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言ノ葉スクラップ・ブッキング〜シーン&シチュ妄想してみた。〜

管理人が妄想したシーンやシチュエーションをショート・ストーリー(?)にしたもの。
ジャンルはファンタジー・恋愛などなど。

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和風ファンタジー小説「花咲く夜に君の名を呼ぶ」初期設定版・冒頭部分
記事本文

JUGEMテーマ:ファンタジー

 

※これはオリジナル小説サイト「言ノ葉ノ森」に掲載している和風ファンタジー小説「花咲く夜に君の名を呼ぶ」決定稿前初期設定バージョンの試し書き(冒頭部分のみ)です。

 

決定稿とはヒロインの性格設定がかなり異なります

(裏話で書いたことのある「花夜(ヒロイン)の性格がラウラ(別作品のヒロイン)だったバージョン」です。)

決定稿を既に読んでいて「イメージを壊されたくない!」という方は読まない方が良いかも知れません…。

 

その辺りをよくご注意・ご検討の上、お読みください。

    ↓


 

「せっかくの月待の日にあいにくの天気ですねぇ」
 まだ年若き茶店の主人は、外の雨を眺めながら苦笑混じりに話しかけてきた。差し出された茶を受け取りながら、俺はぼんやり頷く。
「……ああ。今夜は二十三夜なのか」
 夜半に出る二十三夜の月を待ち、神に供物を捧げて夜通しの宴を行えば、願いが叶う。いつの頃からかは知らないがそんな信仰が流行っているのは知っていた。
「あれ?兄さんは月待の願掛けにいらしたわけではないのですか?今日はそういうお客さんが多いもんで、てっきり兄さんもそうだと思っていたのですが」
「いや……」
「この天気ではどうなるか分かりませんが、もし晴れて月が出るようなら兄さんも願を掛けてみるとよろしいですよ。月待と言っても普通はそうそうご利益があるもんではありませんけどね、この辺りではよく願いが叶うと評判なんですよ。特にこんな時季。竜神様のお出ましになるような季節には……」
「竜神?」
 さすがに聞き咎めて、俺はその語を繰り返した。
「はい。この辺りの山では、こんな花の咲く時季、よく空を飛ぶ竜神様のお姿が見られるそうですよ。今降っているこの雨も、ここらの人間には『竜神様の涙雨』と呼ばれています。この時季に雨が降るのは、竜神様がお泣きになってらっしゃるからだと」
 笑みに苦いものが混じるのが自分でも分かった。竜神の涙雨とは、随分と皮肉な名だ。
 無言で茶を飲み終え、勘定を済ませ、俺は席を立った。外はまだ雨だが、俺には関係無い。そのまま店を出ようとし……、俺はふと思いついて店主に声を掛けた。
「そうだ。お前、花は好きか?」
「花?はい。好きですけど……」
「ならば、これをやろう」
 言って、腰に下げた小袋から取り出したものを店主の手の上に置く。店主は目をぱちくりさせた。
「花の種……ですか。いったい何の花の種なんです?」
「幸を呼ぶ花の種だ。強く願って育てれば、『自分以外の誰か』に幸を与えてくれる」
「え……?」
 店主の疑問の声には答えず、俺は今度こそ店を後にした。
 しばらく峠の道を行き、人気が無くなったのを見計らって俺は足を止める。
 肩の力を抜き、大きく息を吸い、肺いっぱいに空気を溜め込んでから、それをゆっくりと吐き出す。そのたった一呼吸の間で、俺の躯はそれまでとはまるで違う形へと変じていた。銀の鱗に覆われた、長く巨大な竜の姿。
 俺はそのまま前肢で空を掻き、灰色に曇った天へと泳ぎだす。
 先ほどの茶店を眼下に見下ろして、俺はひっそりと笑った。この姿を人に見られていることは知っていたが、まさか雨が降ることを俺のせいにされているとは知らなかった。
 ――竜神の涙雨。この雨が俺の涙などでないことは俺自身がよく知っている。俺は泣いたりなどしていないから。だが、その名はもしかしたら真実なのかもしれない。この雨は、長い時の流れに心が麻痺してもう泣けない俺の代わりに、天が泣いてくれているのかもしれない。
 雨は変わらず降り続く。絹糸をたらしたようにしとしと降る柔らかな雨が、俺の鱗を撫でるように優しく濡らしていく。
 感傷的な気持ちでその雨を受けながら、重く垂れ込めた雲の下を俺は泳ぎ続けた。やがて、険しい山々の合間に、唐突に鮮やかな色彩が広がる。それは、花園。山の中腹、ただ人では登ることも降りることもできない急峻な崖に囲まれ、守られるようにひっそりと存在する、美しい花園。
 俺は再び人の姿へと変化して花園の中に降り立った。
 花はちょうど今が盛りとばかりに一面に咲き乱れている。雨に濡れた花に脚を濡らしながら、俺は花園の真ん中に立つ一本の木に歩み寄った。
 愛する人の髪にでも触れるようにそっとその樹皮に触れ、頭上に広がる枝を仰ぐ。しばらくそうした後、俺は幹に身をもたせるようにしてその場に座した。
 目を閉じて、いつものように心の中で呼びかける。もうどんなに呼びかけたところで声の届くことのない君へ。
 ……花夜。君が逝ってから、幾百の春を数えただろう。
 寿命の長さの異なる人間と神とでは添い遂げることなどできぬのが定め。別れが来ることなど始めから分かっていた。それでも俺は君のことを愛した。そして、今でも君のことが忘れられない。毎年、君の逝った季節には、必ずこうしてここを訪れてしまう。
 目を閉じて君を想えば、心はいつでも君と過ごしたあの日々に戻っていく。目蓋の裏の暗闇に、懐かしく愛しい君との思い出が蘇ってくる。
 そして俺はいつものように、眠るように、その追憶の波に身を委ねた……。

 

 全ての始まりは、一羽の白い鳥。木の間から覗く青空に、白い線を引いていくように真っ直ぐに飛ぶ白い鳥だった。それがただの鳥でないことに、俺は一目で気づいた。
(……なぜ、このような所に……?)
 それは、極めて珍しいモノ。当時俺がいたような場所では目にすることなど稀なはずのモノだった。
 鬱蒼と繁る深い森の中、そこだけぽっかりと開けた枯葦の原。そこがその頃の俺の住処だった。普通の鳥や獣でも、滅多に足を踏み入れることのない荒野。
 なぜ自分がそこにいたのか、当時の俺は覚えていない。気がついた時にはもう、そこに居た。一面焼け野原のその場所に立ち、土砂降りの雨に身を晒していた。自分がなぜそこにいるのか、何をしていたのかも分からずに……。
 立雨零る魚眼潟の国。それが当時俺のいた地の名前。この邦の中では東国と呼ばれる地域に属するその国は、かつて他国に攻め滅ぼされて以来誰も住むことなく棄てられた、国とは名ばかりの地。何処へ行くでもなく、何を為すでもなく、俺はそこに何百年も独り、膝を抱えて座していた。
 今思えば、あの鳥を見た瞬間から、俺は感じていたのかもしれない。俺の中の何かが決定的に変わる予感のようなものを。
 ぼんやりと鳥の去っていった空を見つめていた俺の耳に、ちりちりと微かな鈴の音が聞こえてきた。次いで、軽い足音と荒い息遣い。誰かがこちらへ駆けてくる。
 何事かと身構える俺の前に、彼女は現れた。息を乱し、頬を真っ赤に染めて。
「……あのっ、こっちの方に……、鳥、飛んできませんでしたっ?」
 開口一番、少女はそう言った。俺の顔をよく見もしないまま、必死な顔で空を見上げて……。
 そんな少女の姿に、俺はやや目を瞠った。
 棒のようにか細いその脚を包むのは、たくさんの襞のついた緋色(あけいろ)の裳。袖なしの盤領(あげくび)の上衣(うえぎぬ)の上に白い麻の意須比を重ね、肩には木綿襷。縁に五つの鈴をあしらった円い白銅鏡を幅広の腰帯に吊り下げ、首にも手にも足首にも鮮麗な色の玉を連ねた御統が揺れる。
 神事に携わる者特有のその衣裳(きぬも)といい、ただ人には視えぬよう姿を幽した俺に対し普通に声を掛けてきたことといい、彼女が巫女であることは明らかだった。それも衣裳の素朴さから見て、未だ低度な手技しか持たぬ、神棲まぬ国の巫女。
 そのこと自体に驚きは無い。俺の元に巫女が訪れるのはそう珍しいことではなかったからだ。
 俺のような何処の国にも里にも属さぬ神の元には、その神を鎮守神、すなわち自分たちに加護を与える守り神に迎えようと望む巫女や男巫(おのこかんなぎ)がたびたび訪れる。特に俺と彼女が出逢った頃――千年前のあの時代は、とりわけ神の力が求められた時代だった。今でこそ仮初の平安と均衡の保たれているこの邦だが、当時は国と国、人と人とが合い争う修羅の時代。文明の飛躍的な進歩をもたらし国を富ませる神の智、どんな武器や兵にも勝る神の力は国が生き残っていくために必要不可欠と言って良いものだったからだ。
 この邦は『万の想いの形成す邦』。人々の強い想いが神や精霊や奇跡となって形を顕す邦だ。ゆえに、天地には数えきれぬほどの神々が存在する。俺もそんな神のうちの一柱だった。
「うわっ!?あなた、もしかして神さまですか!?」
 何も答えないのを訝しんでか、ぱっと振り向いて俺を見た少女は、目を大きく見開いて叫んだ。
「……そうだ」
 わざわざ偽りを言う必要も感じず、俺は正直にそう答えた。途端、少女は昂奮に頬を染め、意味も無くその場を飛び跳ねた。
「すごい!本当に会えた!鳥さん、ありがとう!」
 少女ははしゃぎ声を上げ、鳥の姿などとうに消え去った空に向かい手を振る。俺はその幼い素振りにやや呆れた気持ちで問いかけた。
「娘。お前、何をしにこんな所へ来た?ここは子どもが来るような所ではないぞ。暗くなる前に帰れ」
 そう。俺と出逢った時の彼女は、数えで十一。まだ生まれて十年にしか満たない、幼くあどけない少女だった。
「えぇっ!?こまりますっ!確かに私はまだ子どもですけど、でもどうしてもあなたに会いたくて、ここまで来たんです!」
 少女は必死の形相で訴える。俺は溜め息混じりに再び問いかけた。
「お前は何者だ。何のために俺に会いに来た?」
 その問いに、少女は姿勢を改めた。その場にひざまずき、それまでとは打って変わった真面目な顔と声で口上を述べる。
「私の名は花夜。『千葉茂る花蘇利の国』の社首にして、国の首長・鹿葦津彦が娘。我が国の鎮守となって頂く神を求めてこの地にやって参りました。どうか、私と共に花蘇利の国においで下さい、神さま」
 それは紛れもなく『勧請』の詞。神を己の住む場所へと誘う請願の詞だった。
 思わず苦い顔になるのが、自分でも分かった。それは彼女が巫女であり俺が神である以上、当然予測のできたことだった。だが、できることならばその詞をこんな幼い少女の口から聞きたくはなかった。
 これまでも、何人もの巫女や男巫が俺の元を訪れた。眩く輝く財物や、贅を凝らした社に衣。味わい尽くせぬほどの山海の珍味に、何十人もの美しい神仕えの女たち――ありとあらゆる見返りを並べて、彼らは俺を国に誘った。
 だが、俺はどんな見返りにも心惹かれることはなかった。彼らの言葉に興味を持つこともできなかった。俺は、ただひたすらに厭いていた。――この世に。身勝手なばかりの人間たちや、争いの止まないこの邦に。この世に生れ落ちたこと自体を嘆いてしまうほどに。
 断っても断っても尚しつこくまとわりついてくる彼らは、俺にとってただ鬱陶しいばかりの存在だった。だから、俺は彼らを追い払うのにわざと乱暴な手段を用いるようになっていった。凶暴な神だとの噂がたち、俺を鎮守神に求めてやって来る者自体を減らせるように……。
 俺に勧請の詞をかけてきた以上、この少女も例外とすることはできない。だが、それでも、こんなにも幼い少女に力を振るうのはさすがに躊躇われた。
「……お前のような子どもが社首だなどと、何かの間違いだろう?国へ帰り、ちゃんとした大人の巫女を連れて来い。お前のような子どもの話など、まともに聞けぬ」
 考えた末、俺はそんな風にわざと彼女を冷たくあしらった。
 幼子が社首に据えられるのは、稀とは言え、ないことではない。そのことはもちろん知っていた。
 社首とはその国の神社を統べる最高位の巫を意味する。その位には通常、首長の姫や御子が就き、他に適当な者がなければどれほど幼い子どもであろうとも社首に据えられる。国の首長の娘――すなわち花蘇利の姫だという彼女が社首の座に就くことに何ら不思議は無いのだ。だが……
(こんな子どもを俺の元へ寄越すなんて、正気じゃない。何を考えているんだ。その、花蘇利とかいう国の人間は……っ)
 俺は彼女をここへ寄越した花蘇利の人間に対し、怒りにも似た感情を覚えていた。
「だめです。確かに私は子どもだけど、それでも花蘇利の社首は私しかいないんです!おねがいですから私の話を聞いて下さい!私といっしょに花蘇利へ来て下さい!」
 少女はそれでも退かなかった。俺は舌打ちして少女を睨みつける。
「娘、お前は分かっているのか?神に向かい言葉を掛けることの意味が」
 人間と神とは対等ではない。少なくとも大多数の神は人間を対等の存在とは見なしていない。もし人間が神の気に障ることでもしようものなら、ほとんどの神はその人間を呪い、祟り、命を奪うことに何ら躊躇いを覚えないだろう。神に対峙するということは、そうして命を危険に晒すことすら厭わない決死の覚悟を要するものなのだ。
 そんな過酷な神迎えの使者として遣わされるには、彼女はあまりに幼過ぎる。
「分かっています。でも、花蘇利にはどうしても神さまの力が必要なんです。……生き残っていくために」
 少女の目は真剣だった。その性根を試すため、わざときつく睨んでも、少しも怯まない。震えるほどに強く握り締めた拳から、痛いほどの覚悟が伝わってくる。
(……こんな幼子を遣わさねばならぬほど、追い詰められているとでもいうのか。その花蘇利という国は)
 幼い身で重い使命を背負わされた少女に、憐れみを覚えたのは確かだった。だが、だからと言ってそう易々と少女の勧請に応じるわけにはいかない。
(人間など、どうせ皆同じ。己の命は惜しむくせに、己の欲望や都合のためなら他の命を平気で奪う。そんなものに縛られて生きるなんて真っ平だ)
「俺はいずれの国の鎮守にもなる気はない。国同士の争い事に巻き込まれるのも、他国を滅ぼすためにこの力を振るうのも御免だからな」
 俺は吐き捨てるように告げた。その声に弾かれたように少女は叫ぶ。
「私は、他を滅ぼすための力が欲しくてここに来たんじゃありません!私の国を――大切な人たちや、大切な場所を守りきるための力が欲しいんです!そのために、あなたの力が欲しいんです!」
 その一瞬、少女の声に、別の誰かの声が重なった。
 ――他を滅ぼすための力ではなく、大切な何かを守りきるための力を、与えて差し上げよう。
 直後、頭痛が走り、俺はこめかみを押さえて眉をしかめた。
(……何だ。今の声は……)
 知らないはずの、だがひどく懐かしい気のする、若者の声。記憶を探っても思い出せず、俺は首を振って無理矢理その声を脳裏から追い払った。
「神さま。花蘇利の鎮守の神さまに、なっていただけませんか」
 少女は俺が答えるのをじっと待っている。俺が承諾の返事を返すまでは何を言っても脅しても、退く気は無いように見えた。俺は再び舌打ちし、低い声で命を発した。
「我が使たちよ……。行け」
 命に応じ、周りの草陰から次々と蛇が這い出してくる。白い鱗に赤い眼を持つ小さな蛇たち。俺に仕える神使の蛇たちだ。
 蛇たちはそのまま少女の周りをぐるりと取り囲み、一斉にゆらりと鎌首を持ち上げた。そのまま、半開きの口から威嚇するようにシャーッと息を吐く。少女の顔が見るからに青ざめた。
「……ひゃっ……へ、蛇っ!?」
「娘よ。それは我が使の蛇たちだ。諦めてこのまま去ると言うなら今すぐに退かせよう。しかし諦めずここに留まると言うならお前に向けてけしかけるが、どうする?」
 それは単なる脅しだった。こんな幼い少女へ向け本気で蛇をけしかけるつもりなど毛頭無い。このまま少女が怯えて逃げ出せばそれで良いと思っていたのだ。
 しかし、少女は動かなかった。逃げるどころか立ち上がることもせず、ただ引きつったような表情のままその場に硬直していた。
(……仕方が無い。もう少し恐がらせてやるしかないか)
 俺は溜め息をひとつついた後、大きく息を吸い込んだ。
 一呼吸に間に俺の身体は変化する。大きく、長く。膚は銀の鱗に覆われ、眼は鬼灯の実のように赤く輝き、額には刃のように鋭く尖った角が生じる。少女は瞳を更に大きく見開き、声を震わせた。
「ヲ……大蛇……」
 そう。あの頃の俺はまだ竜になりきれていない、額に角を持つ中途半端な蛇神だった。
「娘よ、動けぬと言うならそれでも良い。諦めて帰ると一言言え。そうすれば見逃してやる。だが言わぬならこのままお前を丸呑みにするぞ」
 少女は青ざめた顔のまま、ふらふらと立ち上がった。そのまま走って逃げ出すのだろうと思い、俺は安堵にも似た息をこぼした。だが、少女は思いもかけない行動に出た。
 気を取り直すように息をつき、改めてその場に座りなおし、少女は俺を見上げて微笑んだ。何の含みも持たぬ満面の笑み。見ているこちらまで心が蕩かされてしまいそうな、見るからに幸せそうな笑みだった。
 あまりに思いがけないその笑みに、俺は自分の立場も状況も何もかも忘れて呆けた。
 張り詰めていた気が抜け、何が何でも少女を追い返そうと思っていた心が急速に萎えていく。俺は再び変化し、人の姿に戻って溜め息をついた。
「……何なのだ、お前。気でも触れたのか」
「えっと、違います。そうじゃなくて……。母さまに言われたことを思い出したんです。恐がって怯えた顔をしたり、嫌がっているような顔をしていたんじゃ、相手は心を開いてくれないって。心を通じ合わせたいと思うなら、まず自分の方から笑いかけなさいって。一の笑顔は、時に千の言葉より多くを語るものだから、仲良くなりたいという気持ちを笑顔に乗せて、心の底から笑いかけなさいって」
「だからと言ってよく笑えるものだな。先ほどまで青くなって震えていたくせに」
「えへへ。笑うのは得意なんです。どんなに恐くて辛い時だって、幸せなことを思い出せば自然と笑顔になれます。そうしたら、なんだか幸せな気持ちになって、恐いのや辛いのがどこかへ行っちゃうんです」
(何なのだ、この娘。こんな娘には今まで会ったことがない)
 呆れているのか感心しているのかも分からぬままそんなことを思い、俺は改めて少女に向き合った。
「娘。もし俺がお前の国の鎮守となったなら、お前は俺に何を寄越す?」
 どんな財物や美食を見返りに示されても、俺の心が動くことはなかった。だが、この少女なら、もしかして今までとは全く違うものを――俺が心の底から惹かれ、求める何かを示してくれるのではないか。そう思ったのだ。
 少女はその問いに、しばらく考え込むように沈黙した。小さな頭を右へ左へと傾け、幼い声でうーんと唸った後、ぱっと顔を上げる。そして、きらきらした目で告げた。
「えっとね、花かんむり!」
「……何?」
「それとね、夏の小川の、水の影が木の枝に映ってきらきらするところ。里で一番きれいに色づく黄葉の葉っぱ。それから、冬の夜にお社の上から見る星空」
 少女が口にしたものは、今まで俺が考えつきもしなかったもの。今まで示されてきたどんな見返りとも種類の違うものだった。
「私が今まで見とれてきたもの、好きだと思ったもの。それを全部あなたにあげます。きれいなものを見つけたら、必ずあなたに教えます。だから、いろんなものをこれから一緒にたくさん見ていきましょう。一緒に楽しいこと、いっぱいしましょう。私にできる限りの力で、あなたを幸せにします!」
「……財物でも社でも、飲食でもないのだな」
 呆然として思わず呟くと、花夜はきょとんとした顔をした後、困ったように笑った。
「父さまに言えば、そういうものも差し上げられるとは思います。でもそれは『花蘇利の国から』あなたへの捧げ物であって、『私が』あなたに捧げるものとは違う気がしますもん。私が自分の力だけであなたに捧げられるものなんて、さっき言ったものくらいしか無いと思いますし……」
 それは単純で他愛もない、人によっては一笑に付すに違いない、幼い捧げ物。しかしそれは国の姫としてでなく、最高位の巫女としてでなく、力無き一人の人間として、それでも俺のために精一杯捧げられる、心からの贈り物。
 俺は思わず笑い出していた。やはり、この少女は他のどんな人間とも違う。
「面白い。面白いな、娘。良いだろう。『お前の』神となってやる。今からお前は『俺の』巫女だ」
 それは、ほんの気まぐれのようなものだった。花夜の示した見返りを、本気で欲しいと思ったわけではない。ただ、この娘と行けば何か面白いものが見られるかもしれない――そんな予感を感じてのことだった。
 笑ったまま俺は手を差し出す。花夜はその手に、微笑みながら小さな指を絡めてきた。
「はい!よろしくおねがいします。神さま」
 こうして俺は、俺の生涯ただ一人の巫女となる少女と契りを交わした。ここから始まる日々が、俺にとってどんな意味を持つことになるのかも知らず、どんな幸福と苦しみを味わうことになるのかも知らずに……。
 

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タイトル
タイトル
画家の恋人
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JUGEMテーマ:恋愛小説

 

 『今回は惜しかったね。次はきっと賞、獲れるよ。がんばって』……なんて、気軽に言える雰囲気じゃないね。

 
 あんたがどれだけ真剣にこの作品に取り組んで、この賞に賭けてきたか、ずっと見てきたから、私も悔しいよ。
 

 
 芸術なんてものは、いつの時代も評価する人の感性次第で、私みたいな素人がどれだけあんたの作品をすごいと思っていても、選者の目には留まらなかったりする。

 
 難しい芸術論なんて私にはサッパリだけど、あんたのこの絵が、大賞に選ばれたあの作品より劣っているなんて、私にはどうしても思えないんだ。

 
 ……たぶん、恋人の欲目なんて入ってないよ。
 

 
 そもそも好きな絵のタッチも画題も、観る人それぞれ違うだろうに、優劣なんて存在するんだろうか。

 
 もしそれがあるとしても、そんな優劣を自分の個人的な好みに左右されずに見極められる目を、あんたの作品を選ばなかったあの人たちは、ちゃんと持っていたんだろうか?
 

 
 ゴッホみたいに生前はてんで評価されなかった人もいるし、江戸時代の浮世絵だって、芸術として認められたのは後世、海外に渡ってからだったよね。
 
 同時代の人の“物を見る目”なんて、だいたい皆そんなもんだと私は思うんだよ。

 
 作者の肩書だとか、お偉いさんのお墨付きだとか、どれだけ有名な賞を獲ったかだとかで評価や見る目をコロコロ変えて、自分の目で、自分の心でちゃんと作品と向き合ってる人なんて、きっとそんなに多くないような気がするんだ。
 

 
 だけど、そんな周りに流されただけの、うわべだけの評価なんて、そのうちにだんだん剥がれ落ちて、忘れ去られて、結局最後は単純な個人個人の好き嫌いの感情が、作品を淘汰していく。

 
 どんなにすごい賞を獲っても忘れられていく作品がある一方で、発表された当時は美術的評価なんてちっともされていなかったモノたちが、今なお愛され続けているように……。
 
 本当に本当の名作ってやつは、一時の流行や画壇の評価なんかに左右されず、多くの名も無き人々に愛されて、百年後も、千年後も残り続ける――そんな作品だと、私は思うよ。

 
 まぁそれだと結局、作者が生きてる間に真の評価を知ることはできないって、そういう結論になっちゃうわけだけど。
 

 
 あんた、前に言ってたよね?
 『“努力は必ず報われる”っていうのは間違いで、それは単に成功者が、報われるまで努力を止めなかったというだけの話だ』って。 

 
 あんたは、まだ努力を止める気は無いんだろう?
 私も、止めて欲しくはないよ。
 
 あんたは、こんな時点で終わるべき人じゃない。
 あんたのその努力と執念は、いつか報われて花開くべきだ。

 
 他の誰が認めなくても、私だけはそう信じてるよ。

 
 無理に背中を押す気は無いけど、放っておいたって、あんたはまた立ち上がるだろう?

 
 ……そういう人だから、ずっとその背中を見ていたいって、思っちゃうんだよ。

 
 
 いつ報われるかも分からない、茨の道とも荒野の道ともつかないこの道を、あんたはどこまで行くんだろうね?

 
 私は、ドキュメンタリーとかによく出てくる、献身的に偉人を支えた良妻賢母みたいに、あんたを助けてあげられる自信は無いよ。

 
 元々ズボラだし、家事も上手とは言えないし、あんたのために自分の人生を投げ捨てられるかって訊かれると『うう〜ん』って悩んじゃうと思うし。

 
 だけどね、それでもあんたの一番の理解者で、一番のファンでありたいって気持ちは、ウソじゃない。
 あんたの夢が叶う、そのことが、私の夢でもあるんだよ。
 

 
 私は信じてるんだ。
 いつかあんたの作品が評価されるようになって、個展とかも開かれるようになって、たくさんの人が、あんたの絵を観に押しかける――そこで私は言ってやるんだ。

 
 『この人、今でこそこんなに評価されてますけど、昔はコンクールで落選続きだったんですよ。それが後にこんな風になるなんて……。過去に審査された方々には、この才能を見抜く目が無かったんですかね」って……。

 
 いつか絶対そんな日が来るって、私は信じてるんだよ。
 だから……いつか来る、その時まで、ちゃんとずっと、そばにいさせてよね。
 

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タイトル
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光の宝玉に選ばれ、やがて大陸を救う“光の女王”となる少女の話(途中まで)
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JUGEMテーマ:オリジナル創作

 

 

 彼女は既に虫の息だった。
 白かったドレスは赤い花を散らしたようにところどころ血に染まり、顔からはすっかり血の気が失せてる。
 もう助からないということを彼女自身も悟っていた。だが、それでも最後の力を振りしぼり、必死に地を這っていく。その目の前には、小さな川が流れていた。
 何とか川辺にたどり着いた彼女は、震える手で懐から何かを取り出した。それは、手のひら大の透明な珠。日の光を浴びて虹色に輝くそれに一瞬目を留め、彼女は小さく呟いた。
「どうか……新しき主の元へ……」
 傾けられた手のひらから珠がこぼれ落ちる。それは、とぽん、と音を立て川の水に沈んでいった。彼女はそれを見届けると、静かに目を閉じる。それが、彼女の最後の動作だった。
 彼女の手から離れた珠は、川底にたどり着くと淡く光を放った。その表面が一瞬、金色の光により描かれた文字とも文様ともつかぬもので埋め尽くされる。やがて、珠はゆっくりと川底を転がりだした。水の流れに逆らい、下流から上流へと……。まるで彼女の最後の願い通り、主を探してさまようように……。

 

 

「……光の宝玉姫が身罷られました」
 亜麻色の髪に顔のほとんどを隠した少女が感情の籠もらぬ声で告げる。同時にじゃり、と重い鎖の音が鳴った。
「ほう?死んだか。で、光玉はどうなった?」
 男は手の中で鎖を弄びながら問う。
「分かりません。……主を持たぬ宝玉の行方は私にも視ることができないのです」
 少女が言った途端、男は無言で鎖を引いた。少女が悲鳴を上げて床に転げる。その足首には長い鎖をつないだ足枷がはめられていた。
「……本当だろうな?」
「本当……です。嘘など申しません」
「まあ良い。信じてやろう。……今のところは、な」
 どこか含みのある声音で言い、男は薄く笑う。少女はうつむき、手に持った珠をぎゅっと握りしめた。
(お願い。だれか、守って。この世界を……)
 その声にならぬ願いに応えるように、少女の手にした珠に、一瞬針の先のように小さな金色の光が瞬いた。

 

 

「エルダー!そっちへ行ったわ!捕まえて!」
 少女が大声で叫ぶ。直後、激しい水音と少年の歓声が響いた。
「やった!捕まえた!アンゼリカ!早く桶を!」
 声を受け、川原に待機していた別の少女が木桶を手に少年に駆け寄る。
 少年は両腕に抱えていたものを急いで桶の中に放した。すぐに元気良く桶の水の中で泳ぎだしたそれは、一匹の鮎。一人が魚を追い込み、もう一人が手づかみでそれを捕らえる。少女たちは先ほどからそうやって必死に魚を捕まえていた。
 とは言えそれは彼女たち自身の食糧とするためではない。川に棲む魚も、森に棲む鳥や獣も、全てその地を納める領主のもの。領民が勝手に捕らえて食らうことは許されない。それがこの時代の常識だった。少女たちが捕らえているのも全て領主に捧げるための魚。
 そうやって魚を捕らえる代わりに村長からわずかの食糧を分けてもらうのが、彼女達にとって自らの食い扶持を稼ぐ数少ない手段の一つだった。
「もう一匹いた!構えて!エルダー!」
 少女はすぐにまた別の魚を見つけ、浅い川の中を裸足で駆けだす。灰茶色のおさげ髪が肩の上で跳ねた。彼女の名はマリア、十四歳。三人姉弟の長女であり、家族を支える大黒柱でもある。弟のエルダーは十一歳、妹アンゼリカはまだ七歳。両親はすでに亡く、頼れる親類縁者も知らない三人きりの家族だ。
 再び川原に戻り姉たちの様子を見守っていたアンゼリカは、ふと足元に目を留めた。そこには川辺の石と石の間に引っかかるようにして透明な珠が転がっていた。
 日の光を受け虹色の光沢を放つその珠を、アンゼリカは何の気なしに拾い上げる。その瞬間、珠の表面に金色の光で文字のようなものが浮かんだ。
「きれーい……」
「アンゼリカ!何やってるんだ!早く桶!」
 エルダーの叫びにアンゼリカはハッと我に返り、とっさに珠をエプロンのポケットにしまった。
「ごめんなさい!エルダー兄さま」
 再び桶を手に走り出す彼女のポケットの中で、珠に浮かんでいた光の文字は静かに消えていった。

 

 

 たっぷりの水と今日獲れた鮎の入った三つの木桶をひとつずつ手に持ち、姉弟は村の道を歩いていく。季節はもうそろそろ夏も終わり秋に入ろうかという頃。村人たちは夏畑に実ったエンドウ豆やカラス麦の収穫とこれから種を蒔く冬畑の準備で忙しそうに動き回っていた。
「あら、そばかす娘じゃない。またフィドルの所に媚びを売りに行くの?」
 雑草だらけの休耕地を鋤き返し冬畑の準備をしていた少女が手を止め、マリアの方へ歩み寄ってくる。マリアは顔色も変えずに言い返した。
「残念。不正解よ。私の媚びは誰かに売れるほど安くないの。あんたと違ってね」
「何ですって?」
「媚びを売りたいのはあんたの方でしょう?こんな所で無駄口叩いてる暇があるなら、さっさと仕事を終わらせてフィドルの家へ行ったらいいじゃない」
 少女はぐっと言葉に詰まる。フィドルはこの村の村長の一人息子だ。特別整った容姿ではないが、優しげな顔立ちと温厚な性格を持ち、村の少女たちには極めて人気が高かった。だが村長の家はただの村娘にとっては少々ハードルが高い。マリアたちのように特別の用でもない限りそうそう近づける場所ではなかった。
「言っておくけど、あんたの顔じゃいくらフィドルに近づいたってムダなんだからね。そこの所、よくわきまえておきなさいよ!」
 少女は悔しまぎれにそう言い捨てると、畑の中へと駆け戻っていった。少女の背中を見送り、マリアは小さくつぶやく。
「分かってるわよ。元からそんなつもりないし」
 マリアは自分の容姿を十分自覚していた。
 ただでさえ十人並みな容姿だというのにろくなものを食べないせいで手足は棒切れのように細く、身体には女らしい丸みもない。肌は白いがそのせいで日に焼けると顔中にそばかすが浮く。髪は灰色がかった茶色でツヤも無く、おまけにひどいくせっ毛で、上手くまとめ髪にすることもできずに、いつも何だかボサッとしている。
「……わたし、あの人きらい。いつも姉さまのこと悪く言うんですもの」
 アンゼリカの言葉にマリアは苦笑した。
「仕方ないわよ。私たちはしょせん『よそ者』だもの。おまけにしょっちゅう村長の家に入り浸ってるし。玉の輿を狙ってる娘たちからしたら面白くないんでしょう」
 マリア達姉弟はこの村の出身ではない。幼い頃、母親とともに戦火を逃れてあちこちをさまよい歩いた末、この村にたどり着いたのだ。村へ来る前の記憶はあまりにもおぼろげで、マリア達からしてみれば夢のようにしか思えない。だが『この村の生まれではない』という事実はマリア達姉弟の上に重くのしかかっていた。現に今、マリア達は自分の農地も家も持たず、村長の厚意にすがって何とか暮らしを立てている状態だった。
「やあ、マリア。そろそろ来る頃だと思っていたよ」
 村長の息子フィドルはマリア達の訪問を知ると目を輝かせて出迎えた。
「フィドルお兄ちゃん、こんにちは!」
 マリアより先にアンゼリカが満面の笑みで挨拶する。フィドルは実の妹を見るように目を細めて微笑みかけた。
「こんにちは、アンゼリカ。今日も美人さんだね」
 その言葉にアンゼリカは頬を染めてはにかむ。
「はい、お約束の鮎七匹よ。これだけ獲るの苦労したんだから、少しくらいおまけ付けてよね」
「君は相変わらず愛想のカケラもないね。もう少しアンゼリカを見習って笑顔にしてればいいのに」
「愛想が無くて悪かったわね。でもアンゼリカと違って不器量な私が笑ったところで、誰も喜ばないでしょ」
「そんな風に自分を貶めるもんじゃないよ。確かにアンゼリカやエルダーとはタイプの違う顔立ちだけど、君の瞳には他の人間にはない強い輝きがある。それは君だけの、君にしか無い魅力だ」
 真剣に諭されて、マリアは毒気を抜かれた気分になる。フィドルのこういう冗談もロクに通じなさそうな生真面目さが、苦手でもあり、でも、時々ありがたくもある。
「……ありがと。そういうこと言ってくれんの、あんただけだわ。お世辞でも嬉しい」
「…………お世辞なんかじゃ、ないんだけどね……」

 

 

「フィドルお兄ちゃんって、マリア姉さまのことが好きなのかなぁ?」
 洗濯物を畳みながらアンゼリカがつぶやく。マリアは針を手に繕い物をしながら、けらけらと笑った。
「何言ってんのアンゼリカ。そんなわけないでしょう。フィドルだったら村の女の子よりどりみどりなのに、わざわざ私みたいな十人並み以下の女を相手にしたりしないわよ」
「でもフィドルお兄ちゃん、姉さまの前でだけ態度がちがうのに……」
「……肝心の姉さんがこれじゃ、フィドル兄ちゃんも報われないなぁ。……アンゼリカ、大丈夫だよ。姉さんの方には全くその気がないから。アンゼリカが大人になる頃にはフィドル兄ちゃんも諦めてるって。チャンスは絶対来るさ」
「って、まさかアンゼリカ、あなた、フィドルのことが好きなの……」
 驚いて顔を上げた瞬間、マリアは思わず持っていた針で自分の指を思いきり突き刺してしまった。
「痛ッ!」
「大丈夫?姉さん。何やってるんだよ」
 指先に見る間に赤い血の玉が盛り上がる。だがマリアはそれには構わず必死な表情でアンゼリカにつめ寄った。
「ダメよ、アンゼリカ!あなたは私と違って容姿に恵まれてるんだから、こんな田舎の村長の息子の嫁なんかで終わっちゃダメ!あなたの顔だったら領主様に見初められて奥方に迎えられることだって夢じゃないんだから!」
「でも、わたし結婚するならフィドルお兄ちゃんのお嫁さんがいい」
「お願いよ、アンゼリカ。あなたが絶世の美女に育って、玉の輿に乗って、おとぎ話のお姫さまみたいに幸せになるのを見るのが私の夢で生きがいなんだから!」
「自分に叶えられない夢を妹に押しつけるのはやめた方がいいよ、姉さん。それに領主の奥方なんかそんないいもんじゃないよ。血なまぐさい槍試合を観戦しなきゃいけなかったり、狩に同行しなきゃいけなかったり、いざという時には領地を守るために兵を指揮して戦わなきゃならないんだよ?アンゼリカには絶対無理だって」
「他人事みたいに言ってるけどね、あなたにも私は期待してるのよ、エルダー。あなたの顔ならそのうちきっと、貴族の姫君だって落とせるわ。身分的に結婚は無理でしょうけど、取り入って上手いこと良い職や地位を手に入れられれば……」
「姉さん、黒い……。腹黒いよ……。僕、そんな下心と謀略にまみれた人生送りたくないよ……」
 アンゼリカは上の姉弟ふたりの会話がさっぱり理解できないらしく、きょとんとした顔で見つめていた。が、ふと思い出したようにエプロンのポケットから例の珠を取り出した。
「そうだ、マリア姉さま。今日、川ですごくきれいなものを拾ったの」
「え!?何、ソレ、綺麗。何だかとても高価そうね……」
 マリアが目をきらきら――否、ぎらぎらさせて珠を受け取る。その時、指先から流れる血の一滴が珠に触れた。瞬間、珠の表面がまぶしいほどの光の文字で埋め尽くされた。
「な、何!?」
 それはこの大陸のいかなる国の文字とも異なるものだった。
<血液の接触を確認。血液認証を開始します>
<登録済みの血統情報と照合中>
<……一致しました。よってマリア――を当端末の新しい管理者として登録致します>
 表示されたその情報を、三人が理解することはなかった。
「うわぁー……きれーい」
「ちょっ、姉さん!アンゼリカ!それ、何かヤバそうじゃない!?離れた方がいいよ!」
 エルダーが叫ぶ。だがマリアの目は珠に釘付けになってしまっていた。
『――光の……に、なって』
 頭の中に、声が聞こえる。今にも絶えそうにか細い、女の声だ。
『私の代わりに、この国を救って。新しい、光の……』
 一瞬、脳内に川辺に倒れ伏す白いドレスの女の姿が浮かぶ。
「……何?今の……」

 

 

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タイトル
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腹黒策士を気取る天然少女と、振り回されっぱなしの幼馴染少年
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JUGEMテーマ:ショート・ショート

 

 思えば、可愛げのない小学生だったと思う。

 

「やっぱ、なるなら腹黒策士よね!」
「私はリーダーよりも、それを陰で操る参謀役がやりたいの!」

 

 齢10歳未満にしてそんなこと言う女子、今の私なら完全にドン引きしてる。
 でも、そんな私の、他人とはちょっと違う感覚を、いつもニコニコ受け入れてくれて懲りずに(恋愛的な意味ではなくて→)つき合ってくれたのが、流星だった。

 

 幼い頃はただ都合の良い子分のように思ってきたけど……ある日、気づいてしまった。

 彼に対するこの想いが、私の初恋なのだと。

 

 気づいてしまった以上はしかたない。
 “腹黒策士”の名にかけて、流星を絡め取るため、自分史上最高の策略をめぐらせる。

 
 失敗は許されない。手に入れるか、失うか、ふたつにひとつだ。

 それでも、どうしても欲しいんだ。今のままの関係じゃ――幼馴染なんかじゃ、足りない。

 
 他の友達と同列に扱うんじゃなく、もっと、心のすべてを私に向けてくれないと。

 

 ――でも、具体的に、何をどうしたらいいんだろう。

 
 まずは私を恋愛対象として見てもらうことが前提。
 できれば異性としての魅力を感じてもらえれば――つまり“萌え”てもらえれば上々。
 だけど、今まで散々腹黒策士を気取ってきたこの私が、いきなり萌えキャラのような言動をとっても、流星を不審がらせるだけだろう。

 

 ごくごく自然な態度で、それでいてさりげなく流星が萌えるような言動をとる――はっきり言って相当な修行が必要だ。
 そもそも、流星の萌えツボが分からない。
 ……ここはとりあえず、「ギャップ萌え」だとか「萌え袖」だとか、世間一般的な「萌え」を少しずつ、不自然でない程度に盛ってみるか。

 


 

 最近、幼馴染の天真の様子がおかしい。

 

 ひとり何かを企んでニヤニヤしているのはいつも通りなのだが……、何だか最近妙に女の子っぽくなったと言うか……。
(まぁ、そもそも元々女子なんだが……。あいつ、女子とか男子とかいう垣根を超越して“神楽坂 天真”以外の何者でもないしなぁ……)

 

 その上、何と言うか……俺に対しての態度がナゾ過ぎるのだ。

 

 お化け屋敷に自分から誘ってきたかと思えば、超棒読みセリフで『きゃーこわーい。私じつはこういうのにがてなのよねー』などと『なら何で自分からそこに誘ってるんだよ!?』と言いたくなるような態度をとってきたり……

 
 サイズが合わないのか、腕部分がダボっと長くなった服の袖を、俺の前でやけにバタバタ振ってみせたり……

 

 あいつが俺のことを好きで、俺に好意を持たれたくてあんなことをしている……なんてわけ、ないよなぁ……。

 
 これまでも、あいつの脈ありげな態度にいちいち期待してきたが、いつも、ただの天然だったり何かの罠だったもんなぁ……。

 

 昔からあいつの、頭がいいくせに肝心なところで天然な性格や、悪だくみに振り回されっぱなしで、なのに懲りずに(恋愛的な意味ではなくて→)つき合ってきたのは、いわゆる『惚れた弱み』というヤツなのだが……あいつはおそらく俺の気持ちになど、未だにこれっぽっちも気づいていない。

 
 こっちは結構分かりやすく態度に出しているつもりなんだが……あいつ、頭いいくせにヘンに鈍いからな。

 

 幼馴染とは言え、こんなにも長い間、俺とのつき合いをいつでも優先してくれているのだから、全くの“脈無し”ではないはずだ。
 ここらでいっそ、告白でもしてみるべきなのだろうか……。
(……でも天真のことだからな……「うん。私もあんた好きー」とか、テンプレな“ラブとライク勘違い”の挙句、軽く流されそうで恐い……。)

 

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タイトル
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悪友で腐れ縁で、今日から俺のヨメな相棒へ
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JUGEMテーマ:超短編小説

 

 

 「お前、ヨメのもらい手なくなるぞ」って言ったら「じゃあ、あんたにもらわれてあげるからいいよ」なんて、冗談で返されたことがあったよな。 
 あの時はそれが本当になるなんて1ミリも思っちゃいなかったのにさ。人生、何がどう転ぶか本当に分からないもんだ。

 

 

 “なれそめ”なんて聞かれてもさ、正直お互い覚えちゃいないよな。
 気づけばご近所同士、男も女もなく、いつも一緒につるんでてさ。

 
 そういう幼馴染的な女子のこと、フツウは『妹みたい』って表現するんだろうが、お前って奴はとてもそんな可愛らしいモンに収まっちゃいなかったよな。
 良くて『弟』悪くて『悪友』。あの頃のお前を女子として意識したことなんか、誓って一度も無かったよ。

 

 サバサバして、ノリが良くて、何でも面白がってくれるお前は、下手な男子よりもつるみやすくて、気づけばいつも一緒に行動してたよな。

 

 
 中学生になってからは“つき合ってる”て誤解もよくあったけど、そのたびに二人で笑って一蹴してたっけ。

 
 似た者同士の俺とお前の間で、恋だの愛だのなんてうすら寒い気がして、その可能性を考えることすらしなかったよな。
 俺だけじゃなく、きっと、お前も。

 

 お互い高校生にもなれば、それぞれにいろいろあって、互いの恋人に遠慮して距離を置いてたこともあったっけ。

 
 お前とつき合うなんて奇特な男もいるもんだと、当時は思ってたもんだけど、お前のそういうサッパリした気性が、案外一部の男子にウケてたんだってな。

 
 俺も女心がサッパリ理解できなくて、彼女といるよりお前といる方がラクだと思ってたくらいだから、何となく分かる気がするよ。

 

 

 お前を女として意識したのは、いつだったかな……。

 
 いつも一緒にいたはずだったのに、いつの間にか互いの知らないつき合いや時間が増えて……。
 知らない間にお前が開けてたピアスにびっくりしたりして……。

 
 ピアスだけじゃなく、かかとの高い靴も、短いままだけど垢抜けた髪型も……いつの間にか、俺の知らないお前が増えてた。
 俺の知らない間にお前が通り抜けてきた、いくつもの恋がお前を変えてきたんだと気づいた時、何とも言えない気分になったよ。

 
 言っとくけど、たぶん嫉妬とかじゃないからな。たぶん、だけど…………。

 

 

 俺の戸惑いがお前にも伝わったのか、お互いヘンにぎこちなくなった時期もあったよな。

 
 お前の方でも俺のことを意識してるのが何となく分かって……妙にくすぐったい気分だった。
 いい雰囲気になりかけたことも何度かあったけど……これが恋になるって確信が持てなくて、なかなか一歩が踏み出せなかったな。

 
 だって、今さらお前と、なんて……どんな顔して何をどう言えばいいのか、マジで分からなかったんだよ。

 

 

 「いっそのこと俺らもう、つき合うか?」なんて軽いノリのメッセージだったのは謝るよ。
 あれでも実は相当に悩んで迷いまくった挙句の文章だったんだぜ。

 
 あの後の既読スルーによる数分間の放置プレイはマジ、地獄かと思ったよ。
 さらにそこから直接部屋に乗り込んで来られてのダメ出しの嵐だったからな。

 
 OKはもらえたものの、結婚したら尻に敷かれる予感しかなくて、早くも後悔しかけたよ。
 ま、今はそれも“一つの幸せの形”なのかも知れないと、もう半ば諦めの境地でいるけどな。

 

 

 ……にしても、ウェディング・ドレスってのは不思議なモンだな。
 お前だってことは分かってるのに、何だか別人みたいに清楚に見えるよ。

 
 ……「あ、さては見惚れてたっしょ?」って、お前な……。
 そういうこと言うから、こっちが素直にホメられなくなるんだろうが。

 
 まったく……。見た目はいつもの倍・綺麗でも、中身は相変わらず、お前以外の何者でもないな。
 けど、まぁ、そんなお前だから、肩の力を抜いて気楽にやっていけるんだろうけど。

 

 

 とにかく、まぁ今日からはよろしくな。“俺のヨメとして”……ってのも、何か微妙に違和感があるな。
 何でだろう?間違いなく事実のはずなんだが、ナゼかしっくり来ない。

 
 お前にピッタリ来るのは……うん、そうだな。
 これまでもそうだったように、俺の“人生の相棒”として、これからもどうか、よろしく頼むな。

 

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タイトル
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踊り場の踊り子に捧げるモノローグ
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JUGEMテーマ:自作小説

 

 マンガやアニメだとよくある、生徒が出入り自由な屋上って、現実の学校でどのくらいあるんだろう?
実際、ウチの学校はカギがかかってて出られないし。

 
――だからこそ、屋上へ通じるこの階段は、普段誰にも使われなくて、ちょうどここの掃除担当だった君の、秘密の踊り場だったわけだけど。
 
最初にそれを見た時は、正直面食らったよ。
文字通り踊り場で踊っている人間がいるなんて。

 
だけど君のその踊りは、どんなプリマのバレエより、どんなメダリストのフィギュアスケートより、ずっとずっと美しく見えて‥‥そのことにも驚いたんだ。
それが完全独学の、見よう見真似の踊りだと知った時には、さらにその数倍驚いたけど……。
 
僕に見られていると気づいた時の、君の慌てふためき(テンパリ)ようは、すごかったね。

 
思わず笑いをこらえるのに必死になってしまったけど……今思えば、あの時僕は、ただ単純に可笑しがっていただけじゃなく、君のその慌てぶりを『可愛い』なんて思っていた気がする。

 
だって、それから君のことが頭から離れなくなってしまったんだから。
 
近づいてみると、君は思っていた以上に不思議な子だった。
ただ無邪気なだけかと思えば、時々恐ろしいくらいシビアに現実を見つめている。

 
まるで、この世界のことを何も知らない代わりに常識にも何ものにも縛られていなかった幼い頃の心のまま、身体だけが成長したような――そんな人間に見えたよ。

 
同じものを見ていても、僕と君とでは感じることが全然違っていて……そんな君の目に映る世界を――きっと僕が見ているより、ずっときらきらして綺麗に見えているであろう世界を、僕も知りたいと思ったんだ。
 
だけどこの世界は、君のような異質な個性を、そう易々と受け入れてくれる所じゃなかった。
同年代の女子の中でちょっと“浮いていた”君は、クラスの女子のリーダー格に目をつけられて、(いじ)めのターゲットにされてしまった。
 
小中学校交流会での朗読劇では“シンデレラのイジワルな継母や義姉”の役を皆嫌がっていたくせに、現実ではびっくりするほどあっさりと、自ら虐め役に回ってみせる彼女たちの思考回路が、僕にはさっぱり理解できない。

 
しかも彼女たちのやり口は随分と陰湿で巧妙で……僕は笑って誤魔化す君がそんな目に遭っていただなんて、しばらく全く気づけずにいたんだ。
 
やっと気づいてからも、僕は君をロクに助けることもできやしなかった。

 
僕が気づいて口出しすれば、彼女たちはバツが悪そうにその時だけは退いていったけど……結局僕の目の届かない所で虐めは続いていた。それどころか、“男子に庇ってもらえる女子”は余計に嫉妬を買って、ますます虐めがエスカレートするばかりだって……君から聞いて、僕は愕然としたよ。
 
僕は、どうすれば君を助けられたんだろう。

 
「逆効果にしかならないから、もう余計なことしないで」と言われて、僕は君に拒絶されたように感じてしまった。
僕が君のためにしてきたこと全てを、その君自身に全否定されたような気がして……。

 
僕はその心の痛みに耐えかねて、思わず君から距離をとってしまった。
……情けないヤツだと、本当、自分でもそう思うよ。
 
君が学校へ来なくなった時は、正直ホッとしてしまったのも事実だ。
君が傷つく姿をこれ以上見なくて済むと思ったのと、君と顔を合わせるのが恐かったのと、君を救えない無力な自分にこれ以上絶望したくなかったのと……今思えば、ただ現実逃避していただけなのかも知れないけど。
 
だけど、君が教室にいない日が二日続き、三日続き……数えるのも忘れてしまうほど増えていくにつれ、何だか喉が渇いてたまらないような、もどかしいほどに何かに飢えている自分に気づいたよ。

 
こんなどうにもならない状況になって、ようやく僕は気づいたんだ。
僕にとって君が、どれほどの存在なのかということに。
 
きっと今この瞬間も、一番辛いのは僕じゃなくて君の方だ。
未だに君を救う方法一つ見つけられない僕に、嘆く資格なんて、きっと無い。

 
だけど、どうしようもなく思ってしまうんだ。君に会いたい、と。
君に学校で嫌な目に遭って欲しくないっていう、その気持ちも紛れもなく真実なのに。

 
矛盾だらけで思考の逃げ場がどこにも無い、八方塞がりのこの想いを、僕は今も捨てることも投げ出すこともできずに抱え込み続けている。
 
今日もまた、気づけばこの階段を上っている。
ここに君がいないことなんて、分かりきっているのに。

 
君のいないこの踊り場は、物音ひとつ無く静まりかえっていて、まるでこの空間だけ、学校という世界から切り離されてしまっているみたいだ。

 
だからかな。教室に来なくなった君とも、ここでなら会えるような、そんな気がしてしまうのは。
……ばからしい妄想だと、自分でも分かってはいるのだけど。
 
思えばおかしな話なのかも知れないな。

 
病気を克服する方法なら、数えきれないほどの人間が研究して多くの成果を出しているのに、虐めを根絶する方法なんて、そもそも真面目に研究している人間がいるのかどうかすら知らない。
多くの人間が苦しんで、時には命を落とす人さえいるって所は、病気と何も変わらないのにね。

 
大きな事件が起きた時だけ大騒ぎして、でも使えそうな解決策は何一つ出ないまま、そのうちに忘れていく。
もっとも僕だって、君のことがなかったら今ほど真剣に考えていたとは思えないから、赤の他人の無関心さを咎められる義理なんて無いんだろうけど……。
 
今日も僕は独りここで君をこの場所に取り戻す方法を探している。

 
考えても考えても、答えどころか糸口ひとつ見つけられなくても。
あの時守れなかった君への償いのように、ただ君だけのためにこの頭を動かしている。
そうしているとそのうちに、あの日ここで踊っていた君の幻が、踊り場の風景に重なって浮かんでくるような気がするんだ。
 
……もう、チャイムが鳴ってる。そろそろ戻らなくては。

 
重い足取りで階段を下り、途中まで来たところで、僕はいつも足を止める。
そうしていつも、振り返ってしまうんだ。
何度見たところで君がいるはずもない踊り場を、それでもまた、振り返ってしまう。
 
明日もたぶん、君は来ないだろう。
そして僕はまた、ここへ来てしまうのだろう。

 
君にとっては辛いこの学校(ばしょ)で、『会いたい』なんて無責任に願う(・・)ことはできない。
ただ僕は、待って(・・・)いる。

 
明けない夜が無いように、覚めない悪夢が無いように、いつかこの状況が破られる日を。

 君とまた当たり前に会える日を。

 
奇跡を夢見る子どものように、無力に、他力本願に、ただひたすら待ち続けているんだ。

 

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乙女ゲーム風小説・貴公子系キャラ攻略ルート(宮廷ロマンス風ルート)没シーン
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JUGEMテーマ:恋愛小説

 

「次は、エポルエ領国のエクナルフ宮殿です」

 

 そう言われて連れてこられた先は、まるでヴェルサイユ宮殿のような西洋風の宮殿だった。

 

 フランス革命前後のヴェルサイユを舞台にした某少女漫画の影響で世界史――特にヨーロッパ史に傾倒していった私にとっては夢のような場所だった。

 

「うわぁー……すごい。“異世界”なのに、すごくロココ調っぽい装飾……。素敵……。あ、でも、あっちのチャペルっぽい建物はゴシック様式的かも……。庭園の造りはフランス式かな……?あの生垣は薔薇……?あ、でも、この世界に薔薇は無い、かな?」

 

「いいえ、薔薇で合っていますよ。あの植物は貴女方の世界からこちらの世界にもたらされたものですから」

 

 興奮して一人ではしゃいでいた私は、イクスの言葉に我に返り、ぼっと顔を赤らめる。

 

「あ……その、すみません。一人で興奮してしまって。あの……私、こういう宮殿に憧れていて。でも、実際には行ったことがなくて、その……」

 

 恥ずかしくて顔を上げられない。

 呆れられてしまったのではないかと不安で、イクスの目を見るのも恐かった。

 

「我々の世界が貴女方の世界と類似しているのは、二つの世界が深い所で繋がり合っていて、我々が常に意識の深層で貴女方の世界――“地球”の影響を受けているからだと、リア文書には記されています。エスリヴェールの建築様式が貴女の世界のものと似ているのも、その表れなのかも知れませんね」

 

 イクスは呆れたり咎めたりするどころか、私のひとり言を拾って会話にしてくれた。

 その、相手に恥をかかせない気遣いに、かえって自分のコミュニケーション能力の低さを思い知らされた気がして、少し凹む。

 

 私ばかりがフォローされていて、私の方はイクスに何もできていない。

 イクスはこんな私と一緒にいて、楽しいのだろうか……?

 

「エポルエの春花の宴は、いつも趣向を凝らしていて見応えがあるのですよ。今回はどうやら、庭園でのガーデン・パーティー形式のようですが……」

 

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愛にあふれたこの世界で、君と
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JUGEMテーマ:習作短編現代恋愛小説

 

ねぇ、知ってる?

 
夏目漱石は「I love you」を「月が綺麗ですね」って訳したんだって。
すっごいナナメ上をカッ飛んだ、アクロバティックな訳だよね。


でも、何となく分かる気がするな。

 

君のことを愛してる、なんて、日常の中でフツウに口にするには、あまりにも気恥ずかしくて重たい言葉だもん。 

だから、こんな風に日常にありふれた言葉で、さりげなく、自然に、君への好意が伝わればいいなって思うよ。


「日が暮れるの、早くなったね。もう、冬なんだね」

 

こんなにささいな、どうでもいいような言葉だって、一言でもいいから君と話していたいんだ。

一言でも多く、君と言葉を交わして、君と何かを共有していたいんだ。


「見て、あの空。下の方がグラデーションになってる」

 

日が暮れていく時の空の、綺麗なグラデーションが私、好きなんだ。
今日、君と一緒に見られて良かった。

 
好きなものを好きな人と一緒に見られるのって、ちょっとした奇跡だよね。

ふたりとも受験生だから、こうして放課後一緒に帰るくらいしか時間がとれないのが寂しいけど……。


「そう言えば、今日の模試、どうだった?」


本当はね、不安もあるよ。
受験のこと、将来のこと、君との、この先のこと。

 

君と一緒の学校へ行けるか、まだ分からないし。
卒業して環境が変われば、今までと同じではいられなくなるかも知れない。

 

だけど、だからこそ余計に、今のこの時が大事なんだ。
一分一秒だって忘れないように、胸に刻みつけてるんだよ。
いつかの未来に、今の私のことを、ちゃんと思い出せるように。


「あっ。あそこに光ってる銀の星、あれって金星かなぁ?」

 

宵闇の、不思議な透明感のある紺碧の空の中、細い針の先のように小さく鋭く光る星がある。
冬の凍てついた空気の中、ちらちらと哀しげに瞬く星。

 

あの星には確か、とても美しい別名があったはず――

 

「金星だよ。 宵の明星 ( イヴニング・スター ) とも言うんだ」

 

ぼんやり思い出そうとしていた、その美しい名前を、君がさらりと口にしたから、何だか心がホワッてなった。

この感じ、何だか似ている気がする。


そうか。たぶん、きっと“月”じゃなくてもいいんだよね。

きっと星だって、空だって、夕日だって、街の灯りだって、花だって、風だっていいんだ。


君と一緒に、綺麗なものを見ていたい。
美しい何かを見つけたら、君にも教えてあげたい。
私が綺麗だと思ったものを、君も綺麗だと思ってくれたらうれしい。

 

――私がきれいだと思って覚えていた星の名を、君が ( ) っていたことが、こんなにも今うれしいように。


「そうなんだ。……きれいだね(・・・・・)

 

これ(・・)が好きだということなら、この世界はもしかして、 愛の告白 ( I love you ) にあふれているのかも知れない。

 

「……あぁ。綺麗だね」


君がそう言って笑ってくれる。
それだけで私は嬉しくなる。

 

もっともっと君と共有したいな。
この世界の、たくさんの綺麗なものを。

この先も、できれば、ずっと……。

 

 

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地球を侵略に来た異星人たちと戦う少女の話(のワン・シーン)
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JUGEMテーマ:妄想話

 少女は男の首に刃の先を突きつけ、告げた。

 

「あなたの負けよ。降伏なさい」

   

 男は荒い息ながら、鋭い目で少女を睨みつけ、言い放つ。

 

「殺すが良かろう!降伏など誰がするか!!」

   

 少女は醒めた目で男を見つめ返した。

 

「あなたに選択を迫っているわけではないわ。命令よ。降伏なさい。嫌だと言っても殺してなんかあげない。自分で命を断つ気もないくせに、命を粗末にするような台詞、吐かないでちょうだい」

   

 男は呆然とした。

 周囲では『殺せ』という声がさかんに聞こえる。

 

「降伏したって後で裏切るぞ。他の奴らの言う通り、殺した方が良かろう」

 

 男が突き放すように言うと、少女は瞳に怒りを宿し、冷たく言った。

 

「自分では何もせず、平気で他人に手を汚せ、なんて言う人達の言葉に従う義理など無いわ。どうして私が手を汚さなければならないの」

 

 そういう問題か、と思わずにはいられなかったが、それでも男は、その少女の尊大とも言える言い様、怒りに燃える瞳に釘づけとなってしまった。

 

 なんという少女だろう。戦闘センスだけではない。こんな少女はそうそういない。

 

「あなたは一体……。もしや、この惑星の王族の方では……?」

 

 少女の、あまりにも“揺らがない”態度は、何か毅いものを感じさせた。何者にもまつろわぬ、王族のような……。

 そこでそう尋ねたのだが、少女はその問いに目を丸くして沈黙した。

 

「……あなたは生まれ持った身分で人間を評価すると言うの?私がこの星のお姫様なら、あなたは素直に降伏してくれるの?」   「………………」

 

「身分なんて、力有る者なら自らの力で掴み取ることができるものよ。普遍のものなどではない。今、私には身分も肩書も無いけれど、あなたに丸腰で挑んで勝ったわ。その点だけでも認めて、おとなしく従いなさい」

 

「はい」

 

 男は思わず答えていた。思わずそう言ってしまうだけの何かが、彼女にはあった。

 

「よろしい」

 

 少女はそこで初めて、にっこりと微笑んだ。

 先ほどまでの戦いぶりが嘘のような、どこかあどけなくすら見える、愛らしい笑顔だった。  

 

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あなたの声は、フルートの吐息。
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JUGEMテーマ:ものがたり

 

 何であんな無愛想な男が好きなの?なんて、友達にはよく言われるよ。

 
 あなたはフルートに関しては超がつくほどの天才だけど、コミュニケーション能力に関しては完全に人並み以下で、人と話している時間より、フルートを奏でている時間の方が長いくらいに無口な人だから。

 

 今まで何人かの女の子が、あなたの才能に惹かれてつき合ったけど、皆あなたの口数の少なさと無表情ぶりに困惑して、だんだん離れていったよね。一時期「来る者拒まず、去る者追わず」なんて噂されていたけど――私、知ってたよ。

 あなたが恋人を失うたびに、本当は傷ついていたことを。

 

 あなたはたぶん、とても不器用な人なんだろうね。

 あるいは感情を表に出すのが恐い、のかな?

 私も同じだから分かるよ。

 
 べつに心が“無い”わけじゃないのにね。

 ただ表に出せていないだけで、頭の中ではいろいろな感情が渦巻いているのにね。

 
 感情を苦も無く表に出せる人たちには、なかなか分かってもらえない。

 冷めてるだとかクールだとか、愛想が無いとか誤解されて、離れていかれたり、的外れな文句を言われたり……。
 そうすると、余計に感情を表すのが恐くなって、結局は悪循環。

 あなたも、そうだったりするのかな?

 

 あなたは周りから感情が乏しい人のように言われているけれど、本当は誰よりも豊かな感情を持っている。
 私には分かるよ。あなたのフルートを聴けば分かる。
 あなたの心は言葉に乗って口から外へ出る代わりに、フルートの音色に乗って、音楽としてあなたの外に出て来るの。

 

 あなたの音を初めて聴いた時のこと、今でもよく覚えてる。
 こんなにあたたかい“声”を聴いたのは、初めてだと思った。

 あなたのフルートを聴くまでは、それが人間の吐息によって奏でられているということさえ、忘れていたのに。

 
 あなたの奏でる笛の音は、人の息づかいそのもの。喜びや悲しみに震える人間の、声無き声。
 あなたの胸から零れたそれは、フルートの銀管の内を通り抜け、この世界の空気を震わせ、妙なる音色となって響き渡るの。

 

 言葉で感情を表すのが下手な人は、その代わりに別の方法で感情を表現することが上手くなるのかも知れない。
 他の人たちは、技巧がどうの、表現力がどうのと褒めそやすけど……。あなたはきっと、自分の心のおもむくままにフルートで“歌って”いるだけ。
 あなたの奏でる音が皆の心を打つのは、きっとそれだけ豊かな心が、あなたの中に在るからだと、私は思うんだ。

 

 今日もあなたの“声”が聴こえる。あなたの吐く息。あなたのフルートの歌う声が。
 千の言葉よりも雄弁に、あなたの心を伝えているよ。

 気がついているのは、今は私だけかも知れないけれど。

 

 私があなたに気づいたように、いつかあなたも私のことに気づいてくれるといいな。
 今はまだ、想いを伝える勇気も無い私だけど、一つ、ささやかな野望を持っているんだ。

 

 いつか、あなたと一緒のステージで演奏したい。
 天才のあなたと同じステージに立つには、きっと血のにじむような努力が必要だろうけど……。

 
 あなたのフルートの優しい吐息と、私の奏でる音とが、重なり合い、やわらかく溶け混じって、空気を震わせ、この世界に響く――それを想像するだけで、不思議と、どんな努力も全然苦しくなくなるんだ。

 

 気づいてね。あなたを想って紡ぐ音に。
 あなたへの想いに震える、この心の“声”に……いつか、どうか、気づいてね。

 

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