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言ノ葉スクラップ・ブッキング〜シーン&シチュ妄想してみた。〜

管理人が妄想したシーンやシチュエーションをショート・ストーリー(?)にしたもの。
ジャンルはファンタジー・恋愛などなど。

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明治時代・怪盗ファンタジー小説(途中部分のみ)
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JUGEMテーマ:時代小説

 

 満月の下での出会いを果たしたあの日から、青流の頭の中には旭の面影がしっかり棲みついてしまった。
 あの日以来、何をしていてもふとした瞬間に旭の顔が脳裏を過ぎる。
 それは夜に見た金髪碧眼の少女の姿だったり、昼に見た少女か少年か判断のつかない黒目黒髪の姿だったり、その時々で姿が違う。だがそのどちらの姿も、思い浮かぶたびに青流の胸をひどく揺らし、脈拍を速めた。
 青流は今日も道を歩きながらぼけっとあの日の旭の笑顔を何度も何度も頭の中に蘇らせていた。
 ふと、やけに視線を感じると思って辺りを見渡せば、青流はいつの間にか雪ヶ崎の屋敷の傍近くを歩いていた。資産家の屋敷ばかりが立ち並ぶこの辺りではボロ布をつなぎ合せたような青流の格好はひどく目につく。道行く人々に不審の目で見られるのも当然だった。
(……何でこんな所に来てんだ、俺。用も無ぇのに……)
 自嘲するような笑みを浮かべ踵を返そうとしたその時、すぐ近くから聞き覚えのある声が降ってきた。
「青流か?こんな所で何をしているんだ」
 顔を上げてその姿をみとめ、青流は「それはこっちの台詞だ」と思った。
「あんたの方こそ何やってんだよ?」
 旭は屋敷の塀に両手をかけ、ぶら下がっていた。
「いや。君が乗り越えて来たくらいだから僕にもできないものかと試してみたんだが、よじ登ったはいいものの降りられなくてな。助けてくれないか?」
 旭はひどく呑気な声で助けを求めてくる。
「……本当に何やってんだよ」
 青流は呆れた顔で旭に手を貸した。
「有難う。助かった」
「あんた、頭いいかと思ってたけど案外抜けてるんだな」
「ああ。僕の頭は必要な時にだけ働かせて特に必要の無い時は休めているんだ。効率のいい使い方をしていると言ってくれ」
「いや、全然効率良くねぇだろ、それ。現にさっきは危ない目に遭ってたじゃねぇか」
「はは。それもそうだな」
 あっさり認めて旭は笑う。
「ところで君がここにいるということは、うちに何か用があるのか?」
 問われ、青流は顔を引き攣らせた。まさか、旭のことをぼんやり考えているうちにいつの間にかここへ来ていたなどという本当のことを、本人に言えるはずもない。
「べ、べつに。用なんか無ぇよ!たまたま通りかかっただけだ。たまたま!」
「そうか。たまたま青流が通りかかって助かった。流石にこの高さから飛び降りれば足を痛くしただろうからな」
 旭は青流の言動に何の疑問も抱いていないように邪気の無い顔で笑った。
「ところで、用が無いなら今は暇か?助けられた礼に茶でも御馳走したいのだが」
「いや。いいって、そんなの。俺が屋敷にいると師匠とかいろいろうるさいし」
「大丈夫。霧峰もおじい様も今は留守にしているから」
 笑顔で手を引かれ、青流はその手のひらの柔らかさに、思わずびくりとしてそれを振り払った。
「何だ?うちに来るのはそんなに嫌か?」
「いや、違……、その……っ」
 何にうろたえているのかも分からぬまま、真っ赤な顔で首を振る。
「違う?なら、来てくれるんだな?良かった。ちょうど暇をしていたところだ。しばらくつき合ってくれ」
「うっ、いや、その……」
 青流はしばし逡巡した。
 勝手に屋敷に上がったことを霧峰に知られたら絶対にいい顔はされないだろう。それどころか表面上は平素通りに振る舞いながら、青流に与える情報にさらりと嘘を紛れ込ませたりして嫌がらせしてくる可能性がある。
 それも任務を失敗するほどの重大な偽りではなく、任務は果たせるが一歩間違えば逃走に失敗し捕縛されてしまうような、心臓に悪い偽情報。
 そして後に青流がそのことを追及すれば、うっかり間違えて違う情報を渡してしまった、などと平然と嘯くのだ。霧峰はそういう男だ。
 断ろうと思い顔を上げると、旭はひどく期待の籠もった眼差しで青流を見つめていた。気のせいか、その瞳はきらきら輝いているようにさえ見える。
「あの……な」
「大丈夫。霧峰やおじい様には内緒にしておくよう屋敷の者たちには口止めする」
 先回りして言われ、青流は断る口実を失ってしまった。
「…………まあ、いいか」
 最早逡巡するのにも疲れ果て、結局青流は招きに応じることにした。途端、旭が顔を輝かせる。その顔に、青流はただ困ったように頭を掻いた。
 
「旭様!?いつの間にお外へいらしてたんですか!?というか、その子供は何です!?そんな汚らしい子供を勝手に屋敷に入れたりして……旦那様に叱られますよ!?」
 邸内に足を踏み入れると、すぐに一人の青年が走り寄って来た。歳の頃二十代前半。おそらくは雪ヶ崎家の書生と思しき袴姿の青年。この前は見なかった顔だ。
「こら利三郎。僕の客人に対して失礼なことを言うな。だいたい、外見で人を判断するなど器の小さい男のすることだぞ」
「器の小さい男で構いませんとも。もし旭様に万一のことでもあれば私どもが旦那様に殺されます」
「いくらおじい様でもそこまでは…………やらないと思うが」
 後半、ひどく自信無さげに声を小さくして、旭は考え込むように下を向いてしまった。
「だが、まあ安心しろ。青流は僕に危害を加えることはないから」
「……本当ですか?」
「ああ。だいたい、僕と背丈もそう変わらないような少年に何ができると思うんだ?そんなにいちいち案じるな」
 笑いながら利三郎の肩を叩き、そのまま行き過ぎようとして、旭はふと思い出したように振り返る。
「ああ、そうだ。縫に茶を運ぶよう言っておいてくれ。それと、青流が今日ここへ来たことはおじい様と霧峰には言うなよ?さもないと、あのことをおじい様のお耳に入れるからな」
 旭がそれを口にした途端、利三郎は顔色を変えた。
「あ、あのこと……ですか?」
「ああ。だから、言うなよ?」
 にこりと笑みさえ浮かべて釘を刺し、青流の袖を引いて歩き出す。その後も廊下で出会う者出会う者、全てに同様の口封じをしていく。旭の私室にたどり着く頃には青流はすっかり呆れ果てていた。
「……あんた、そうやって屋敷中の人間の弱み全て握ってんじゃねぇだろうな?」
「こんな屋敷の中に閉じ込められていると他にすることも無いからな。だがちゃんと、知られると本人が気に病む類の弱みには目を瞑っているぞ。ああやって時々、ほとんど罪の無いような些細な弱みを、融通を利かせてもらうのに利用しているくらいで」
 言いながら、旭は扉を閉める。室内に二人きりになると、旭は改まって青流に向き直り、深々と頭を下げた。
「先刻はすまなかった。家中の者が不快な思いをさせた」
 今までされたこともないほどの丁寧な謝罪に青流の方が慌てる。
「ちょ……っ、いいって!頭なんか下げるなよ!それってアレだろ?さっきの『汚らしい子供』とかいうアレだろ?あんなの、俺たちみたいな育ちの良くねぇ人間には慣れっこだから!」
「そうか。慣れているのか。……苦労しているのだな」
 気にしないで欲しくて言ったのに旭は再び表情を沈ませる。青流は焦って無理矢理話題を変えようと、わざとらしく声を上げながら室内をぐるりと見渡した。
「そ、それにしてもさすが雪ヶ崎家だなー。見たことの無いもんがいっぱいだ」
 御曹子の私室らしく、室内の調度品はどれも豪華なものばかりだった。日本家屋の中であれば浮いてしまいそうな繊細な彫刻を施した洋風家具。飾棚の上に置かれた、青流が今まで目にしたこともないような珍しい品の数々。見渡しているうちに、青流は本気で目を奪われ興奮してきた。
「……つーか何だ、コレ?すげぇ!何か分かんねぇけど何かすげぇ!どうなってんだ、これ。何する物なんだ!?」
 舶来品の脇棚の上に無造作に置かれた不思議な形をした装置を、青流は食い入るように覗き込んだ。
「……何か分からないのにそこまで感心できる方がむしろ凄いな。それは幻燈機だ。どこかの師範学校に納められる予定で作られたものを、おじい様が倍以上の金を出して先取り……あ、いや、譲ってもらってきたらしい」
 仕方の無いおじい様だ、とでも言うように旭はこめかみを指で押さえ吐息した。
「ゲントウキ?」
「幻燈板に描かれた絵を光を使って壁や布に映し出す装置だ。夜の闇の中や、黒い布で囲って暗くした部屋の中でないと見られないから今は見せてあげられないがな」
「はー……。何だかよく分からんが、すごいものなんだな」
「青流はそういうカラクリ仕掛けの物が好きなのか?」
「いや、べつにそういうわけじゃなくてさ。目新しい物なら割と何でも好きなんだけどよ」 
 言いながら、青流は尚もまじまじと幻燈機を眺める。感心したように何度も溜息をついて眺めながらも、手で触れることはせず、ただ噛り付くように間近に顔を寄せて見入る青流に、旭は笑いながら声をかけた。
「べつに触れても構わないんだぞ」
「いや。いいよ。壊したら困るし」
(こんな高そうなカラクリに俺みたいなのが手を触れていいわけがない……)
 本来なら自分は、この屋敷の中に足を踏み入れることさえ許されない立場なのだから……。
 自嘲するようにそんなことを思いながら、青流はその装置から身を離した。
「しかし、こんな珍しい物をほいほい買い与えるくらいだから、あんた、本当に可愛がられてるんだな」
「いや……。おじい様達は僕を屋敷の中だけに閉じ込めておきたいらしいからな。屋敷の中で楽しめる娯楽を与えて、僕が外に興味を持つことのないように仕向ける魂胆なのだろう」
「閉じ込めておきたいって何でだ?お前が女だと分かるとマズいからか?それともお前が月織部とかいう一族だからか?」
「女ではないと言っているだろうが。……それより、霧峰はお前に月織部のことまで教えているのだな」
 やれやれとでも言いたげな旭の顔に青流は己の失言に気づき冷や汗をかいた。
 霧峰の教えてくれた秘密は、おそらく本来は雪ヶ崎の『駒』である青流にさえ明かしてはならぬ超極秘事項だったはずだ。だから青流を送るという名目で屋敷の外へ出てからこっそり教えてくれたのだろうに。
「あ、あのな、聞いたのはこの前あんたに会った日が初めてだぞ。他言は絶対しないし!」
「べつに責めているわけではない。世に広めたい類のものでないことは確かだが、他言したところで大概の人間には一笑に付されて終わりだろうしな。むしろ、あの時はすまなかったな。君の言葉を夢幻で片付けようとして。……しかし夢幻と思ってくれていた方が君のためではあったんだ。話を聞いてしまった以上忘れろと言っても無理な話だろうが……あまり深入りはしない方がいい。いくら青流が霧峰の身内とは言え、これは命に関わることだからな」
「いや、無理だろ。深入りするなも何も、俺、もう頭の天辺までずっぽりと雪ヶ崎に埋もれてるって自覚があるんだが」
 言ってしまってから、青流はハッと口を押さえた。雪ヶ崎の繁栄の裏に青流の盗賊行為があるなど、旭に知られてはならない。
 だが旭は眉一つ動かさず、青流の言葉など聞いていなかったかのように話を続ける。
「雪ヶ崎と月織部の争いに巻き込まれたら命が無い、という意味で言ったのだが……もしかしてここまでは知らなかったか?」
 旭は青流の顔をじっと見つめながら探るように言葉を重ね、青流が何も知らないという顔をしているのに気づくと「しまった」というように顔を強張らせた。
「……何だ、それ。聞いてねぇぞ、そんなこと」
「深入りするなとさっき言ったばかりだろう?知らない方が身のためだ」
「深入りするなも何も、師匠が雪ヶ崎に関わってる限り、何かあったら絶対に俺も巻き込まれる!それだったら自分の身に及ぶかもしれない危険のことくらいは知っておくべきだろう」
「……それもそうだな」
 旭はこめかみを押さえて吐息した。わずかの間を置き、諦めたように口を開く。
「月織部がどういう一族なのかは霧峰から聞いているな?」
「ああ。月の光を糸にして、その糸で何でも織れるっていう妙な力を持った一族なんだろ?」
「妙って……」
 旭は一瞬むっとしたように眉を上げ何か言いかけたが、すぐに諦めたように椅子に深く身を沈めた。
「まあ、いいが。月織部一族は帝都から見て東北に位置する小国で、国主・花遠家の庇護の下、穏かに暮らしてきた。その庇護を失わぬよう、国主一族と縁戚関係を結び、時にはその力を国のために揮い、表向きは古くから国の中枢にあった名家として、な。そして、雪ヶ崎も元はその国で代々家老職を務めてきた家だ。月織部とは代々首席家老を争う家同士で仲はあまり良くなかったのだが……ある事件を契機に両家の溝が決定的なものになってしまった」
「ある事件……?」
「清道……私の父が、母を半ば攫うようにして駆落ちしたんだ。母は月織部の姫とでも言うべき特別な地位にあった人で、その位を降りるまでは嫁ぐことも許されぬ身だった。そして父は月織部家の天敵とも言うべき雪ヶ崎家の嫡男。いくら二人が想い合っていてもその立場上、結ばれることはどうしても不可能だった。だから父は母を連れて国を出たのだが……。月織部はそれを、雪ヶ崎家が月織部の姫をかどわかしたのだと受け止めた。そして……」
「そして?」
 続きを促したが、旭はその先は言葉を濁した。
「……そして、いろいろあって……当時家老の地位にあったおじい様は職を辞し、国にもいられなくなった。そうして東京へ出て来て……結果的には、奥羽諸国と政府との戦にも巻き込まれずに済み、それどころか運良く一代で財を成すことができ、今のような大きな家になれた。だが……十四年近く経った今でも月織部の雪ヶ崎に対する恨みは晴れていないんだ」
「恨みが晴れてないって……まさか、報復でも企んでるって言うのかよ?」
「……確証は無いが、そういう動きがあってもおかしくはないな。或いは報復などではなく、もっと別のことを考えているか……」
「別のこと?」
 詳しく訊こうとしたその矢先、青流の問いを遮るように扉を叩く音が響いた。
「失礼致します。旭様、お茶をお持ちしました」
 茶器の載った盆を持ち入室して来たのは、あの夜に見た女性だった。彼女は青流の顔を見るとにこりと笑う。
「まあ、旭様。そちらの方はこの間の盗人さんですね?」
「ああ。青流だ。青流、こちらは縫。古くから雪ヶ崎家に仕えてくれている」
「ようございましたね、旭様。同じ年頃のご友人ができて」
 茶器と、茶菓子の盛られた小皿を円卓に並べながら、縫は旭に優しく微笑みかける。
「友人……か。そうなれれば良いのだがな……」
 独り言のような静かな声で言いながら、旭は答えを求めるように青流の顔を見た。
「いや、友人って……。俺みたいな馬の骨があんたみたいなお嬢……あ、いや、お坊ちゃんと友人てのはおかしいだろう」
「友誼を結ぶのに生まれ育ちなど関わりが無いだろう?大切なのはお互いの気持ちだけだと思うが」
 はっきりした口調で言い切られ、青流は思わず感情のままに「なら、友人になっても良いぜ」と口走りそうになった。が、寸前で頭をかすめたものが、青流の口を止める。
 脳裏を過ぎったのは、帝都の闇に潜む己の姿。ただでさえ暗い夜の帝都を、月明かりを避け影から影へと飛び渡る、闇に染まりきった己の姿だった。
 改めて向かいに座る旭の姿を見る。丈の高い仏蘭西窓から差し込む日射しを浴びて、その姿は明るい光に包まれて見える。改めて己と旭の住む世界の違いを思い、青流は円卓の下で固く拳を握り締めた。
「それでも……俺は、あんたの友人にゃなれねぇよ」
「……そうか」
 旭はひどく静かな声でそれだけを言うと、視線を手元に落としてしまう。縫は気遣うように旭を見ていたが、結局何も言わずに一礼して部屋を出て行った。
 

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異国へ嫁ぐ王女と、その教育係 〜A Tribute to (※)Catarina de Braganca〜(王女視点Version)
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JUGEMテーマ:恋愛小説

 

 貴方を“先生”と呼べるのも、きっと今日が最後でしょう。
 私は間も無く、海の向こうの遠い国へと嫁ぐ。
 初めから分かっていたことだというのに、その事実を未だに受け止めきれずにいる私がいる。

 思えば私の運命は、とても数奇なものだと思う。
 本来ならば旧王家の血を引いてはいても、一介の公爵令嬢であったはずなのに、父が革命により新王に即位したばかりに、私は齢2才にしてこの国の王女となった。

 きっと誰もが羨むであろうこの立場は、けれど同時に、祖国を守る義務を負う、とても重いものでもあった。
 物心ついた時には既に、国を守るための同盟の証として、海を隔てた異国の王太子との結婚が定められていた。そして、次期王妃としての教育を叩き込まれる日々……。
 けれど、そんな運命が、私と貴方を出会わせてくれた。

 思えば私、無神経な子どもだったと思うわ。会ったばかりの貴方に、
「あなた、本当に私の先生なの?私、先生って、もっとお年を召した真っ白な髪のおじいさんだと思っていたのに」
だなんて……。
 貴方が思っていたよりずっと若かったものだから、びっくりして、思わず言ってしまったの。
 ムッとさせてしまっていたなら、ごめんなさい。
 でも貴方は不快な顔なんて一度も見せずに、いつでも私に優しくしてくれた。

 見も知らぬ異国の言葉や文化を学ぶことを嫌がる私に、貴方は楽しい話や美しい話をたくさん聞かせてくれたわね。
 英雄王と円卓の騎士の伝説に、妖精や幻獣の登場するお伽話(フェアリーテイル)、今ではもう何のために造られたのかも分からない不思議な環状列柱巨石の話……。
 私が嫁ぐ彼の国が、恐ろしい所などではなく、とても素敵な所なのだと、私に教えてくれた。
 貴方のおかげで、まだ一度も行ったことのない彼の国のことを、今では身近に感じられるほどよ。

 十代で嫁ぐことが当たり前の今の世の中で、きっと私も十代のうら若き乙女として嫁いでいくものと思っていた。
 けれど私に用意された運命は、そんな単純で当たり前なものでは決してなかった。

 私が齢11になったその年、嫁ぎ先となるべき彼の国では、政変により王が処刑され、事実上の新王となった王太子も、国を追われて他国へ身を寄せることとなった。
 それから実に十年以上、私の縁談は宙に浮いたままとなってしまった。

 いつしか私は幼い少女から大人の女へと変わっていた。
 けれど、恋ができる年齢になったところで、私には他の令嬢たちのように宮廷での恋のさや当てを楽しむことなど許されない。どう転ぶかも分からない婚約に縛られたまま、律儀に身を慎むしかない日々……。
『誰からも手を触れられずに朽ちていくだけの花』『お可哀想なお姫様』――宮廷の陰で囁かれるそんな憐れみの声は、耳を塞ぎたくても聞こえてきた。
 哀しくて、寂しくて、いたたまれなくて、恥ずかしくて……けれど、そんな感情を表に出してしまえば余計にみじめになるだけだから、せめて王女として、毅然と、堂々と、この国の淑女の模範のように振る舞っていたわ。
 ……けれど、知らず胸に溜まっていた鬱憤は、ふとしたきっかけで表へ溢れ出してしまった……。

「ねぇ、先生。私の嫁ぐべき“国”は、もうなくなってしまったのでしょう?」
 思わずそんなことを口にしてしまったのは、いつものように貴方が彼の国の歴史や文化を講義してくれている最中のことだった。
「どれだけ知識を詰め込もうと、無駄なのではなくて?だって、私はもう嫁ぐべき王家(いえ)を失ってしまったのですもの。どうせこのまま一生夫を持つこともなく、いずれは修道院にでも送られる身なのでしょう?」

 
 これまで誰にも見せてこなかった怒りや嘆きを、どうして貴方にぶつけてしまったのかしら。たぶん、貴方がこの国で、彼の国のことに深い知識を持つ数少ない人間だったせいなのでしょうけれど……。

 
「……そんなことはございません。彼の国では既に、新体制に不満を抱き、王政の復古を求める民の声が広がりつつあるとのことです。いずれは王家の復活も充分あり得ることかと……」
 どんなに彼の国のことに詳しくても、貴方に彼の国の政治を動かす力も、私の婚約をどうこうすることもできはしない。心の底では分かってたはずなのに、私は尚も、困らせるようなことを言ってしまった。
「そうかも知れませんね。でも、それは何年後のことなのですか?一年?五年?それとも十年、二十年先?その頃には私、結婚適齢期などとうに過ぎてしまっているでしょう」
 それはただのヒステリーで、八つ当たりでしかなかったのに、貴方は怒ることもなく、優しい言葉を返してくれた。
「大丈夫です。たとえ十年経とうと、二十年経とうと、貴女はきっとお美しいままですから。幾つになろうと色あせることのないそのお姿を目にすれば、ご夫君となられる国王陛下も、国民たちも、きっと歓喜の声で貴女を迎えることでしょう。貴女はそれだけの魅力を持った、愛すべき姫君です。何も心配することなどありませんよ」
 今にして思えば、王女である私に対するただのおべっかだったのかも知れない。
 でも、その言葉に私は救われた。歳を重ねることを恐れずにいられるようになった。

 
 けれど、同時に知ってしまった。
 貴方より優しい人を、私は知らない。貴方ほど私のことを考えてくれる人なんて、きっと他にはいない。
 なのに、私が運命で定められた相手は貴方ではない。
 そのことが哀しくて、胸が痛くて……気づいてしまった。私はいつの間にか、貴方に恋していたのだと。
 
 どうして人は、恋をすべき相手にちゃんと恋することができずに、違う相手に恋してしまったりするのかしら。
 それとも、運命を裏切っているのは、本当は人類の方?
 本能により恋すべき相手を偽り、人類の歴史にとって都合の良い相手に、まやかしの恋をさせようとする……。
 ……けれど、いずれにせよ、王女である私に選択肢は無い。ただ恋せよと定められた相手に嫁ぐしかない。
 せめてそれが、ただ幸せなばかりの婚姻であったなら、気持ちの整理のつけようもあったのでしょうが……。

 貴方との最後の授業は、授業と言うよりも、ただの茶飲み話になっていた。
 思いがけず長くなった貴方との師弟関係の中で、彼の国の王妃として必要な知識は、もう充分過ぎるほどに教えてもらっていたから。
 お気に入りの茶を楽しんでいると、ふと貴方は、こんな忠告をしてきた。
「彼の国では、こういった“お茶”はあまり飲まれていないようです。あちらでもお茶を召し上がりたいなら、茶葉を船便で送れるよう、手配なさっておくのがよろしいかと存じます」
 今日がきっと最後なのに、貴方はまるで変わらない。嫁いだ後の私のことまで心配してくれるのは嬉しいのだけれど、もっと他に言って欲しいことがたくさんあるのに。
「まぁ。お茶を飲まないと言うなら、彼の国では普段、何を飲んでいるのでしょう?」
 わざと大袈裟に不思議がってみせる。声は震えていないかしら。顔は曇っていないかしら。
 平気なふりをしているけれど、心の中は嵐のように揺れている。貴方とこれでお別れだなんて、考えたくない。
「あちらで飲み物(ドリンク)と言えば、専らワインやエールなどの酒類を指すそうです。あちらで飲み物をご所望の際には、くれぐれもお気をつけください。ただ『何か飲み物を(サムシング・トゥ・ドリンク)』と仰るだけでは、昼からでも酒を供されるでしょうから」
「そうですね。あちらへ嫁ぐ際には、お茶の葉も持って行くことにしましょう。何もかもが違う異国の宮廷で一人戦うことになっても、馴染んだこのお茶の香りを嗅げば、きっと心が慰められるでしょうから」
 きっと、このお茶の香りを嗅ぐたびに、思い出せる。今、ここでこうして貴方とお茶を飲んだことを。
「『戦う』……?一体、何と戦うと仰るのですか?」
「女の戦い、ですわ。先生もご存知でしょう?彼の国の伯爵夫人の噂は」
 私の嫁ぐ彼の国の王には、既に幾人もの愛人がいる。中でも伯爵夫人の称号を与えられた女性は気が強くプライドも高く、新国王夫妻の暮らすことになる宮殿に自らも住むと言って聞かないらしい。
「私の夫となる方は、私より八つ年上ですものね。私が嫁げずにいた十年余りの間に他に()好い方ができても仕方がないのかも知れません。けれど私も祖国の命運を担って嫁ぐ以上、黙ってお飾りになり下がるわけにはいきませんから」
 挑むような眼差しで、私は告げる。元より政略のための結婚、そこに愛なんて求めても空しいだけ。私はただ、私の義務を果たしに行くだけ……そう、自分に言い聞かせるように。
 けれど、そんな私を見つめる貴方の目は、とても哀しげな色をしていた。
 憐れんでくれているのかしら?それとも、気づかれてしまった?……強がっていても、本当はこの運命が悲しくて、逃げ出したいとさえ思っていることを。そんなこと、できはしないと分かっているけれど。
「I love you.」
 逃げ出したりしないから。せめて一度だけ、他愛のない“悪戯”を許して。
 貴方に言いたくて、でも言えなくて、ずっと胸に隠していた言葉――それを、貴方に教えてもらった彼の国の言葉でそっと囁く。
 貴方は息を呑んで……驚きのあまり、固まってしまった。その唇から言葉が零れるより先に、私はわざと悪戯っぽく笑ってみせる。
「彼の国で愛を告げるには、こう言えばよろしいのですよね?先生」
 ただの悪戯だと、笑顔と言葉で示してみせる。否定の言葉も、肯定の言葉も言わせない。
 どちらにせよ、叶うことのない恋だから。聞きたくないし、聞くのが恐い。私は、ずるいの。
「……まったく、貴女という御方は……」
 貴方は『してやられた』という顔をした後、何かお小言でも言おうとしたのかしら。口を開きかけ……けれど何故か、そのまま何も言わず、じっと私を見つめてきた。
 ひょっとして、気づかれてしまった……?これが、ただの悪戯なんかじゃないって。
 貴方の瞳が何かを探るように、真っ直ぐ私を見つめてくる。私は真実が暴かれるのではないかと恐れながらも、その瞳から目を逸らせなかった。
 貴方のその瞳を見られるのも、きっと今日が最後だから。
「……先生。私、貴女に教えてもらったこと、絶対に忘れません。何も知らない異国の王妃と馬鹿になんてさせません。貴女に教えてもらったこの知識を武器に、私はこの国を背負う王女として、彼の国の王妃として、堂々と戦ってみせます」
 貴方にもらったものは、あまりにも大きい。貴方に育ててもらった“私”自身を武器に、私は運命と戦うつもり。たとえ、もうそばに貴方がいてくれないとしても……。
「ねぇ、先生。『異国へ嫁ぐ女は、もう二度と祖国の土を踏めないことを覚悟しなければならない』と言われましたけど……いつか、王妃としての役割が終わった頃に、たった一度でも帰れる機会があることを夢見るくらいは、許されるでしょうか?」
 今日が最後と、何度も自分に言い聞かせているくせに、こんな望みの薄い“夢”に縋ろうとするなんて、愚かかしら。
「その時は、またこうして私と一緒にお茶を飲んでくださる?その頃にはもう、貴方も私も、真っ白な髪のおじいさん、おばあさんでしょうけど」
 でも、こんなささやかな“夢”がひとつでもあれば、少しは希望を持って生きられる気がするの。
 もしも、いつか本当にそんな機会が来るとしたら……その時には、許されるかしら。『あの時の告白、本当は悪戯なんかじゃなかったの』なんて、思い出話のついでのように告げても……。

 貴方と出逢って十七年。気がつけば、ずっと貴方がそばにいてくれた。
 父よりも母よりも近いところで、大切に私を見守ってくれていた。
 私のワガママも、怒りや嘆きも、他の誰も知らない涙も、全部受け止めてくれた。
 そんな貴方から離れて、苦労が待ち受けていると分かりきっている場所へ嫁ぐなんて、本当は恐くて仕方がない。
 けれど、隣国の脅威に晒され続けるこの国には、彼の国との同盟がどうしても必要だということも、痛いほどに分かっている。
 だから、覚悟を決めるしかない。私にはもう、前に進むことしかできないのだ。

 いつもと変わらず茶を口に運びながら、私はわずかな時間も惜しんで、貴方の姿を胸に刻む。
 貴方の存在は、もう私の日常の一部にさえなっているのに、明日からはその姿を見ることもできないなんて、信じられない。
 悲しいけれど、きっとこれが初めから定められていた、私と貴方の運命。そもそもこの運命が無ければ、貴方が私の先生として、私の前に現れることもなかったのだもの。

 貴方はまるで、口づけでもするように優しく茶に唇をつける。
 その仕草に密かにときめきながら、私も、茶の液体を介して貴方と接吻でもするかのように、そっと茶に唇をつけた。

 


(※)英語名は Catherine of Braganza。イギリスに茶を飲む習慣をもたらしたとされるポルトガル王女。
(当初は紅茶ではなく緑茶やウーロン茶に近い半発酵茶。)

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明治時代・恋愛・怪盗・異能バトル・ファンタジー小説(序盤のみ)
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JUGEMテーマ:時代小説

 

 まぶたを上げると、世界は一面朱金の色に変じていた。西の地平に沈む間際の太陽の色。一瞬、太陽が落ちてきたのかと本気で思った。
 無意識に太陽を探して空を仰ぐ。見上げた空は、暗かった。だがそれは太陽が落ちたからではない。まるで墨が溶けて空ににじみ出したかのように、黒いものが空を覆っている。下の方は濃く黒く、上の方へ行くに従ってだんだんと薄くなるそれの向こうに、淡い春の青空と、白金に光る太陽が透けて見えた。
 そして、その空をひらひらと朱く、小さな羽虫のように舞い飛ぶものがある。いくつもいくつも、空を彩る模様のように無数に頭上を飛び回るそれは――火の粉。辺り一面を覆う炎が吹き上げる、朱色の炎の欠片。

 ――銀座の町が、燃えている。

 青流 (  せいる ) は悲鳴を上げて飛び起きようとした。だが、身体が上手く動かない。
「……何てこった。家が……」
 呆然としたような呟きが小さな震動と共に伝わってきた。それは目の前の背中から発せられたもの。青流を背に負った父親の声。
「父ちゃん!母ちゃんは!?」
 叫ぶと、父親はハッとしたように辺りを見回し始めた。
「……っ、善吉さん!」
 逃げ惑う人々の中に顔見知りを見つけ、父親は青流を背負ったまま駆け寄る。
「航さん……」
 善吉と呼ばれたその男は何故か父親から目を逸らした。
「波は!?波を見なかったか!?」
 母の安否を必死に問うその声を、青流は背中で聞いていた。
「……すまない、航さん。波さんは……まだあの中だ。逃げろって言ったんだが、商売道具を燃やしちまうわけにはいかないって言って……そのうちに火が移って来て……。助けられなかったんだ。すまない」
 父親は一瞬無言になった。
「……謝ることは無ぇよ、善吉さん。早く逃げな。身重の女房をいつまでもこんな所に置いておいちゃいけねぇ」
 父親の言葉に男は頭を下げながら妻の手を取り去って行った。
「父ちゃん……」
 不安をにじませた声で呼ぶと、父親は静かに青流を道に降ろした。
「青流。おとなしくここで待っていろ。何があっても父ちゃんの後をついて来るんじゃねぇぞ」
 今にも駆け出そうとする父親の、その着物の裾を青流は必死に掴んで止めた。
「何処行くんだ、父ちゃん」
「母ちゃんを助けに行く。絶対母ちゃん連れて戻って来るから心配すんな」
「駄目だ。危ないよ!」
 青流は着物の裾を握り締めたまま激しく首を横に振る。その頭が、優しくぽんと叩かれた。
「大丈夫。江戸っ子は火事と喧嘩にゃ慣れっこなんだよ。お前だって母ちゃんをあの中に残しておきたくはないだろ?」
「それはそうだけど……っ」
「それにな、惚れた女のために命を懸けるのが男の道ってもんだ。ま、お前にゃまだ分かんないだろうがな」
「父ちゃん……っ」
 固く裾を握り締めていたはずの指が、大きな手でゆっくりと外される。そして笑み一つを残し、父親は炎の中へと飛び込んで行った。
「父ちゃん!父ちゃん……っ!」
 必死に呼んでも、その背中は振り返らない。
 ただ一人残された青流は立ち尽くして叫ぶことしかできなかった。
 その背が紅蓮の炎に隔てられ見えなくなっても、青流は呼び続けた。声が嗄れ、涙で舌が回らなくなっても。最早どんなに叫んでも父親には届かないと知っていても。ずっと――……。

 

 脳裏に響いたかつての己の絶叫に、青流は何かをこらえるようにきつく歯を食いしばった。
閉じていた目を開ける。目に映るのは、月光の下ぼんやりと白く浮かび上がる煉瓦街の街並み。道を照らすのは禍々しいほどの紅蓮に燃えさかる劫火ではなく、ロウソクの灯火のようにやわらかな、ガス燈の灯り。夜の深い闇の中静かに眠る街は炎に包まれてなどいない。当然のことだ。あれはもう十年近くも昔のことなのだから。
 二階家の屋根の上に立って見下ろす銀座の街は、青流の記憶が夢か幻ででもあるかのように美しく整然と立ち並んでいる。かつて炎に焼き尽くされ、炭と瓦礫に埋めつくされていた頃の面影はまるで無い。それどころか火事で失われる以前の江戸の名残を残した木造平屋の立ち並ぶ町並みの面影さえ、もうどこにも見出せなかった。
 首を振って記憶の残滓を振り払い、かたわらに下げていた布袋を担ぎ上げる。ずしりと肩に食い込んで重いそれを担ぎ上げたまま、青流は屋根の上を一気に駆けた。助走をつけ、屋根を蹴り、次の建物へと飛び移る。白く降り注ぐ月光の下、身にまとった漆黒の外套が鳥の翼のようにばさりと翻った。
「……おい。あれ、『 ( からす ) 』じゃないか?」
 ガス燈の下、酔いを醒ますようにへたり込んでいた数人の酔っ払いが青流の姿を目に留め騒ぎ出す。
「おう!本当だ!烏だ!『闇夜の烏』が出たぞ!」
 屋根の下から自分を指して叫ぶ人々の声に、青流の口元には知らず笑みが浮かんだ。闇に身を紛れさせるために身につけた黒い外套。それが鴉の翼のように見えるために名付けられたしごく安直な俗称だが、悪くはない。
 酔っ払いたちは青流の後を追うように空を仰ぎながら路上をよたよたと走り出す。その目に敵意や嫌悪の色はまるで無い。そこにあるのは世を騒がせる義賊に対する好奇心と憧憬の色だけだ。
屋根を飛び移る際に再び垣間見えたその姿に酔っ払いたちは歓声を上げ、口々に喝采を叫ぶ。
「よっ!大義賊っ!」
「次も頼むぞ〜!闇夜の烏!」
「絶対捕まんなよ!夜烏〜っ!」
「頑張れよ〜!烏小僧!」
 最後のひと声に、青流の片足がずるりと滑る。慌てて体勢を立て直し、再び屋根から屋根に飛び移りながら彼は口の中だけで苦々しく呟いた。
「烏小僧ってのは無いだろ。烏『小僧』ってのは」
 月の下に飛ぶ影はまだ大人になりきれていない、どこか頼りないもの。闇夜の烏と呼ばれた盗賊は『小僧』と呼ばれるにふさわしい年若い少年の姿をしていた。

 

 煉瓦造の近代建築の群れを抜け、街灯も無い昔ながらの木造家屋の群れを抜け、なおも青流は走り続ける。目指す先は浜離宮にも程近い芝区・新網町。青流の古巣であり東京府下三大 貧民窟 ( スラム ) のひとつにも数えられるそこは貧民や咎人たちの吹き溜まりだった。
 まるでマッチ箱をいくつも並べたような、屋根が低く間口の狭い小さな家々のひしめき合う中を慣れた足取りで通り抜け、青流はひとつの建物の前で足を止めた。藁葺きと言うにもお粗末な、腐って数もまばらになった藁を屋根に当たる部分に引っ掛けただけの掘っ立て小屋。その戸口に近い地面の上を、青流は月明かりを頼りに凝視する。
 そこにはあるのは地面に突き刺さった木の枝。細い小枝を十字に組んで浅く掘った地面に埋めてある。それはあらかじめ決めてある、この家の本来の主が不在だという合図だ。安堵の息をつき、余分な者を起こさぬようできるだけ静かに戸を叩く。
「虎、虎。いるか?」
 しばらくの間を置いて、木戸がガタガタ音を立てて開いた。
「烏のあんちゃん」
 顔を出したのは歳の頃七、八歳の少年。
「親方はいないな?」
「うん。今日は稼ぎが良かったから、その金持って賭博宿に行ってる。きっと明日の昼までは帰って来ないよ」
「そうか。ほら、今日の分。分かってるだろうが、親方には絶対見つかるんじゃねぇぞ」
 小さな手に布袋の中から掴み出したものを渡してやる。袋の中で揺さぶられて多少よれてしまった幾枚かの紙幣。それは今夜盗み出して来たばかりの『闇夜の烏』の戦利品だった。
「いいか?ちゃんと皆で分けて使うんだぞ。次はいつ渡してやれるか分からないから少しはどこかに隠してとっておいて、な」
「こんなに……。いいの?」
「いいって。俺も元はお前らと同じ身の上だしな」
「すごいなぁ、烏のあんちゃんは。元はおれたちと同じなのに、今は立派な義賊様だもんな。おれもいつか、あんちゃんみたいになれるかな?」
 純粋な憧れを込めて見上げてくるその瞳に、青流の胸がずきりと痛んだ。どこか後ろめたさに似たその胸の痛みを押し隠し、髪が伸びきってボサボサに乱れた小さな頭をぽんぽんと叩く。
「……ばか。盗人なんか目指すんじゃねぇよ。どうせ目指すならお天道様の下を堂々と胸張って歩けるような立派なカタギの職でも目指しな」
「……うん」
 少年の顔がくもる。青流にも分かっていた。一度この境遇に堕ちた子どもが真っ当な職に就くことなど奇跡に近い。だが、それでも自分を目指すなどとは言って欲しくなかった。貧民のための義賊として一部の人間に熱狂的にもてはやされる盗賊・闇夜の烏。だが自分が本当は『義賊』などではないことを青流は痛いほど自覚している。
「じゃあ、俺はもう行くからな。他の奴らにもよろしくな」
 感傷を振りきり、だいぶ傾いてきた月を見上げる。今夜はまだ会わねばならない人がいる。
「うん。ありがとう、烏のあんちゃん。これからも頑張ってくれよなっ」
 幼い声で告げられる応援の言葉に笑みを作って手を振り、青流はその場所を後にした。

 

 明治十五年。繁華街のガス燈が珍しいものではなくなっても、まだ多くの人々が月の光や星明かりを頼りに夜を過ごすこの時代。黒い外套を身にまとい夜の帝都の屋根の上を軽々と跳び渡る少年盗賊が巷の話題をさらっていた。
 夜烏天狗、烏小僧、闇夜の烏など、書かれる新聞によってその呼び名は様々だが大半の人々の間では『烏』と言えば話が通じる。
資産家の屋敷に忍び込んで大金を盗み取り貧民窟にばらまくその行動は『明治の義賊』として一般庶民の間では概ね好意的に受け入れられていた。
 だが、一見無作為に盗みに入っているように見せかけて、実はその裏に巧妙に隠された意図があることにまだ誰も気づいてはいなかった。全てはひとりの人間の野望のために。義賊などというのは世間を欺くために作り上げられた偽りの姿に過ぎない。本当の青流はその野望のために操られる単なる駒に過ぎないのだ。

 

「……なんだ。まだ来てないのかよ」
 青流は廃寺の扉を開いたままの格好で立ち尽くし、吐き捨てるようにぼやいた。帝都の中でも人の住む集落からはやや離れた所にある、その存在すら忘れられてしまっているような廃寺。そこは彼のねぐらのひとつであり、今夜の待ち人との待ち合わせの場所でもあった。
 すっかり軽くなった袋を下ろし、外套を外す。待ち人は今夜も遅れているようだ。
 今にも踏み抜いてしまいそうなぎしぎしと軋む床に腰を下ろし、袋の中から盗んだ金を取り出し数える。帰り着くまでの間にほとんど貧民窟の路地にばらまいて来てしまったので残った額は微々たるものだ。それでも子どもがひとり数日の間生き延びるのには充分足りる。青流はほろ苦い笑みを浮かべそれを懐に仕舞った。
 何をするでもなく、膝を抱えて屋根に開いた穴から夜空に浮かぶ星を見上げること数十分。足音も気配も一切感じさせることなく、唐突に廃寺の扉が開いた。青流は思わずびくりと肩を揺らす。
「すまない。大分待たせたか?」
 姿を現したのは眼鏡に背広姿の背の高い青年。青流はほっと安堵の息をついた。
「……師匠」
 師匠と呼ばれた青年はすぐに後ろ手に扉を閉める。床を軋ませることもなく優雅にさえ見える足取りで歩み寄ってくる青年に青流はふくれっ面で恨み言を吐いた。
「毎度のことだけどよ、おどかすなよ師匠。せめて足音くらい消さずに来てくれよ。心臓に悪いっての。俺の寿命縮めたいのかよ?」
 青流の言葉に青年は笑みを零す。
「すまないが、こればかりは身に染みついた習い性だからな。他の者と区別がついて良いじゃないか」
 文句を言っても笑って受け流すその態度に青流は突っかからずにはいられない。
「つーか、カタギの人間がそんな身のこなししてるっつーのは問題有るんじゃねぇのか?」
「なに。その辺はちゃんと心得ているさ。人前ではカタギの人間らしく振る舞っている」
 青年はさらりと言うと、青流の前で足を止めた。青流の膝のそばに放り出された空の袋を見て笑みを深くする。
「今夜も無事盗み出せたようだな。皆が噂していたぞ、烏小僧」
 青年の言葉に青流の顔が嫌そうにしかめられる。
「師匠までその名で呼ぶのかよ」
「良い名だと思うがな。かの大盗賊、鼠小僧にちなんでいるのだろう?験が良くていいじゃないか」
「嫌だっつーの。烏小僧なんて何かの妖怪みたいじゃねえか。だいたい鼠小僧だって最期は獄門で処刑されてんだろう?全然縁起が良くないっての」
「まあ、それもそうか」
 青年は再びくすりと笑った。
「では『夜烏の青流』。今夜もご苦労様。お前のおかげで次の入札は雪ヶ崎が落札でほぼ決まりだろう」
 仲間内だけで呼ばれる青流の通り名を口にして、青年が労をねぎらう。だが青流の胸中は複雑だった。青年にこうして労をねぎらわれる度に思い知らされる。自分が世に言われる義賊などではなく、この青年の手足となって動くただの駒でしかないのだと。
「ああ、そうかよ。俺には関係ねぇけどな。……で?今夜は何で遅れたんだ?」
 内心の煩悶を顔には出さず、青流は努めて平静な口調で問う。
「すまなかった。旭様の定期検診が長引いてな」
 青年の言葉に青流は苦虫を噛み潰したような顔になった。
 雪ヶ崎旭。話にしか聞いたことはないがそれは東京でも名の知られた大資産家、雪ヶ崎家の次期当主に当たる御曹子の名だった。歳は青流と同じ、数えで十五。一代で財を築いた財界の重鎮・雪ヶ崎雄道の孫として生を享けたがために生まれた時から何不自由無い生活を約束されている少年。
「……また『旭様』か」
 呟く声には苦々しさがにじみ出ていた。聞き咎めて青年は渋い顔になる。
「仕方がないだろう。私は雪ヶ崎家の主治医なのだから」
「にしたって一月の間に一体何度『定期検診』したら気が済むんだよ?あんたらいくら何でもお坊ちゃまを過保護にし過ぎじゃないのか?」
「……仕方がないだろう。旭様は特別なんだ」
「特別特別って生まれ以外に俺と何がどう違うって言うんだよ。俺なんか自慢じゃねぇが生まれてこの方医者にかかったことなんて一度もねぇぞ」
「お前と旭様を一緒にするな。旭様は繊細なお方なんだ。お小さい頃なんてそれはもう病弱でお育てするのに難儀したのだぞ」
(……あ、やべぇ。師匠の旭様苦労話が始まっちまった)
 熱のこもった口調で主家の子息の思い出話を始めた青年に青流はげんなり肩を落とした。もう何度も、覚えの悪い青流ですら暗唱できるほどに繰り返されてきたその苦労話は、苦労話とは言うものの、聞いている方にはどう聞いても『旭様』が可愛いと言っているようにしか聞こえない。
(あーあ。まったく、親バカ……じゃねぇな。医者バカ、なんて聞いたことねぇし……何て言うんだ、こういうの)
 頭の中で青年に当てはまる単語を探していると、我に返ったのか青年が決まり悪そうにわざとらしく咳払いをした。
「まあ、そういうわけで勘弁してくれ。雪ヶ崎の将来のための計画とは言え、本来の仕事をおろそかにするわけにはいかないからな」
「ふん。どっちが本来の仕事なんだか」
 青年の言葉を鼻で嗤って吐き捨てる。青年の言う雪ヶ崎家の主治医などというのが単に表向きの世を忍ぶ仮の姿でしかないことは、誰に教えられるまでもなく青流の目には明白だった。
「雪ヶ崎もやることが腹黒いよな。義賊と称した盗人に競争相手の財産盗ませて貧民窟に捨てさせるなんてさ」
「何を言う。盗みの相手は雪ヶ崎の競争相手ばかりではないだろう?」
 青年は平然と嘯く。
「それは単なる目くらましだろうが。ま、俺はいいけど?どこから盗もうが金は金。盗めば盗むだけ俺の名も上がるし」
「そうだな。お前の名もすっかり東京の人間に知れ渡ったようだ。私を超える日も近いかな」
「……冗談。そんなわけないだろ。師匠の名は未だに語り草だぜ?江戸最後の義賊『霧霞の蒼七』の名はさ」
 揶揄するように言ってみても青年は平然としたものだった。
「その手の口伝はひとり歩きするものだからな」
 かつての名声など、もうどうでもいいとでも言いたげな態度。それを見せつけられるたびに青流は自分がこの青年の足元にも及ばないことを思い知らされる。初めて会ってから六年。必死で腕を磨きこの青年の背中を追ってきた。だが、まだただの一度でもその背に追いつけたと思えたことはない。
「……師匠はもうやらねぇのかよ?義賊をさ」
 やや卑屈な気持ちになりながら問うと青年は笑って口を開いた。
「私がやらなくてもお前が充分にやってくれているだろう?まあ、雄道様がそれをお望みになるならやるだろうが、もう『義賊』とは名乗れないだろうな」
 青流だったらとても笑えないそれを青年は笑みを浮かべたまま口にする。
「しかし今の私が盗賊をするのは現実問題厳しいものがあるな。大分腕も鈍っているだろうし、下手に動くと勘のいい旭様に気づかれる恐れがある」
 再び青年の口に上ったその名に青流の口元が歪む。
「……ったく、どこまで過保護なんだか」
 これまでも青年との会話から察してはいたが、雪ヶ崎家のお坊ちゃまは自分の家が裏で何をしているのか全く知らないらしい。孫を溺愛する祖父やお坊ちゃま命の主治医らによって悪いもの、汚いものを目に映すことがないよう厳重に目隠しされ守られている。自分が汚い手段を使って蓄えられた財産により生活していることも知らず、雪ヶ崎の繁栄のために手を汚す青流という存在がいることも当然知らないのだ。
「お前、前々から思っていたが何故そう旭様を目の敵にしているんだ?」
 青年は心底不可解、という表情で問うてくる。
(……分からないのかよ)
 青流は呆れた気分で目の前の青年を見つめた。青流と同じような境遇に生まれ育った青年であれば、少し考えれば思い至りそうなものなのにどうにも旭様のこととなると目が曇るらしい。
「旭様はお前が思っているようないけ好かない成金のお坊ちゃんなんかじゃないぞ。それはもう誰にでもお優しく、品があって頭も良くて可愛らしい、素晴らしいお方なのだぞ」
 青年は曇りきった目で熱弁を振るいながら、見当違いの賛辞でお坊ちゃまを庇う。
「べつに。この先会うことも無いだろうお坊ちゃんが優しかろうと品があろうと何だろうと俺には関係ねぇし。つーか、可愛らしいって何だよ。俺と同じ十五だろ、そいつ。もう可愛らしいって歳じゃねぇんじゃねえの?」
「何を言うか。旭様は幾つになろうと永遠に可愛らしいに決まっている!そこらの人間と一緒にするんじゃない!」
 青年は握り拳でわけの分からないことを力説する。普段は全く隙が見当たらない、冷静沈着を絵に描いたようなこの青年が何故旭様のこととなるとこうも盲目になるのか青流には不思議でならない。
「そんなに俺と違うもんなのか?雪ヶ崎のお坊ちゃんはさ。……どうせ俺なんかもう可愛くもねぇし、優しくもねぇし、品も頭の良さも最初っから無ぇけどよ」
 無意識に口から零れたその言葉はどこか拗ねたような響きをしていた。青年は青流の心情に気づいてか、そっと苦笑する。
「お前と旭様を比べてみたことなどないよ。そもそも他の誰とも比べようがない。旭様は『違う』からな。我々とは」
「違うって、何がだよ?」
 問い返しても答えは返って来なかった。青年はただ、どこか寂しげに見える瞳で微笑むばかりだ。
「……それより青流。お前また私のことを『師匠』と呼んだな」
 青年が話題を変える。青流はぎくりと顔を強張らせた。
「そ、そうだったっけ?」
「確かにそう呼んだ。……『師匠』と呼ぶのはよせと言ったはずだろう?こんな呼び方では他の者に一発で私とお前の関係が露見してしまうではないか」
「今は俺と師匠しかいないんだからいいじゃねぇかよ」
「甘いな。普段から心がけていないと、いざという時にボロが出るものだ。口に馴染んだ言葉というものはふとした拍子にポロッと出てしまうものだからな」
「……へいへい。分かったよ。霧峰サン」
 青流のどこか投げやりな口調に霧峰は仕方がないな、とでも言いたげにわざとらしく肩をすくめた。

 

 青流と霧峰が出会ったのは青流がまだ十歳にもならない頃。当時青流は親方と呼ばれる男の下、他の似たような境遇の子どもたちと一緒に少年スリ師として働かされていた。
 大通りの雑踏を狙い、大人たちの懐に手を忍ばせる。見つかって、警官に突き出されるならまだいい方。相手が悪ければそのまま半殺しの目に遭わされることもざらな危険な行為だ。戦利品のほとんどは親方に巻き上げられたが、稼ぎが良ければその分他の子どもたちより少しは待遇が良くなった。稼ぎが悪ければ食事すらまともに与えられない。
 隙間風の吹き込む小さなあばら家に仲間数人、横になる隙間もないほど無理矢理に詰め込まれ、いつも腹を空かせ、ほとんどの仲間は己の将来に望みなど抱いていなかった。このままこの街で闇に手を染めたまま大人になり、やがて稼げなくなったら道端でみじめに野垂れ死ぬ。そのことを皆疑ってもいなかった。
 未来に希望も何も無い、閉塞感に満ちた世界。それでも、ただひとり――青流だけは諦めていなかった。貧民窟の、低く連なる軒の下から覗く小さな青空を睨みながら、いつかはこの境遇から抜け出してやるのだと毎日毎日、心の中で何度もくり返してきた。ふたりが出会ったのはそんな頃だ。

 

 その日、青流はいつものように大通りで標的を物色していた。スリを成功させるには腕前はもちろん、相手を選ぶことも肝心だ。青流は幼いながらもそういう意味での人を見る目には長けていて、仲間内でも一番の稼ぎ頭だった。
 その日青流が目をつけたのはいかにもお使いの途中といった格好の、大風呂敷を片手に下げ仕立てのいい着物に身を包んだ優男――霧峰だった。霧峰は背ばかりはひょろりと長いが細身で腕も細く、顔立ちもおっとりと優しげで、標的にするはうってつけに見えた。
 いつものように、無邪気な子どもらしくはしゃぎ声を上げながら通りを駆け、わざと――だが決してわざとらしく見えないよう霧峰に身体ごとぶつかっていく。いかにも前を見ずに走っていたからぶつかってしまった、というように。そのままの勢いで霧峰の懐に手を滑り込ませようとしたその時、逆にその手を取られねじり上げられた。青流はすんでのところで歯を喰いしばって悲鳴をこらえる。
「腕は良いようだが、狙う相手を間違えたな。小さなスリ師君」
 霧峰はこんな状況には似合わぬおっとりした口調で青流の耳元に囁いた。腕の痛みと、これからどんな報復をされるか分からない恐怖に青流の心臓は今にも壊れそうに大きく脈打っていた。だが青年はあっさり青流の腕を解放した。
「今度からはもっとよく相手を見て狙うんだな。同族も見抜けないんじゃスリはやめた方がいい」
 青流は呆気に取られて青年の顔を見つめた。青年は怒りの表情を浮かべるどころか微笑んでさえいる。
「おれのこと……警官に突き出さないのか?」
 おそるおそる問うと、青年は微笑んだまま首を横に振った。
「私にも身に覚えのあることだからね。かつての自分と同じものを警察に売ったりはできないさ」
「おれと……同じ?」
 青流には信じられなかった。目の前の青年はどう見ても良家の使用人だ。金に困ってスリを働いたことがあるなど考えられない。
「嘘だ。あんたがおれと同じだなんて」
 浮かんだ疑問をそのまま口にすると、霧峰は昔を思い出すかのように遠い目で空を仰いだ。
「私の場合は親切な方が拾い上げて下さったからね。そういうもので生計を立てなくても良くなった。だがかつてはスリをしていたことも、盗賊として大商人や大名のお屋敷から金を盗み、そこらにばらまいていたこともある」
「盗んだ金をばらまく……!?あんた、義賊なのか?」
 青流は一瞬で目を輝かせた。青流はスリ師も盗賊も大嫌いだ。だが義賊だけは別格だった。同じ他人から金品を奪い取る咎人でも、単なる盗賊と違い、義賊は自分の益ではなく不幸な境遇にいる者たちを救うために盗みを働く。人々から称賛され、羨望の目で見つめられる、弱い者、貧しい者にとっての救世主的存在。それは闇世界に生きる少年たちにとって数少ない憧れの的だった。
「……義賊、か。そういう風に名乗っていた時期もあるにはあるな」
 霧峰は笑みの中にわずかに苦いものをにじませる。だが青流は気づかずに必死な顔で霧峰の袖をつかみ、叫んだ。
「おれを、あんたの弟子にしてくれ!」
 霧峰は驚いたように目を見開き、青流の真剣な目に本気を悟ると困ったような顔でやんわりと断りの文句を告げた。だが青流は諦めなかった。弟子にしてくれるまでは絶対に放さない覚悟で霧峰の袖にしがみつき、睨まれようと振り払われようと決して放しはしなかった。霧峰がとうとう音を上げて、しぶしぶ青流を弟子にすると言ってくれるまで、ずっと。

 
 こうして無理矢理押しかけ弟子になった相手がかつては江戸最後の義賊と呼ばれた伝説的な盗賊であったことを、青流は後に知ることとなる。
 霧峰は盗賊としての技術と義賊としての心得を徹底的に青流に叩き込んだ。実際に盗みを始めるようになってからは、詳細な見取り図と逃走経路を用意してさえくれた。青流がスリの親方と縁を切り、かろうじてあった衣食住の保障と庇護を失ってからもこの歳まで無事生きながらえることができたのは霧峰のおかげと言って過言ではない。

 だから、当初は信じて疑っていなかった。霧峰は弟子の自分を大事に思ってくれているのだと。だが、違った。そのうちに青流は真実に気づいた。自分が霧峰の言うまま何気なく盗みの標的にした屋敷のほとんどが、商業上雪ヶ崎家と競い合っている家のものだということに。自分の盗みが結果的に、全て雪ヶ崎家の益となっていることに……。
 雪ヶ崎家の現当主・雪ヶ崎雄道はかつて盗賊として追われていた霧峰を拾い上げ、彼の望むまま西洋式の医学を学ばせ、更には雪ヶ崎家の専属医として雇い入れた、霧峰にとってはかけがえのない恩人だ。霧峰が雪ヶ崎家のためなら手を汚すことも厭わない覚悟であることは言葉の端々から常に感じ取っていた。だが、自分までがいつの間にか雪ヶ崎の繁栄のための駒に変えられているなど思いもしないことだった。
 だが、それを知ったからと言って霧峰から離れることも、盗賊をやめることもできはしなかった。父も母も既になく、かつての仲間とも縁を切ってしまった青流にとって霧峰だけがこの世で唯一の味方であり、貧民窟と盗みに入る屋敷以外の世界を知らず、盗み以外に身を立てる術を知らぬ青流に今更他に生きる道など無いのだから。

 


 

・この後の数段落は、既にあるにはあるのですが、ちょっと変更したいと思っているので中略で。
    ↓
・霧峰に雪ヶ崎家が一晩、旭と使用人の女性のみの留守状態になることを知らされた青流は、前々から気になっていた旭の顔を一目見ようと雪ヶ崎邸へ忍び込みます。

 


 

 雪ヶ崎邸は母屋と離れの二つから成る。純日本建築の母屋と回廊で繋がった洋風建築の離れ。その離れの二階に雪ヶ崎旭の部屋はあるという。
 庭木に身を隠しながら慎重に離れに近づく。月光に白く輝く洋館を見上げると、庭に面して半円形に張り出したバルコニーに一つの人影が見えた。青流の胸が知らず鼓動を速める。
 下からではよく見えず、青流は音を立てぬよう慎重に庭木の枝によじ登った。身を乗り出し、濃く茂り合う枝葉の合間から目を凝らす。そして――目に映した雪ヶ崎旭の姿に、思考が止まった。

 

 旭は背筋を真っ直ぐ伸ばし、下ろした両手をやんわりと前で組み、顔を上げて月を見ていた。深い決意を秘めたような、強く静かな眼差しで。散り零れ吹き寄せる桜の花びらに目を向けることもなく。ただ、月だけを。
 その頬を、月光を弾いて白金に光るものが時折すっと流れていく。透明な、涙の雫。旭は静かに泣いていた。声を上げることなく、姿勢を崩すことも顔を歪ませることもなく、強い眼差しで月を睨み据えたまま。大きく開かれた瞳からただ涙だけを零し続ける。こんなに静かに泣く人を、青流は今まで見たことがない。
(……何を、泣いているんだ?……あんたは……)
 目を奪われていることにも気づかぬまま、青流はその少女に涙の理由を問いたいと切実に、思った。
 ――少女(・・)。そう、少女なのだ。
 雪ヶ崎家の『お坊ちゃま』であるはずの雪ヶ崎旭。だが、今目に映るその姿は、どう見ても青流と同じ年頃の少女。しかも、夢ではないかと疑いたくなるような現実離れした姿を持っていた。
 それは、今まで青流が一度として目にしたことのない姿。純粋な日本人ならまず持ち得ないだろう姿。
 四月のまだほんのり冷たい風に揺れる旭の短い髪は、満月の色をそのまま映したような淡い金色をしていた。瞳は、月明りにかざした翠玉のような澄んで光る碧。
青流が今まで心のどこかで憎んできた『少年』は、青流の想像など遥かに超えた、夢のように美しく儚げな容姿を持つ『少女』だった。

 何故雪ヶ崎家の御曹子が女なのかとか、何故金髪碧眼なのかとか、そんな当たり前の疑問すら頭に浮かばず、青流はただ視線を縛りつけられ固定されてしまったかのように旭を見つめていた。目を離すことができなかった。静かに泣き続ける少女の美しい横顔を一瞬たりとも見逃すまいとでもいうように、見つめ続ける。
 どれくらいの時が経ったのかは分からなかった。青流の視線の先で、それまでじっと動かずにいた旭のまつ毛がふるり、と揺れる。旭はそのまま幾度か瞬きをし、次いでその視線をゆっくり庭の方へとめぐらせた。少女の姿に魅入ったまま、思考の停止している状態の青流は身を隠そうという考えも働かなかった。
 少女の目が庭木の枝の上、身を乗り出した青流の姿を捉えて見開かれる。視線が合った。
青流はぎくりと身を強張らせ、まだろくに頭も働かないままとにかく身を隠そうと足を動かした。が、その足は足場を捉えてはくれなかった。
「危ないっ!」
 旭が悲鳴のような声を上げる。だがその時、既に青流の身体は木の上にはなかった。均衡を崩したままのおかしな格好で地面へと落下する。声を上げる暇もなかった。血液が一気に逆流していくような恐怖の中、青流は衝撃を覚悟して目を閉じる。
 だが、衝撃は思いもしない形で訪れた。青流の身体が空中で逆さになったまま、何かに引っ張られでもしたようにがくんと揺れる。ぎょっとして目を開くと、青流の足首にそれまでは無かったはずの金色の糸が絡まっていた。
(何、だっ?これ……っ)
 金色に輝いているとはいえ見た目は普通の糸と変わらない、か細く頼りないものだ。そんなもので青流の体重を支えきれるとは到底思えない。だが現実に青流の身体はその一本の糸によって宙吊りになっていた。
「……くぅうぅっ」
 苦しげな呻きに目を転じると、さきほどの少女が苦悶にも似た表情で金色の糸を引っ張っていた。まさかと思って少女の握る糸の行方を目で辿ると、それは確かに庭木の枝を経由して青流の足首に続いている。どんな方法でこの糸を出現させ、青流の足に絡みつかせたのかは不明だが、少女が青流を助けようとしていることだけは理解できた。
 だが、助けようにも少女の細腕では青流を引っ張り上げることなど無理なのだろう。青流の身体は上に上がるどころか、小刻みに震えながら徐々に下へと下がっていく。
 力んでいるせいかほのかに紅潮した少女の顔や首筋を、いく粒もの汗の玉が月光をきらりと弾いて流れ落ちていくのが見える。その腕は痙攣するように震え、その眉は痛みを堪えるかのようにきつく、きつく寄せられていた。
(なんで、そこまでして助けようとする?侵入者の、俺なんかを……)
 必死の表情で金色の糸の端を握り続ける少女の姿が、あまりに痛々しくて、自分などのためにそんな顔をして欲しくなくて、気づくと青流は声を上げていた。
「もういいっ!これくらいの高さなら落ちたところで死にゃしない!」
 その叫びに旭は碧色の瞳を見開いて青流を見つめ――至極あっさり頷いた。
「ああ。それもそうだな」
「……え」
 少女の手のひらが開かれる。金色の糸はするりとその手の中から滑り落ちていった。旭の手から離れた途端、糸はまるで初めから幻だったかのように空中に霧散して消える。
「お前……っ」
 文句をつけたくても喋っている余裕はなかった。青流の身体が今度こそ重力に従い落下する。その身体は庭の植え込みの上に落ち、ぽきぽきと音を立てながら小枝を折っていった。
「ああ、そうだ。何も引っ張り上げる必要などなかったな。そのまま下へ下ろせば良かったものを。僕としたことが」
 無数の小枝に肌を傷付けられる痛みに耐えながらも青流の耳は少女の呑気な独り言を拾っていた。
(お前っ、そんなこと呑気に言ってないで少しは俺の心配をしろ!一応さっきまでは助けてくれる気あったんだろうがっ!)
 言ってやりたくても落ちた衝撃と痛みに言葉が出せない。だが、植え込みが衝撃を吸収してくれたせいか、細かな傷はたくさん負っても大きな怪我はないようだった。
 よろよろと身を起こし、地面の上にへたり込む。屋敷の二階を仰ぎ見ると、そこに既に旭の姿はなかった。代わりにどこかの戸が開く音がし、こちらへ近づいてくる気配がある。青流は視線を転じた。
 桜舞い散る中、芝生を踏みしめて少女がこちらへ歩み寄ってくる。見た目にも軽やかなその歩みはわずかの足音も立てていなかった。
 旭は傍近くまで来て歩みを止めると、立ったまま青流の顔を見下ろしてきた。青流はしばらく言葉もなくその顔を見上げ、動くことができなかった。
 間近で見ると、更に目を奪われる。目も、心も、吐息さえ全て目の前の少女に吸い込まれていくような錯覚を覚える。
「お前が……雪ヶ崎旭なのか?」
 信じられない思いで問う。旭はわずかに首を傾けて逆に問いかけてきた。
「そういう君は?どこの盗人だ?」
 容姿に反した、まるで少女らしくない口調だった。しかも、先ほどまでの儚げな泣き顔が嘘のように不敵な顔で笑んでいる。
「今夜うちが主不在だと知っていて盗みに入ったのか?その情報を何処で手に入れた?」
「何処って、それは……」
「などと訊いても盗人が白状するはずもない、か」
 うっかり答えそうになっていた青流はその言葉にはっと口を噤む。
「ところで、大丈夫か?怪我の方は」
 今更それを訊くか、と青流は思ったが侵入者という自覚がある手前一応助けてくれようとした相手にそれを言うことはできなかった。
「……ご覧の通り、大した怪我は無ぇよ」
「そうか。それは良かった。それほどの高さでもなかったし、下に植え込みがあったから大きな怪我にはならないとは思ったが、万一ということもあるからな」
 一瞬でそんな計算をしていたのか、と青流は軽く目を瞠る。旭は青流の全身を眺め、そこに実際に大きな怪我のないことを確かめると、安堵したようにほっと息をついた。
「本当に良かった」
 旭は満面の笑みを浮かべて言葉を続ける。
「これで心置きなく君を捕縛できる」
「はぁ!?」
 目を剥いて立ち上がる青流の目の前で、旭は軽く腕をひと振りした。その指先にどこから湧いたのか、再びあの金色の糸が現れる。しかも今度は一本ではなく数本が束になっている。旭はそれを手のひらに掴み取り、両手でこすり合わせるような仕草をした。ばらばらだった糸が縒り合わされ、あり得ない速度で太く長く変じていく。呆然と見守る青流の眼前で、それは一本の金色に光る縄へと変化していた。
「動かない方が身のためだ。下手に動けばこの縄はより一層君の身に絡みつき、締め上げる」
「……はぁ?」
 意味を理解できぬままただ声を上げる青流の身体に、旭の手から放たれた金色の縄が絡みつく。それはまるで金色の蛇のようにひとりでに青流の身体の上を這い、その身をきつく縛り上げた。
「ぎゃあぁあっ!?何だ、これ!?」
「暴れない方がいい。動くと余計に身体を締めつけると言っただろう?」
 青流はそれ以上立っていられず再び地面に転がった。その耳に、ばたばたと慌しい足音が飛び込んでくる。
「旭様っ!何事です!?」
 目を上げると白髪混じりの女性がひとり、目を見開いて立っていた。
「ああ、縫。丁度良かった。縄を持ってきてくれないか?盗人を捕えたんだ」
「まあぁ!盗人ですか!?」
「安心しろ。もう手も足も出ないように縛り上げてある。それに見てみろ。まだこんなに若い少年だぞ。大方まだ盗人を始めたばかりのひよっこだろう」
「あらあらまぁまぁ。本当ですねぇ。可愛らしい盗人さんですこと」
「お前ら……ひよっこだとか、可愛らしいだとか、勝手なことを言うなっ」
「何も盗らないうちに家人に見つかった挙句、足をすべらせ自滅する盗賊のどこがひよっこでないと言うんだ?」
 冷静に切り返され、改めて己の間抜けさ加減を思い知らされて、青流はそのままこの場に穴を掘って埋まってしまいたいと切に思った。そんな青流に容赦なく、旭は縫の持ってきた、今度は金色でも光ってもいない普通の縄で青流の身体を更ににぎちぎちに縛り上げる。そのまま青流は旭に縄の端を引っ張られて母屋の中に連れて行かれた。

 

 

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義理の妹は亡国の王女(逃避行エンド)
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JUGEMテーマ:恋愛小説

 

・以前UPした「義理の妹は亡国の王女」シリーズの続きです。

ノベルゲームを想定してシナリオを書き始めたものの、ゲームは作らずじまいという…。)

・シェヴィーが亡国の王の娘であることが広く知れ渡り、反逆の罪を被せられて処刑されそうになる→からの逃避行エンド(BADエンドの1つ)です。

(BADエンド(予定)の中には、そのままシェヴィー処刑エンドもありました。)

・シェヴィーを匿っていたユーディス家は、当主とその妻(エディーの両親)は殺され、エディーも監禁状態だったものの、シェヴィーのメイドだったメアリ、シェヴィー付きの騎士だったクロフォード(亡国の出身)が命懸けで逃亡を助けてくれ、ひとりでシェヴィー救出に向かいます。
  ↓
エディー
「クロフォード!!」
クロフォード
「どうか、あの方を!!あの方を救いだせるのは、あなたしかいない!!」
エディー
「……お前はっ!?」
クロフォード
「私のことは良いのです!あの方の御命こそ、私の全てですから!だから、早く!!」
エディー
「――すまない。感謝する!!クロフォード!!」



・その間、王子とシェヴィーの間ではこんなやりとりが…。
  ↓
王子
「最後通牒です。シェヴールグレン。私のものになると言えば、命だけは助けて差し上げましょう」
シェヴィー
「……私の正体は王国中に知られてしまっているというのに?処刑しないと示しがつかないのではないですか?」
王子
「なに。処刑したと言っておけば済むことです。そしてあなたは今後、表に出ることなく、一生私の傍にいれば……」
シェヴィー
「……ユーディス家は?父上たちへのお咎めはどうなるのですか?」
王子
「そちらはどうにもなりませんよ。姫を処刑するというのに、何故匿っていた家を処罰せずにいられるのですか?」
シェヴィー
「……それなら、私の答えは決まっています。あなたに囚われて一生を送るくらいなら、ここで人生に幕を引いた方が何百倍もマシです」

 



・そして何とかシェヴィーの元に辿りつけたエディー…。
  ↓
エディー
「シェヴィー!!無事か!?」
シェヴィー
「兄……うえ。どうして、ここに!?」
エディー
「助けに来た。一緒に逃げよう」
シェヴィー
「……なんてことを……。そんなことをしたら兄上まで反逆罪で…!」

言いかけて、シェヴィーは何かに気づいたように顔を強張らせた。
聡いシェヴィーのことだ。父母を人質に取られて動けずにいたはずの俺が、こうしてここにいることの意味に、すぐ気づいたに違いない。

シェヴィー
「…あ、兄上……っ、父上は…?母上は…?それに、クロフォードやメアリは…」
エディー
「………………」

俺は答えなかった。……答えられるわけがなかった。
しかしシェヴィーはその沈黙から答えを悟ったようだった。

シェヴィー
「……行けない。……一緒には…行けないよ。だって……私のせいで、皆……」
エディー
「ばか!お前のせいなわけないだろ!生まれなんて選べやしないのに、それが何でお前のせいになる!?」
シェヴィー
「……でも、皆、私がいたせいで……。行けない…。行けるわけ…ない。兄上だけでも逃げて……。私は……」

震えながら首を横に振り続けるシェヴィーの手首をつかんで強引に引き寄せる。
シェヴィーの言葉には予想がついていた。だが、どうあっても絶対にこのままシェヴィーを死なせるわけにはいかない。シェヴィーが永遠に喪われてしまうなんて、考えただけで身が凍る。
それに、あまりに酷過ぎるじゃないか。お前は、こんな惨めな最期を迎えるために生きてきたわけじゃないだろう?

エディー
「俺をたったひとりで生き残らせるつもりか?」

間近からシェヴィーの瞳を覗き込む。

エディー
「お前を救うためだけに、ここまで必死に生き延びてきたんだ。何もかも犠牲にした。俺に残されたのはもうお前だけだ。そのお前さえも喪うというなら、俺ももう生きてはいけない」
シェヴィー
「そんなの……!」

シェヴィーがつかまれていない方の手で俺の手を握ってくる。何かをつなぎとめようとするような強い力で。
俺は強張った顔で、それでも無理矢理笑顔をつくった。

エディー
「……ああ。だから、生きよう。ふたりで。それが、父上たち皆の願いだから」

シェヴィーはそれでもためらいを捨てきれないように目を伏せた。だけど、シェヴィーがどんな答えを出そうと俺の決意は変わらない。

罪悪感で死んでしまいたいのなんて、俺の方なんだよ、シェヴィー。
俺は父たちを見殺しにした。シェヴィーの救出を言い訳にして、父たちの死を利用した。本当なら、一緒にあの場で死ぬべきだったのに。ただ、もう一度シェヴィーに会いたかったから。……いや、会うだけじゃなくて、できるものなら、シェヴィーとともに生きていきたくて。

エディー
「逃げよう。シェヴィー。一緒に来てくれ」

俺はシェヴィーの決断を促すようにつかんだ手首を軽く揺らした。
シェヴィーはためらって、ためらって、震えた声で俺に問う。

シェヴィー
「逃げるって、何処へ?相手は王族なのに。逃げる場所なんてこの国にはないよ」
エディー
「諦めちゃ駄目だ。とにかく逃げるんだ。逃げられる所まで。どこまででも」
シェヴィー
「……兄上」
エディー
「お前一人殺させやしない。死ななきゃならないなら一緒に死なせてくれ。お前と逃げて、逃げて、それで捕まって殺されたって俺は本望だ」

・こうして、二人の絶望的な逃避行が始まります。

・追っ手の迫る中、死を覚悟したエディーはシェヴィーに想いを告白しようとします。
  ↓

 

 

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義理の妹は亡国の王女(幼少期・兄妹ふれあい編2)
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エディー
「……あれ?どこへ行ったんだ?シェヴィー……」
メアリ
「ああ!若様!どうか姫様をお探し下さい!最近お部屋を抜け出されてばかりで困っているんです」

この娘はメアリ。
後にシェヴィー付きのメイドとなる少女だ。当時はシェヴィーの遊び相手として城に上がっていた。
俺と同じくシェヴィーに振り回され苦労していたようだ。

エディー
「分かった!見つけて連れ戻すよ!」

エディー
(……どこを探そう)

→調理場を探す
→庭園を探す
→中庭を探す

 


→調理場を探す

エディー
「……いないなぁ」

 


→庭園を探す

エディー
「シェヴィーどこだ………。……あ、いた!」
シェヴィー
「あにーえ!見て見て、シェヴがつくったの!」
エディー
「……って!泥だらけじゃないか!」
シェヴィー
「えへへ〜。どろだんご」
エディー
「あぁああぁ〜…。ドレスが…っ。顔が…っ。手が……っ!」

俺は嫌がるシェヴィーを無理矢理引っ張って部屋に連れ戻した。

メアリ
「きゃあぁ!姫様っ!なんというお姿をっ!」
エディー
「すまないが、なんとか綺麗にしてやってくれないか?」
メアリ
「もちろんです!さ、姫様。お風呂に参りましょう」
シェヴィー
「あにーえもいっしょにはいる?」
エディー
「ええぇえぇッ!?あ、いや、俺はっ……」
メアリ
「いけませんッ!!」

その時のメアリのあまりに必死の形相に、俺はたじろいだものだった。

……今になって思い返せば彼女の必死さも理解できる。
何しろ俺はあの時まだ知らなかったのだから……。
シェヴィーが俺の“妹”なんかではないことを…………。

 


→中庭を探す

エディー
「シェヴィー!どこだ――!?」
シェヴィー
「あにーえ?」

その声は俺の頭上から聞こえてきた。
あわてて顔を上げるとそこには…………

シェヴィー
「きゃふふふふっ。すごいでしょ!?」
エディー
「うわあぁああぁッ!危ないッ!なんて所に登ってるんだ!!」
シェヴィー
「あにーえはいつも登ってるのに」
エディー
「おんなのこは木登りなんてしなくていいんだ!早く降りて来なさい!!」
シェヴィー
「はぁい!じゃ、行っきますよぉ〜!」

言うなり、シェヴィーは木の枝から勢い良く飛び降りてきた……!!

エディー
「えっ!?うわあぁああぁああぁああぁッ!!!」

どさっ どすん

俺はとっさにシェヴィーを受け止めたものの、見事に尻餅をつき、かなり痛い思いをした。

エディー
「こらッ!!なんてことをするんだ!危ないじゃないか!!」

俺は本気で怒鳴った。
なんとか受け止められたから良かったものの、失敗していたらシェヴィーは大怪我をしていたところだ。
その場面を思い描いたら、本気で血の気が引いた。

シェヴィー
「ふぇっ!?あ……あにーえ…っ。ごめんなさいっ……」

それまでシェヴィーを怒鳴りつけるなんてしたことのない俺だ。
シェヴィーはびっくりして大きな目に涙をにじませた。

エディー
「え!?ああぁああぁっ!シェ、シェヴィーっ!な、泣かないでっ!」
シェヴィー
「あにーえ!あにーえっ!ごめんなさい!ごめんなさいっ!シェヴ、いい子になるから、だから、シェヴをきらいにならないでっ!」

シェヴィーは泣きながら俺に抱きついてきた。
俺は……怒りも忘れてシェヴィーの身体をぎゅっと抱き締めて、その頭を優しく撫でてやった。

エディー
「嫌いになんか、なるわけないだろ?シェヴィーが嫌いだから叱ったわけじゃないよ。シェヴィーが自分で自分を危険な目にあわせたから怒ったんだ。……もう決してこんな危ないことはするんじゃないぞ。シェヴィーが大怪我したり……死んじゃったりしたら、兄上は泣くからな」

シェヴィー
「うん!もう、もうしないよ!だから、泣いちゃダメ!あにーえ!」
エディー
「よしよし。シェヴィーはいい子だ。……じゃあ、部屋に戻ろうな」

 

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義理の妹は亡国の王女(幼少期・ライバル妨害編)
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JUGEMテーマ:オリジナル創作

 

赤ん坊がどうやってできるかも知らなかった当時の俺は、ある日突然現れた妹の存在を疑うことさえ思いつけなかった。
だから、シェヴィーと俺に血の繋がりがないことを知ったのは、かなり後になってからだった。

その事実を知るまでは、「兄妹は結婚できない」という現実の前に、ひどく切ない想いをしたものだ。

幼い頃から既に、内から光を放つかのような美貌と存在感を持っていたシェヴィーは、まだ色恋もよく分かっていないだろう子供たちからも、熱烈なアプローチを受けていた。

シェヴィーに群がるどの男より、シェヴィーの近くにいて、どの男よりシェヴィーのことをよく知っていて、きっと他の誰よりもシェヴィーのことを愛しているのに……その資格がよりによって自分だけに無いなんて……。

俺は、いつか来る未来に怯えた。
シェヴィーが、俺でない誰かのものになってしまう未来に。
だから、必死にシェヴィーの周りに集まる男たちを遠ざけようとした。

シェヴィーに会いにきた友人1を俺は……


→シェヴィーは病気だと言って追い返した
→庭園におびき寄せて落とし穴にハメた
→シェヴィーと会っている所をずっと監視し続けた

 


→シェヴィーは病気だと言って追い返した

友人1
「そうか……。それじゃ仕方ないな。姫にお大事にと伝えておいてくれ」

 


 

→庭園におびき寄せて落とし穴にハメた

友人1
「ぎゃっ!?な、なんだこれはっ!?」
エディー
「ああ……。すまない。穴が開いていたのをすっかり忘れていたよ。うわぁ、泥だらけだなぁ。家に帰って風呂に入った方がいいんじゃないか?」
友人1
「うぅう……。そうだな。こんな格好じゃ姫に会えない」

  


→シェヴィーと会っている所をずっと監視し続けた

友人1
「ど…どこまでついて来るんだよぉ」
エディー
「大切な妹に変な真似でもされたら堪らないからな」

 



シェヴィーが庭師の息子と話しているのを見ると…

 


→無理矢理話に割り込んだ
→庭師の息子を強引に追い払った
→シェヴィーを強引に連れ出した
→庭師(父)にあることないこと言いつけた

 

 


→無理矢理話に割り込んだ

エディー
「今日はいい天気だなぁ、シェヴィー」
シェヴィー
「いい天気って……雨が降りそうなのに」

 


→庭師の息子を強引に追い払った

エディー
「あっちへ行け。誰がシェヴィーと話すことを許した」
庭師の息子
「うわあぁあんっ。ごめんなさいっ」
シェヴィー
「……あにうえ。いじめっ子はだめでしょ」

 


→シェヴィーを強引に連れ出した

エディー
「シェヴィー!ちょっとこっち来い!!」
シェヴィー
「いた…っ、あにうえ、ひっぱらないで……!」

 


→庭師(父)にあることないこと言いつけた

エディー
「お前の息子がシェヴィーをいじめてるぞ。どうにかしてくれ」
庭師
「も、申し訳ございませんっ!きつく叱りつけて、もう姫様のお傍には寄らないようにさせますからっ!!」

 



友人2がプレゼントを持って現れると…

 

 

→プレゼントを奪い取った
→プレゼントを横取りした
→シェヴィーは病気だと言って追い返した

 


→プレゼントを奪い取った

友人2
「な、何するんだっ!?」
エディー
「物で女心をつかもうなんて姑息なんだよッ」

 


→プレゼントを横取りした

友人2
「返せよぉぉおぉッ」
エディー
「悪いな。シェヴィーにはちゃんと渡すさ」
(僕からだと言ってな……)

 


→シェヴィーは病気だと言って追い返した

友人2
「そうかぁ…。病弱なんだな。シェヴィー姫…。じゃあ、これは見舞いの品として渡してくれよ」
エディー
「ああ。気をつけて帰れよ」

 

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義理の妹は亡国の王女(幼少期・兄妹のふれあい編)
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JUGEMテーマ:ファンタジー恋愛もの

 

シェヴィーはユーディス家の娘として、ますます愛らしく育っていった。
そんなシェヴィーに対し、俺は……

→よく遊んであげたものだ
→何かとプレゼントをあげたものだ
→毎日のようにおしゃべりをしたものだ
→ついつい、いじめてしまったものだ
→よく部屋を訪ねたものだ
→シェヴィーは放っておいて城の探検に夢中だった

 


→よく遊んであげたものだ

エディー
「シェヴィー!今日は英雄ごっこだ!シェヴィーはお姫様役だぞ!」
シェヴィー
「いや!シェヴも“えーゆー”する!」
エディー
「だめだよ。シェヴィーは女の子なんだから。英雄になるのは男の仕事。シェヴィーはお姫様になって、僕に守られてなきゃ」
シェヴィー
「あにーえ、ずるい!!シェヴも剣をもつの!」

当時、シェヴィーはまだ舌足らずで、俺のことをちゃんと『兄上』と呼べずに、『あにーえ』と呼んでいた。
自分の名前もちゃんと呼べていなかったっけ……。
あの頃からおとなしくしているのが嫌いで、男の子と同じことばかりしたがっていた。

 


→何かとプレゼントをあげたものだ

エディー
「シェヴィー!今日はくまさんだぞ」
シェヴィー
「ありがと、あにーえ」

当時はまだ素直に、ぬいぐるみでも人形でも何でも受け取ってくれていたんだ。
俺のことを『兄上』と呼べず、『あにーえ』と呼ぶ様は、それはもう可愛らしかった。

 


→毎日のようにおしゃべりをしたものだ

エディー
「その時俺の行く手に巨大な蜘蛛がどさっと!」
シェヴィー
「それで?それで!?」
エディー
「俺は勇気を振り絞って、その蜘蛛にフライパンを振り上げて……」
シェヴィー
「あにーえ、かっこいい!」
乳母
「若様だったんですか!?フライパンで蜘蛛を叩き潰したのは!料理長がカンカンでしたよ!!」
エディー
「わ、悪かったよ……。だって、武器になるようなものが他になかったんだ」
シェヴィー
「しかたないのよ、悪をたおすには“ぎせい”がつきものなのよ」

思えば、この頃から既にシェヴィーの言動には賢さがにじみ出ていた気がする。
(こういうことを言うと、すぐに周りからは「兄ばか」扱いされるんだが…。)

乳母
「……若様、姫様におかしな言葉ばかりお教えにならないで下さいね」

 


→ついつい、いじめてしまったものだ

シェヴィーが泣き出すと困るくせに、それでも俺はよくシェヴィーに意地悪をした。
いわゆるアレかもしれない。好きな子ほど……ってやつだ。

シェヴィー
「あにーえの、いじわるぅ!あにーえなんか、きらい!!」
エディー
「き……きらい……」

自分でいじめておきながら、嫌いと言われるとショックを受けたりしていた。
それでも意地悪をやめないのだから、俺は当時から相当屈折している。

 


→よく部屋を訪ねたものだ

 

メアリ
「まあ、若様。いらっしゃいまし。
姫様は今クラヴィーアの練習中ですよ」

この娘はメアリ。後にシェヴィー付きのメイドとなる少女だ。
当時はシェヴィーの遊び相手として城に上がっていた。

エディー
「……ってことは、この音はシェヴィーのクラヴィーアか。………なんというか、独創的だな」
メアリ
「まだ始められたばかりですもの。仕方ありませんわ」
シェヴィー
「あにーえ!いらっしゃい!」
エディー
「ああ。ジャマしたかな?随分熱心に弾いてたみたいだが……」
シェヴィー
「えへへー。シェヴさっきょく『アマガエルのひめい』だい2がくしょうだよ」
エディー
「……ひ、悲鳴……?しかもアマガエルの……?どんな状況を想像して作ってるんだ?」

シェヴィーはいつもこんな感じで、見ていて全く飽きなかった。

 


→シェヴィーは放っておいて城の探検に夢中だった

……………まあ、俺も遊びたいさかりだったし。

 

 

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義理の妹は亡国の王女(プロローグ)
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JUGEMテーマ:ファンタジー恋愛もの

 

・学生時代にノベルゲームで作ろうと思って書き始めたものなので(そしてゲームは作らずじまい…)小説というよりシナリオ的です。

・選択肢による展開の分岐があります。

・とりあえず冒頭部分のみです。
(他のシーンもそのうち出したいとは思っていますが、間のシーンがちょこちょこ抜けていたりするので…。)

 



幼い頃、俺は何も知らず無邪気に母にねだったものだった。

 
「ねぇねぇ、母上。僕には弟はできないの?」
「まあ。エディーは弟が欲しいの?」
「うん。ジェームズにはお兄さんがいるし、ヘンリーにだって弟がいるんだ。僕も弟が欲しいよ」
「そうねぇ。でも、これは神様のお決めになることだから。弟じゃなく妹ができるかも知れないわよ?」
「えぇ〜っ!?やだよ、妹なんて。僕は絶対に弟が欲しいんだ」
「……まぁ、どうしても弟なの?妹じゃだめなの?」
「女の子なんかつまらないよ!家にとじこもってお人形遊びばっかしてて!弟だったら、いっしょに木登りもできるし冒険ゴッコだってできるもん」
「あらまぁ。困ったわね。そんなことを言ってもどちらが生まれるかは私たちには決められないのよ。赤ちゃんができるかどうかも神様しだいなんですからね」
「やだ。弟が欲しい。母上、神様にお願いしてよ。僕に弟を下さいって」
「まぁ。それじゃあ、父上がお帰りになったら一緒に教会に連れて行ってもらいなさいな。神様にお願いしてくるといいわ」
「そうだね。父上はいつお帰りになるの?」
「……さぁ。大変な戦ですもの」

 
その当時の俺には戦というものがどういうものかも、その戦が父にとってどんな意味を持っていたのかも知らなかった。
貴族である以上、国王に命じられれば戦に赴かなければならない。だが、その戦は偽りの大義を掲げた侵略戦争。その上、相手は父にとって親友とも呼ぶべき人間だった。

 

トントン

 

「奥方様、旦那様がお戻りになられました」
「まあ!それじゃあ、戦が終わったのね!?」
「はい。それで、旦那様から大切なお話があるとのことで、奥方様だけいらして下さるように、と旦那様が」
「……まあ、何かしら」

 
母は眉をひそめて部屋を出て行った。俺は早く父に会いたくてたまらなかったが、メイドに引き止められ、しぶしぶ部屋で待っていた。
一時間ほど経って戻ってきた母の腕には…………。

 

「エディー、ご覧なさい。あなたに妹ができたのよ。今日からあなたはお兄さんになるのよ」
俺は思わずぽかんとして母の腕に抱かれたその赤ん坊を見つめた。
リクエストした“弟”ではなく“妹”ができてしまったということに怒りを覚えることすら忘れて。
……その出逢いの日のことは、今でもよく覚えてる。
あんな綺麗な生き物を見たのは初めてだった。宗教画の天使くらいでしかお目にかかったことのない、えもいわれぬ薔薇色の頬。鏡のようにきらきら辺りを映す、つぶらな瞳。あの時の赤ん坊の愛らしさを表現するには、どんなに言葉を尽くしても足りない。とにかく、俺はひと目でその赤ん坊に夢中になったのだ。

 
「可愛いでしょう?もっと傍でご覧なさいな」

 
俺はおずおずと母の傍に歩み寄っていき、その赤ん坊を間近から見つめた。赤ん坊は俺の顔を見て、きゃっと笑った。

 
「さ、さわっても、いい?」
「ええ。そぅっと、ね?」

 
俺は壊れ物にでも触れるようにそのぷくんとした頬に触れ、もみじのような小さな掌を指先でつついた。赤ん坊はつついた俺の指先を小さな手で握り締めてきた。

その様子が、食べてしまいたいくらいに愛らしくて、俺は言葉も忘れて赤ん坊の笑顔を眺めた。

 
「だっこしてみる?」
「ええ!?いいの?」
「大丈夫よ。重いから、気をつけてね。ほら、しっかり支えて」
「……うわぁ〜」

 
抱き上げた赤ん坊は予想より重かったが、俺はこの愛らしい生き物が俺の腕の中にいるということに夢中で全然気にならなかった。

 
「僕の、妹。僕の……」

 
頬を緩めて赤ん坊をぎゅうっと抱き締めて……俺はふと気がついた。名前をまだ知らないことに。

 
「ねえ、母上。この子の名前は?」
「シェヴールグレンっていうのよ。シェヴールグレン・ユーディス。それが今日からこの子の名前よ」
「シェヴール…グレン……。僕の、シェヴールグレン」

 

まだ子どもだった俺は、赤ん坊がこんな風にある日突然「やって来た」ことに何の疑問も抱いていなかった。
新しい俺の“妹”シェヴールグレンは、家族の間では「シェヴィー」と呼ばれるようになった。
俺は赤ん坊だったシェヴィーに……

 

→よく花をつんできたものだ
→よく遊んでやったものだ
→子守唄を歌ってやったものだ
→さわって無理矢理起こしたものだ

 


→よく花をつんできたものだ

 

乳母
「まぁ、若様。姫様は今お休みですよ。お静かにお願いしますね」
エディー
「あのね、おはな、つんできたんだ。シェヴィーの髪に飾れるように」
乳母
「あらまぁ。今まで花なんか見向きもしなかった若様が珍しいこと」
エディー
「だって、シェヴィーがきれいだと僕もうれしいもん」

 

あの頃の俺は、この、俺だけの小さなお姫様を飾り立てるのに夢中だった。
ままごとや人形遊びばかりの女の子たちを馬鹿にしていたのに、思い返せば俺のやっていたことも、まるで着せ替え人形遊びだ。
だが、それでもシェヴィーを自分の手でますます可愛らしくしていくことが、俺にとって何よりの喜びだったのだ……。


→よく遊んでやったものだ


エディー
「たかいたか〜い!!」
シェヴィー
「きゃっ♪きゃっ♪」
乳母
「きゃあ〜〜あ!!若様ッ!!何をしておいでなんですか!?」
エディー
「何って『たかいたかい』だぞ」
乳母
「…………それは…ッ、赤ちゃんを放り投げて受け止めるものではありませんッ!!」
エディー
「え?違うのか?シェヴィーが大喜びしてるから、てっきりこれで合っているものだと……」
乳母
「…………お願いですから、まともなあやし方をなさって下さいッ!」

 
その後俺は、乳母にも母にも……父にまでもたっぷり叱られ、しばらくの間シェヴィーと遊ぶことを禁止されてしまった。
……あの時は本当に哀しかった……。

 


→子守唄を歌ってやったものだ

 

乳母
「わ、若様!?一体何をお歌いなんですか!?姫様が泣き出してしまわれます!」

 
当時の俺は自覚していなかったが…………俺は、実はものすごく……音痴なのだ。

 

エディー
「何って、子守唄だぞ。シェヴィーがよく眠れるように」
乳母
「こ、子守唄!?あ、あの……もう少し……その……静かな子守唄はございませんか?」
シェヴィー
「きゃっきゃっ♪」
エディー
「シェヴィーは喜んでくれてるみたいだぞ」
乳母
「………………姫様はきっと、たくましくお育ちになられますわ」

 


→さわって無理矢理起こしたものだ

 

シェヴィー
「みゃあぁああぁぁッ!!!」
エディー
「うわっ、泣いちゃった」

シェヴィーが眠っているのがつまらなくて、目を覚まして欲しくて、ちょっかいを出して……それでよくシェヴィーを泣かせたものだった。
シェヴィーが泣いてしまうと、俺はどうしたら良いのか分からず右往左往して……結局 乳母や母に助けを求め、シェヴィーを泣かせたことがバレて叱られたりしたものだった。
思えばあの頃から既にシェヴィーの泣き顔には弱かったんだ……、俺。

 

そうしてシェヴィーはユーディス家の姫君として大切に育てられ、すくすくと成長していった。

 

 

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ミトコンドリアの恋
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JUGEMテーマ:恋愛小説

JUGEMテーマ:恋愛小説

 

「なぁ、知ってるか?太古の生物には寿命なんて無かったんだ。生殖行為を行わず、分裂で ( ) える代わりに、最初からプログラムされた死も無い。単細胞生物なんてばかにしてるけどさ、せっかく育てた身体(からだ)も記憶も、何十年か経てば必ず消滅してしまう人類(ぼくたち)に比べたら、ずっと生命体として完成された、永遠に近い存在なんじゃないかな」

僕は、なんで君にこんな話をしているんだろう。

養護教諭のたまたまいない、二人きりの保健室。
君は保健委員として僕につき添って来てくれただけで、特に親しいわけでもなければ、そもそも会話を交わした記憶さえ、ほとんど無いくらいの間柄なのに。

……ただ、いつも教室の隅で一人静かに本を読む君が、時々、妙に視界の端に引っかかるのは感じていた。

皆が群れを作って居場所を確保しようと必死でいる中、独りになることを恐れず“自分”を貫こうとするようなその姿は、まるでサバンナを独りで生き抜くライオンのように、気高く、強い存在に見えて、そんな君を何だか眩しく思ったこともあった。

だからかな。
君だったら、僕のこんな聞くほどの価値も無いような愚痴だって、笑わずに聞いてくれるんじゃないか――そんな風に、思ってしまったのは。

 

「なぁ、何で僕たちは、こんな不完全で儚い、永遠を生きられない生命体に進化してしまったんだろうな?太古の命のままでいれば、死に怯えることも、そもそも人生に悩む頭さえ無かっただろうに」

こんな話、友達とだって、親兄弟とだって、したことがない。

死ぬのが恐いだとか、人間の生命のあり方に納得がいかないだとか、言い出したところでどうにもならないことだし、答えなんて見つかるはずもない。

だから皆なんとなく、そこからは目を逸らし、見ないようにして、受け入れたフリをしながら日々をやり過ごしている――そういうものだと思っていた。

君だって、急にこんな重苦しい話をされたら、きっと戸惑って、困惑して、僕から距離を置きたくなるに違いない……そう、思っていたのに……。


「……それなら、私たちは、もしかして“恋をする”ために永遠を ( ) てたのかも知れない」

ひそやかに告げられたその言葉に、僕はまともな反応が返せなかった。

「……え?」

「ううん。“恋”だけじゃないかも知れないね。“友情”や“親愛”の気持ちだってあるかも知れない。あるいは、見も知らない芸術家の作品や、遠い国の偉人の人生に触れて、感動したり涙を流したりするためかも知れない。でも、たぶん、 そういうもの ( ・・・・・・ ) を知りたくて、私たちはこういう生命に進化したんじゃないかな。どこまで殖えても、自分の分身ばかりで、結局どこまでも“ひとりぼっち”で生きるより、永遠の命を棄ててでも、自分とは違う誰かを生み出して、出逢って、心を震わせたかったから。ひとりだけじゃ感じられない何か、ひとりだけでは生み出せない何かを、この世界に創り出したいから」


それは、思いもよらない“答え”だった。
理想論だと、ただのロマンティシズムだと一笑に付してしまえばそれまでの、どこか夢見がちな感情論。

だけど、僕は笑えなかった。
君が笑わず真剣に答えを返してくれたことにも、その答え自体にも、言いようのない衝撃を受けたからだ。


きっと僕ひとりでは、永遠に 辿 ( たど ) り着けなかったであろう、答え。
僕とは生まれてきた環境も、成長してきた軌跡もまるで違う君だから見出せた、僕にとっては未知の、全く新しい考え方。


どうしてこの世界に、君にような人間が存在するんだろう。
どうして僕は、今日この瞬間まで、そのことに気づけずにいたのだろう。

いつの間にか、心臓が、今までに感じたことのない激しい速度で、けれどどこか妙に甘ったるいリズムで、鼓動を刻み始めていた。

これは、今までに味わったことのない感情だ。
だけど僕は、生まれてから十数年間、ずっとこの瞬間を待っていた気がする。


この地球に生命が生まれてから、およそ40億年。
生物と呼べるかどうかすら分からない単純な姿から、少しずつ形を変え、遺伝子を組み換え組み換え、繋がれてきた、命。

自分とは異なる遺伝子を持つ誰かと、出逢っては恋をし、似て非なる遺伝子を持つ子どもを生み出しては、また新たな世代で新しい恋をする――。

そうして途方もないほどの時間と世代を超えてきた生命のリレーの、数えきれないバトンパスの果てに、 現在 ( いま ) 、こうして僕が生まれ、同じようにこの時代を駆け抜けるべく生まれてきた、けれど僕とはまるで違う、たった一人の君と出逢う。


これから僕は、君に対して、どんな気持ちを抱いていくのだろう。
甘いドキドキや幸福感ばかりじゃなく、切なさや苦しさも、味わうことになるのだろうか――。

だけど、そんな切なさや苦しささえも引っくるめて、この痛いくらいの胸の震えが、永遠を棄ててまで手に入れた代価だと、君は言うのだろうか。


僕は、きっと、今日のこの瞬間を忘れない。
魂の根幹を揺るがすような衝撃と、初めて覚えた甘い胸の震えと、風に揺れる白いカーテンや、伏し目がちな君のまつ毛の長さまで。

きっと、ひとつ残らず覚えている。

もしかしたら、この想いは、実らないかも知れない。
君に知られることさえなく、終わってしまうかも知れない。

それでも、僕はきっと後悔はしない。
君は僕に、大切なものをくれたから。


いつか必ず終わりが来ると分かっているこの命に、否応なく、僕は生まれ落ちた。
自らの意思でもなく、選択の余地すら与えられずに。

だけど、永遠に背を向けてまで、この儚い生命に生まれてきた、その理由が、君のくれたその優しい答えなのだとしたら――この世界も、そう悪くはないのかも知れない。
そう、思えるんだ。

 

 

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若殿と幼馴染と鎮守神の和風ファンタジー・ラブコメ小説
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「時。お前に伝えねばならぬことがある」
 いつになく真面目な父の声に、時子は居住まいを正す。
「如何なるお話でございましょうか、父上」
「実はな、お前に縁談が持ち上がっておる」
 時子はわずかに眉を上げたが平静な態度を崩さなかった。時子の家は代々、国の家老職を務める家柄。いつかはこの話が出ることを、物心ついた頃から覚悟していた。
「それで、相手はどちらの家の御方なのでしょう?」
「それが、な……」
 父は珍しくひどく言いづらそうに言い淀む。娘の顔色を窺うように幾度も言いかけては止め、言いかけては止めを繰り返した後、ようやく意を決したように口を開く。
「我が国の若殿様なのだ」
 その瞬間、時子は固まった。父の言葉を頭がまるで受け付けてくれなかった。
 たっぷりの間を置いてやっと出てきた言葉は、政略のための結婚を幼い頃から受け入れていた名家の娘とは到底思えぬ悲鳴じみた叫びだった。
「じょおぉだんじゃありませんよっ!」
「……うむ。私も、冗談であれば良かったと、そう思うておるぞ」
「何故です!?何故私が、あの大うつ……若殿と夫婦にならねばならぬのですか!?」
「幼き頃より若殿の御側仕えを務めてきたお前であれば、あの若殿をお支えし、この国を良き方向へ導いていけるであろうという、殿のお考えでな……」
「要は若の御守をこの先もずっと私に押し付けようということですよね!?」
「いや、まぁ、その……な」
「私がこの十年以上、若の御側でどれほど大変な目に遭ってきたか、分かった上で仰っているのですか!?もうこれ以上は御免です!それに、今さら若とだなんて……あの若が御承知するはずがありません」
「……いや、若殿は存外乗り気でいらっしゃったぞ。『それはなかなか面白いな』と仰って」
 その言葉に、時子は開いた口がふさがらなかった。震える拳を握りしめ、時子はすっくと立ち上がる。
「私、今からお城に上がります。若に真意を伺って参ります!」

 

 

 時子が鬼の形相で“真意”を問い質すと、次期国主であるはずの若殿は、城下の子どもとほとんど変わらない汚れや破れ目だらけの着物でけらけらと笑った。
「ああ、その話な。聞いたぞ。あれは笑えるな。おぬし、そういえば女子であったのだなぁ。親父殿から話を聞くまですっかり忘れておったわ」
「忘れないでください!と言うより、意味が分かりませんから!若と初めに会ったときから私はちゃんと女だったでしょう!?」
「確かに昔は一応ちゃんと女子に見えていたがな。今はぱっと見どちらか分からぬぞ。おぬし何ゆえそのように男前に育ってしまったのだ?」
 目の前の時子を頭から膝まで一通り眺め、若殿は不思議そうに小首を傾げる。
「……誰のせいでこうなったと思ってるんです」
 時子は苦虫を噛み潰したような顔でつぶやく。
 若殿の言う通り、時子の姿は一見、女には見えないものだった。髪は頭の高い所で一つに束ねて馬の尾のように長く垂らし、着物も女物ではなく、名家の若君が着るようなすっきりとした袴姿だ。知らぬ者が今の時子と若殿を見たならば、まず間違いなく時子の方をこの国の“若殿”だと思うだろう。
 時子がこのような姿をしているのは、ひらひらした女物の着物では、到底この若殿の側に付いていられないため。そしてさらに言うなら、本来であれば若殿と歳の近い少年が務めるはずの側仕えを時子が女の身で務めているのは、この国で時子以外にこの若殿についていける者がいなかったためである。
「それで、私との縁組の件は、若の方からきっちりお断りいただけるのですよね?」
「断る?何ゆえだ?」
「何ゆえって、ありえないでしょう。先ほども仰っていたように、若、私のことを女子として見ていないではありませんか」
「わしはべつに構わぬぞ。嫁を娶るならば、わしに理解ある女子と昔から決めておったし、おぬしほどわしのことを理解しておる女子はおらぬだろうからな」
 特に何も考えていなさそうな顔であっけらかんと告げられたその言葉に、時子は憤怒した。
「『べつに構わない』なんていう適当な理由で嫁にされてたまるかぁあ〜っ!」
 

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