう。今日は大事なお父様の壮行会なのですもの」


ローゼリットの父、グリンフィルド・スノゥフリッツは、十代の頃から商いの世界で頭角を現し始め、持ち前の行動力と商才で一代にしてブルーエン王国一の豪商に昇りつめた男だ。その財力はブルーエン王国のみならず、その近隣諸国や貿易相手国にも影響を及ぼすほどであり、彼の周囲には常に、その恩恵に与ろうという人々が群がって来る。
「相変わらず、すごい人出ね。ルゥバードを置いてきて正解だったわ」
部屋で寝ている病弱な弟のことを思い、ローゼリットは密かに安堵の息を洩らす。
「ああ、ルゥはまた寝込んでいるのかい?道理で姿が見えないと思った。……大丈夫なのか?君たちのお母上も御病弱だったようだし、もし良かったら王宮の御典医に診てもらえるよう取り計らうけど」
「……そうね。必要なようだったらお願いするわ。たぶん、大丈夫だと思うけれど……」
言葉を濁し、ローゼリットは物思わしげに溜め息をつく。
八つ年下の弟・ルゥバードのことは、昔から彼女の心配の種の一つだった。母の命と引き換えに生まれてきたルゥバードは、容姿も身体の弱さも母親にそっくりで、幼い頃から何かといっては熱を出し、床に伏せっていた。ローゼリットは亡き母と留守がちな父に代わり、この弟に精一杯の愛情を注いできたのだ。
「かかりつけのお医者様は、身体よりも精神的なものが原因なのではないかとおっしゃるの。あの子は一度もお母様の胸に抱かれたことがないし、お父様もお仕事で忙しいでしょう?この上、私までもがいなくなってしまったらと思うと……考えるのが恐いわ」
「なるほど。じゃあルゥが一人立ちするまで、君はうちにお嫁に来れないね」
さらりと言われ、ローゼリットは一瞬きょとんとした後、激しくうろたえた。
「い、いきなり何を言ってるのよ」
「何って、僕、何かおかしなことを言ったかい?」
「おかしな……と言うか、その……意味が分かって言っているの?それ」
目を逸らしボソボソとつぶやいた言葉は、レオニウスには届かなかった。
「あ!『未来の義父上』がいらっしゃった!御挨拶に伺わなくては……。じゃあ、ロゼ。また後で」
今しがた会場入りしたグリンフィルドに気を取られ、レオニウスははしゃいだ声を上げながらローゼリットのそばから去って行ってしまった。その瞳はきらきら輝き、頬は紅潮して、今の彼は普段のどこか浮世離れした雰囲気が嘘のように、年相応の少年らしく見える。ローゼリットの心中は複雑だった。
「レオンったら……。本当は私と結婚したいわけじゃなくて、ただ単にお父様の義理の息子になりたいだけなのではないでしょうね」
「そのお考えは案外、的を射たものかも知れませんね。殿下はあの通り、うちの旦那様のことを実の父君のように慕ってらっしゃいますし」
いつの間にそこにいたのか、背後からふいに声を掛けられ、ローゼリットはビクリと身をすくめる。
「ウォルフレッド。乙女の一人言を盗み聞きするなんて趣味が悪いわ」
「失礼。たまたま通りかかったら聞こえてしまったものですから。それで、お嬢様の方はどうお考えなのですか?本気で殿下のお妃になりたいと思っていらっしゃるのですか?」
ウォルフレッドの問いに、ローゼリットはしばし無言になる。
「……分からないわ。物心ついた頃から決まっていたことだし、当たり前のこと過ぎて実感が無いのよ。正直、これで本当にいいのかと思うこともあるわ。だって私、殿下のこと、放っておけない男友達くらいにしか思えないのだもの」
「後悔なさいませんよう、よくよくお考えになった方がよろしいですよ。ご婚約と言っても、旦那様と国王陛下との間で交わされた他愛の無い口約束なのでしょう?……おや、その御婚約者様がお貴族の御令嬢に囲まれてらっしゃいますよ。いかがなさいます?」
「放っておいて良いわよ。下手に邪魔しようものなら恨まれてしまうわ。それにどうせ、どんなアプローチをしても殿下にはまるで通じないのだから」
「あぁ。殿下は今時珍しい純粋無垢なお方ですからねぇ」
レオニウスは貴族の令嬢たちに周りを取り囲まれ、何事か話しかけられている。令嬢たちは皆、熱を帯びた瞳でレオニウスを見つめているが、レオニウスは相変わらずのほほんとした様子で、令嬢たちの視線の意味も、そもそもなぜ話しかけられているのかさえ、まるで分かっていないようだった。
「……まぁ、見た目は申し分ないのよね。熱を上げる御令嬢がたくさんいるのも頷けるわ。あれで、もう少し頼りがいのある性格で、なおかつ一般常識をわきまえてくだされば、言うことはないのだけど」
まるで“絵物語から抜け出してきた王子様”そのままのレオニウスの容姿を遠目に眺めながら、ローゼリットはしみじみと呟く。
「それはいささか難しいご注文ですね。仮にも王族であらせられる殿下に我々一般庶民の常識を御理解いただくのは至難の業でしょうし、それにあの(・・)旦那様の御令嬢であるあなたの目から見て『頼りがいのある』男など、そうはいませんでしょう?」
「……そうなのよね。私って結局、男の方を見る目の基準が、うちのお父様なのよ。でも、あのお父様と肩を並べらえれる男の方なんて、そうそういるはずないものね……」
ぼんやりと呟くローゼリットは、気づいていなかった。すぐそばで彼女を見つめるウォルフレッドの瞳の色に。
もしこの時、彼女が少しでも振り向いて、彼が自分へ向ける眼差しに気づいていたなら、この先訪れる運命を、回避することができたかも知れないというのに……。

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秘密の恋は、胸の奥に隠したまま
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 初めから叶わないことが前提だなんて、ひどい恋もあったものだ。
もっとも、『初恋は叶わない』ものと、どうやら相場は決まっているらしいが。

そもそも恋する相手を自分で選べるなら、これまでにこんな苦労を味わうこともなかっただろうに。
人生なんて、本当、自分では(まま)ならない、厄介なものだ。


初めて会ったのは……俺がまだ小学生の時、か。
最初は確か、戸惑うばかりだった気がするな。家の中に見知らぬ女の人がいる違和感に。
初めて会って、いきなり数ヶ月後に家族になる、なんて言われても、実感も()かないし、どう受け止めていいのか分からなかったよ。

ただ、綺麗な人だとは思った。
顔かたちがどうこうじゃなくて、その真っ直ぐに伸びた髪の柔らかな(つや)だとか、クリーム色のこざっぱりしたスーツに包まれた、ピンとした背筋だとか、見ているだけで安心するような落ち着いた微笑みだとかが……。

 
何だか、今までに出会ったことのない、理想の大人の姿のように見えて。

ぎこちない態度の俺にも、あなたは優しくしてくれていたな。
『くん』付けで名前を呼んで、綺麗に微笑んでくれて。

嬉しくて、どこか気恥ずかしくて、どぎまぎしっ放しだったのを覚えている。
あなたの目に、当時の俺はどう見えていたんだろうな。


子どもだったあの頃は、まだ良かったな。
ただ戸惑うだけで済んでいたんだから。

 
一番苦しかったのは、やっぱり中学生になって、あなたへの想いを自覚してからだった気がする。
それが許されない想いだなんてこと、さすがに分かりきっていたし。

だけど、本当に一番怖かったのは、モラルでも世間の目でもなく、あなたにこの気持ちを知られることだった。

夫に対して何の不満も無い人妻が、俺みたいなガキにそういう目を向けてくれるはずなんてないことを、俺はちゃんと分かっていたし、何の期待も希望も抱いてはいなかった。

 
だから、あなたへの想いがバレて『気持ちの悪い子』と思われたり、距離を置かれたりすることだけを、ただひたすらに恐れていた。

あの頃は、正直、あなたと目を合わせることさえ恐かったよ。
 
町を出て遠くの学校を選んだのは、捨てようにも捨てられないあなたへの恋心を、物理的に距離を置くことで(あきら)めようと思ったからだった。
当たり前に近くの学校を受けると思っていた親父を説得するのには、かなり骨が折れたけど……。

でも俺の目論見(もくろみ)は、半分以上は成功していたと思う。
あなたの姿が目に入らない遠くの学校で、部活にも入って、毎日遅くまで必死に練習していれば、自然とあなたを想わずにいる時間も長くなっていった。

あなたへの想いは気の迷いだったのだと思い込もうとして、軽い気持ちで女子とつき合ってみたりもした。
だけど、たまに地元へ帰って、あなたと会うと、否応なしに思い知らされてしまうんだ。

俺が恋だと思い込もうとしていたアレは、恋なんかじゃない。
あなたと一緒にいる時と、“彼女”と一緒にいる時では、胸の(うず)きから何から、まるで違うってことを。


だけど、それでも、この想いを明かす気は、さらさら湧いては来なかった。
それをしても得るものなんか一つも無く、何もかもを失うだけだってのは、思い悩むまでもなく分かりきっていたことだから。

――ただ単に、想いを告げる勇気も、未練を断ち切る覚悟も無かっただけだろうと、そう言う人もいるかも知れない。
だけど俺は、これで良かったと思っているんだ。

きっと、叶えるだけが恋じゃない。
想いを伝えるだけが恋じゃない。
胸の奥に大事に隠して、誰にも触れさせずにひっそりと守り続ける……そんな恋があってもいいだろう?


あなたと出逢ってから、既に数十年もの時が過ぎ、俺は何とかこの想いに折り合いをつけた。
あなたに対する想いとは種類が少し違っても、共に人生を過ごしていきたいと思うような女性にも出逢えたよ。

……でも、それでも……やっぱり初恋ってヤツは“別格”なのかも知れない。


最近、あなたは歳を気にするようになった。
俺が帰省するたびに「もうすっかり、おばあちゃんでしょ?」なんて自嘲するように言って、小ジワの増えた顔でおっとりと笑う。

 
俺が「そんなことないですよ。ちっとも変わらないですよ」なんて言っても、あなたはお世辞だと思って信じてはくれない。
……俺は結構、本気で言っているのにな。

あなたのことを、そんなにカンタンに“おばあさん”だとか“おばさん”だとか思えるなら、俺も少しはラクになれたのに。

どれだけ歳をとろうと、容姿が変わろうと、俺の中であなたはずっと、出逢ったあの日の印象のまま。
今でもふとした仕草や微笑みに、綺麗だなんて思ってしまうんだ。

 
本当、初恋ってヤツは自分でも儘ならない、幾つになっても性懲りもなく胸をくすぐってくる厄介なシロモノだ。


だけど、俺はひょっとすると、そんな厄介な物思いを味わうために、わざわざあなたに会いに来ているのかも知れない。

実らなかった夢や、手に入らなかった宝物を遠くに眺めて愛しむように、叶わなかったからこそ、今なお綺麗なままで胸の奥底に灯り続けるこの恋を、眩しく、哀しく、甘酸っぱくもほろ苦く味わうために……。

 

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シャークスキン王国奪還記(仮)プロローグ
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JUGEMテーマ:ファンタジー小説

 

 いつも始まりは、その大階段の所だった。大理石の、幅の広い階段。吹きぬけのホールの天井には華麗なシャンデリアがかかっていて……自分――いや、その人は、そんな階段を必死に駆け上っていく。走りながら、名を叫ぶ。
「シヴェット……!シヴェット……陛下……っ!」
 白亜の宮殿、という形容がピッタリとハマりそうな美しい城内の、鏡のような廊下を、半ば滑るようにその人は走っていく。この“夢”のラスト・シーンの舞台である、あの部屋へと……。
 その部屋は、城内でもひと際豪華で巨大な白い扉の向こうにあった。その人は、息を切らしながらノックもせずに扉を開く。
 その人の探していた人物――シャークスキン王国国王シヴェット・クール・シャンブレーは熱風に髪をなぶらせ、一人バルコニーから城下を見下ろしていた。戦火に燃える城下を……。
「シヴェット……陛下、ここにいらしたのですね」
 その人は安心したように吐息し、バルコニーに立つ主の元へ歩み寄っていった。
 シヴェットは静かに振り向く。王とは言え、まだ20代そこそこの年若き青年である。未だ少年の頃の面影を残したその顔には、だが、一切の表情が無かった。
「……ご覧の通りです。この城に踏み込まれるのも、もはや時間の問題でしょう。早くお逃げになってください」
 その人は苦い声で王に告げる。だが、彼は顔色ひとつ変えずに言った。
「私は逃げぬ」
「……え?」
「民を見捨て己だけ助かろうとは思わぬ」
「諦めないでください!今は国を奪われようと、生きてさえいれば、いずれ取り戻せる日も……」
「……おめおめと王都にまで敵の侵入を許してしまった私には、到底無理なことだ。私は、あの皇帝と戦えるだけの器ではなかった。選択を誤り、国を焼き、民の血を流した報いは受けねばなるまい」
 王は目を伏せ、静かに言葉を紡ぐ。その人は、耐えられないとでも言うように首を振り、叫んだ。
「それでも……!貴方を守るのが私の使命です!貴方と、この国を守ることが……!」
 王は、どこか憐れむような眼差しでじっとこちらを見つめていた。
「…………それに、これは貴方のせいなんかじゃない。全ての元凶は……」
 言いかけた言葉は、すぐに遮られた。
「それは違う。それを言うなら、全ての原因はお前をこの国に連れてきた私……いや、俺にある。お前の背負う運命も何もかも知った上で……それでも俺は、お前をこの国――俺のそばに連れて来ることを選んだ。俺ならお前をその運命から守れると思っていた。……とんだ思い上がりだったがな。結果は、王として守るべき国さえも巻き込んで、このザマだ」
 少年の頃のくだけた口調に戻り、王は苦笑した。
「だが、それでも俺は……お前をこの国へ連れて来て良かったと思っている。民たちも、お前を恨んでなどいないだろう。お前は、この国の民に幸福をもたらしてくれた。そして民たちも、お前のことを心から敬愛していた。たとえ今日この国が滅びようと、それだけは変わることなき真実だ」
「シヴェット……頼むから、死ぬなんて言うな。お前が死んだら、私はまた……」
 その人もまた、それまでの言葉遣いを棄て、まるで親友に語りかけるかのように王に懇願する。涙が頬をつたう感触がした。
「……最後まで、ひどい奴だな、お前は。そんな顔で、そんなことを言わないでくれ。俺の望みを受け入れる気もないくせに」
 言葉ではなじりながらも、その顔と声は苦笑のままだった。
「シヴェット……私は…………」
 その人は、何かを言おうとして、だが、何も言えずに黙り込む。
「……分かっている。ひどいのは俺の方だな。お前の運命を知りながら、最後の最後まで性懲りもなく、わずかな期待に縋っている。もう、妻も娘もいるというのにな」
「シヴェット……」
「ヴェルヴェットは先に逃がした。お前は、王女と共に逃げろ」
 王は未練を振り切るようにキッパリと告げた。
「姫を頼む。勝手だとは思うが、私ではなく、私亡き後の王位を継ぐあの子を、お前の“守るべきもの”に……」
 そこで、言葉は途切れた。遠く城下から、青い閃光が放たれ、一瞬でバルコニーに立つ青年の胸を貫いた。
 氷の矢。本来なら、ヒトの持つはずのないチカラ……。
 喉から悲鳴が迸るのが分かった。だが、それは耳には聴こえない。全ての音声が、その場から消え去る。音だけでなく、世界自体、闇に堕ちたようにブラックアウトする。
 それが何度も繰り返されてきたその“悪夢”の、“夢の終わり”だった。
 
「いやあぁぁあぁぁっ!」
 少女は絶叫し、その声で目が覚めた。額も背中も汗ばみ、頬には涙がつたっている。
 少女は心を落ち着かせようと大きく息を吸い込み、両膝を抱えてベッドの中にうずくまった。
(これで、何度目なんだろう、この夢……)
 もう、数えるのも億劫になってしまうほどに繰り返し見る悪夢。初めのうちは恐くて、眠るのさえイヤなほどだった。
 頭を押さえてため息をつくと、コンコンとノックの音が聞こえた。
「リンネル、ちょっと入ってもいいかの?」
「……うん。おじいちゃん」
 リンネルが言うと、ランプを片手に持った老人が姿を現した。リンネルのただ一人の家族、フランネルだ。
「また、あの夢か?」
 フランネルが訊くと、リンネルはこっくりとうなずいた。
「お前も難儀じゃのう。過去の出来事を夢に見るのは占術師としての潜在能力が高い証ではあるのじゃが……その夢が王国滅亡の日の夢とはのぅ……。能力を抑える方法も、きちんとした占術師が里におれば分かるのにのぅ……」
「……しかたがないよ。王国滅びたのに、こうして帝国の奴隷にもならずに生き延びられてるだけで“もうけもの”なんだから。あんまりゼイタクは言えないでしょ。それに、夢の中だし最後には死んじゃうとは言え、今はもういない王様の姿をハッキリ見られるなんてラッキーだし」
「お前は本当にシヴェット陛下のことが好きなんじゃな」
「うん!だって超イケメンだし!……でも、あの王様の顔って、何っとなく、どこかで見たことある気がするんだよねぇ……。何でなんだろう?王国滅びた頃って、私、赤ちゃんだったはずなのに。ねぇ、おじいちゃん。私、王国にいた頃、王様と直接会ったこととかあるの?」
「……どうじゃろうのぅ。覚えておらんのぅ」
 フランネルはどこかはぐらかすようにそう言った。
「……にしても、あの夢、誰の見てる光景なんだろう……。ずっと、誰かの視点から物を見てる感じなんだけど。たぶん、国の重要人物で、王様とも仲が良い感じで、王様の最期を見届けた…………ねぇ、おじいちゃん。そういう人、この里にいる?」
 リンネルの住む里・アリッサムは、帝国の侵攻から逃れたシャークスキン王国の住民――それも、一般庶民ではなく、国の重要機関の要職に就いていた人物やその子どもたちの暮らす隠れ里だ。だから、リンネルの夢の“主人公”である人物がいたとしてもおかしくはない――そう思って訊いたのだが、フランネルは首を横に振り、ふっと真面目な顔になって呟いた。
「……ひょっとするとその夢、死霊の見る夢なのやも知れんのぅ……」
「……え?何?」
「……いいや、ただのひとり言じゃよ」
 

 

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この気持ちを恋と呼んでも良いのなら、
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JUGEMテーマ:恋愛小説

 

 遠く離れた今になって、君のことばかり思い出すよ。
 もしかしてあれは、恋だったんじゃないか……なんて。
 
 “今更”な話かも知れないね。
 あの頃に、ちゃんと気づけていたら良かったのにね。
 
 この街は思っていた通り、圧倒的に人工物が多いよ。
 あの町にいた頃は、東西南北どこを向いても視界に山が映っていたのに、コンクリートとアスファルトに囲まれたこの街では、周りにどんな山や川があるのか、ここがどんな場所なのかすら、よく分からない。
  
 特に、地下鉄から繋がる迷路みたいな地下通路は最悪だよ。
 案内表示通りに進んでいるはずなのに、気づけば全然別の場所に出ていたりするんだもの。

 
 もう東京へ来て何ヶ月も経つのに、未だに、いつも使っているルート以外の道へは、恐くて入れない。
 最初のうちは何度もここで迷って遅刻しそうになったもの。

 
 一度なんて、あわてて走っていたら、通路で派手に転んじゃったこともあるよ。

 
 鞄の中身が床にばらばらこぼれて、履き慣れてないパンプスが片足だけすっぽ抜けて飛んで行っちゃった。
 人目を気にして、ひとりで焦って散らばったものを拾いながら……何だかちょっぴり泣きたくなったよ。

 
 ばかだよね。上京するって決めたのは、私なのに。
 
 君と居たあの町が、嫌いだったわけじゃないよ。
 むしろ、離れ難いくらいに好きだった。
 
 何でもない田んぼの中の道も、遮るもののない広い空も、その縁を囲むように青いグラデーションで重なった山々も。
  
 でも、それでも、東京の街や、そこでの暮らしを一生知ることなく、あの町の中だけで終わっていくのは、嫌だったんだ。
 自分の可能性を試してみたい――なんて、今にして思えば、世間知らずの無謀な思い上がりだったのかも知れないけど。
  
 町を離れる日、始発なのに見送ってくれたよね。
 まだ外は暗くて、ホームには私たち以外誰もいなくて、白い息を吐きながら、自販機で買ったホット・ミルクティーで指をあたためていたっけ。
  
 あの時、君は何かを言おうとして……でもたぶん、本当に言いたいことは口にしないまま、笑って「頑張れよ」って言ってくれたよね。
  
 私、気づいてたけど、訊けなかった。
 君のことはずっと、一番仲のいい男友達だと思っていたから。
 
 小学校の頃から一緒で、小さい頃にはヤンチャな遊びもいっぱいした、気心の知れた親友。
 恋人とかじゃないからこそ、気楽に何でも言えて、いつもそばにいて安心した。
  
 ……本当は、君が時々何かを言いたげに私を見ていること、知ってたよ。
 でも、気のせいだって自分に言い聞かせてた。
 
 君が私を好きかも知れない、なんて――そんなの自惚れだって。
 特に美人でも何でもない私が、誰かに恋されてるだなんて、そんなのただの勘違いだって。
 
 ……でも、本当は恐かったのかも知れない。
 
 もし君が告白してきたとしても、私はどう答えればいいのか分からなかったから。 
 君のことを恋人として好きになれるかどうかなんて、分からなかったから。
 
 関係が、変にこじれてしまうのが、恐かった。
  
 なのに、あの時聞けなかった君の言葉が……君が呑み込んで隠してしまった本音が、今でも胸にモヤモヤとくすぶっているんだ。
  
 だからかな。
 遠く離れた今になって、君のことばかり考えてしまうんだ。
 もしかしたら、これは恋なんじゃないか……なんて。
  
 面白いものを見つけた時、君にも教えてあげたいのに、スマホのメッセージだけじゃ上手く伝えられなくて、もどかしくなる。
 
 辛いことがあった時、『今となりに君がいてくれたらいいのにな』って、思ってしまう。
 通路で転んだ時だって、そばに君がいてくれたなら、きっと笑い話に変えられたのに。
  
 この気持ちは、恋なのかな。
 それとも単なる甘えとか、ホーム・シックとかなのかな。
 自分でも、よく分からない。
  
 ただ、心が重く沈んだ時、空を見上げて思うんだ。
 今もあの町で、縁をぐるっと山に切り取られた凸凹の空の下にいる君のことを。
 
 私がこの街で必死に生きてるように、君も今頃あの町で、君の選んだ道を頑張っているのかなって。
 そんな君の姿を思うだけで、心がふわりと軽くなるんだ。
 私も頑張ろうって、そう思えるんだ。
  
 この、パステルをぼかしたみたいに淡くて、ふわふわと優しいばかりの気持ちが、恋なのかどうかは分からない。
 でも、恋だったらいいのになって、思うよ。
  
 この気持ちを恋と呼んでも良いのなら、今度こそ訊ける気がするから。
  
 あの時、君が封印した言葉。
 あの夜明け前の駅で聞けなかった君の本当の言葉を、今、私は逃げずにちゃんと知りたいと思っているんだ。
 

 

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初恋が実らない理由
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JUGEMテーマ:小話

 

 俺って、 ( ) い彼氏じゃなかったよな。 
告白もデートの約束も、ほとんど君に任せきりで。

 
だから、こういう結末になったのは、ごく自然で当たり前で、仕方のないことなんだろうけど……。


君が何で俺を好きになってくれたのか、実は未だによく分からないんだ。

 
俺は口も上手くないし、面白味のある人間でもない。

 
クラスの人気者たちを、教室の隅からそっと羨ましがってる――そんな人間だって自覚していたからね。

 
正直、俺のことを好きになってくれる女子なんて、いないんじゃないかとさえ思っていたよ。

 
だから、君に『好き』だと言われた時は半信半疑で、『ひょっとして罰ゲームかドッキリなんじゃ…?』と疑ったりもした。

 
だけど、君の緊張に震える声や、不安そうな目が、コレを現実だと訴えかけてきて……すごく、ドキドキしたのを覚えている。


嬉しくて、そのまま流されるように君とつき合いだしたけど……思えば俺は、誰かとつき合う覚悟なんて、全然できていなかったんだ。

 

初めての彼女という存在に舞い上がった俺は、恋愛漫画の ひな形 ( テンプレ ) をなぞるように“恋人らしい”シチュエーションを実行するのに夢中で、君が何を望んでいるのかなんて、考えることもできなかった。


俺のキャラにも合わなければ君のシュミにも合っていないデート・コースはものの見事に空回って、互いをギクシャクさせるばかりだったよな。

 
おまけに俺は、彼氏らしくカッコつけられない自分に勝手に凹んでテンション下がりまくりで、一生懸命会話を続けようとしてくれた君の話にも半分上の空だった。

 
俺は“楽しい”どころじゃなかったけど、きっと君は俺以上に、あのデートを楽しめなかっただろうね。

 
……そんな風に、君の気持ちに思いを馳せられるようになったのさえ、実は今頃になって、やっとのことなんだ。


あの頃の俺は何となく、人間関係っていうのは一度形ができ上がれば、よほどのことがない限り、ずっとそのまま続いていくものだと思っていた。

 
だけど、違うんだな。

 
どんなに立派に形を整えてコンクリートで岸を固めても、流れる水が無くなれば、そこが川でなくなるように、日々の会話だとか、デートの回数だとか、そういうものが少なくなればなるほど、関係は曖昧(あいまい)になっていく。


気づいていたのに――いや、途中でやっと気づけたのに、俺はそれでも動けなかった。

 
君との心の距離が離れていくほどに、何を言ったらいいのか分からなくなった。

 
君の反応が恐くて、自分から動くことができなかった。
――そんな不安や恐さなんて、きっと君も同じだっただろうに。


恋愛ってやつは、告白したりされたりして彼氏彼女になれれば、それで終わりのハッピーエンドじゃないんだな。

 
そこからつき合いを持続させていくには、それ相応の労力が要る。
俺はその労力を、きっと君だけに負わせていたんだ。

 
告白が君からだったことを理由にして。自分のコミュ力が低いことを言い訳にして――。

 
そうして君が一人背負ったソレに押しつぶされて、疲れ果てて、俺とのつき合いをやめたくなったのも、当然の結果だったんだろうな。


あの日、あの時――告白してきたのが君じゃなかったとしても、俺はつき合っていたかも知れない。

 
あの時、あの瞬間まで、俺にとっての君はそれくらいの存在でしかなかった。でも、今は違う。

 
俺のことを初めて好きになってくれたのは、君だった。

 
家族でもない異性と、あんなに長く、いろいろなことを話したのは、君が初めてだった。

 
初めてデートしたのも、初めて、恋人として手を繋いだのも……。

 
君の手に触れる、たったそれだけのことに、何度も何度も飽きるんじゃないかってくらいに躊躇(ためら)って、緊張して、東京タワーからバンジーするくらいの勇気が必要だったんだ。

 
あんなに心臓が震えたのも、甘酸っぱいような、くすぐったいような不思議な気持ちになったのも、全部、君が初めてだったんだ。


君と言葉を交わすたび、君とふれ合うたび、どんどん君が特別な人間になっていった。

 
クラスの他の女子たちとは明らかに違う、他の誰にも代えられない、俺にとってのたった一人……そんな存在がいるってだけで、何だか俺の人生自体が、今までとはまるで違って思えたんだ。


それなのに……俺は結局、この恋を守れなかった。


「初恋は実らない」ってジンクスの理由、今の俺には分かる気がするよ。
たぶん初めて恋をする頃には、皆まだいろいろ未熟過ぎて、その恋を実が結ばれるまで守ることができないんだ。


俺の初恋はこれまで、小学2年の時のことだと思ってきたけど、君を知った今となっては、あれは恋とも呼べない淡い憧れでしかなかったのだと思っている。

 
俺にとっての本当の初恋は、きっと君だ。

 
そしてこの初恋は、やっぱり実を結ぶことなく終わろうとしている。


ごめんな。サヨナラを切り出すのまで、君任せにしてしまった。
俺からは、どうしても言えなかったから。

ごめんな。結局俺はきっと、君を傷つけるばかりだった。

 
「もっと 早くに ( ・・・ ) 出逢えていたら…」って言葉がよくあるけど、俺は「もっと 遅くに ( ・・・ ) 君と逢えていたら」と思うよ。

 
こんなにコミュニケーション能力も精神も未熟な俺じゃなかったら……もっと人生経験を積んで、今よりもっと上手く人とつき合えるようになった俺だったら、君との恋を途中で散らせることもなく、ちゃんと成就できたかも知れないのに。


……サヨナラ。引き留めようとは思ってないよ。

 
引き留めたところで、俺はすぐには変われない。
きっとまだ当分は、君を悲しませる俺のままだ。

……なんて、物分かりの良いフリをしたって、本当は、引き留めて、拒絶されて、傷つくのが恐いだけなのかも知れないけど。


ごめんな。最後なのに、気の利いた言葉ひとつ、思いつけない。
辛そうな君を慰める言葉ひとつ、出て来ない。

 
人間 ( ひと ) はどれだけの歳月を重ねれば――どれほどの経験を積めば、相手を傷つけず、誰も悲しませずに恋ができるんだろう。


君は、信じてくれないかも知れない。
「私だけが、ただ一方的に好きだった」と思っているかも知れない。

 
だけど、俺はちゃんと好きだったよ。君のことが。
人生で、初めての恋だった。

 
……なんて、今さら言うこともできやしないけど。


きっと、俺は君をすぐには忘れられない。
君の新たな幸せを素直に願えるほど大人でもない。

 
だから今はただ、この恋が俺にとっても、君にとっても、ただ辛いだけの心のキズではなくなるように……いつか、ほろ苦く、懐かしく振り返れるような、そんな思い出に変わってくれればいいと、そんな風に祈っているんだ。

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