コンテンツ
ヘッダ

言ノ葉スクラップ・ブッキング〜シーン&シチュ妄想してみた。〜

管理人が妄想したシーンやシチュエーションをショート・ストーリー(?)にしたもの。
ジャンルはファンタジー・恋愛などなど。

カレンダー

<< December 2018 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>

ボディ
メインコンテンツ

記事

タイトル
タイトル
秘密の恋は、胸の奥に隠したまま
記事本文

 

 初めから叶わないことが前提だなんて、ひどい恋もあったものだ。
もっとも、『初恋は叶わない』ものと、どうやら相場は決まっているらしいが。

そもそも恋する相手を自分で選べるなら、これまでにこんな苦労を味わうこともなかっただろうに。
人生なんて、本当、自分では(まま)ならない、厄介なものだ。


初めて会ったのは……俺がまだ小学生の時、か。
最初は確か、戸惑うばかりだった気がするな。家の中に見知らぬ女の人がいる違和感に。
初めて会って、いきなり数ヶ月後に家族になる、なんて言われても、実感も()かないし、どう受け止めていいのか分からなかったよ。

ただ、綺麗な人だとは思った。
顔かたちがどうこうじゃなくて、その真っ直ぐに伸びた髪の柔らかな(つや)だとか、クリーム色のこざっぱりしたスーツに包まれた、ピンとした背筋だとか、見ているだけで安心するような落ち着いた微笑みだとかが……。

 
何だか、今までに出会ったことのない、理想の大人の姿のように見えて。

ぎこちない態度の俺にも、あなたは優しくしてくれていたな。
『くん』付けで名前を呼んで、綺麗に微笑んでくれて。

嬉しくて、どこか気恥ずかしくて、どぎまぎしっ放しだったのを覚えている。
あなたの目に、当時の俺はどう見えていたんだろうな。


子どもだったあの頃は、まだ良かったな。
ただ戸惑うだけで済んでいたんだから。

 
一番苦しかったのは、やっぱり中学生になって、あなたへの想いを自覚してからだった気がする。
それが許されない想いだなんてこと、さすがに分かりきっていたし。

だけど、本当に一番怖かったのは、モラルでも世間の目でもなく、あなたにこの気持ちを知られることだった。

夫に対して何の不満も無い人妻が、俺みたいなガキにそういう目を向けてくれるはずなんてないことを、俺はちゃんと分かっていたし、何の期待も希望も抱いてはいなかった。

 
だから、あなたへの想いがバレて『気持ちの悪い子』と思われたり、距離を置かれたりすることだけを、ただひたすらに恐れていた。

あの頃は、正直、あなたと目を合わせることさえ恐かったよ。
 
町を出て遠くの学校を選んだのは、捨てようにも捨てられないあなたへの恋心を、物理的に距離を置くことで(あきら)めようと思ったからだった。
当たり前に近くの学校を受けると思っていた親父を説得するのには、かなり骨が折れたけど……。

でも俺の目論見(もくろみ)は、半分以上は成功していたと思う。
あなたの姿が目に入らない遠くの学校で、部活にも入って、毎日遅くまで必死に練習していれば、自然とあなたを想わずにいる時間も長くなっていった。

あなたへの想いは気の迷いだったのだと思い込もうとして、軽い気持ちで女子とつき合ってみたりもした。
だけど、たまに地元へ帰って、あなたと会うと、否応なしに思い知らされてしまうんだ。

俺が恋だと思い込もうとしていたアレは、恋なんかじゃない。
あなたと一緒にいる時と、“彼女”と一緒にいる時では、胸の(うず)きから何から、まるで違うってことを。


だけど、それでも、この想いを明かす気は、さらさら湧いては来なかった。
それをしても得るものなんか一つも無く、何もかもを失うだけだってのは、思い悩むまでもなく分かりきっていたことだから。

――ただ単に、想いを告げる勇気も、未練を断ち切る覚悟も無かっただけだろうと、そう言う人もいるかも知れない。
だけど俺は、これで良かったと思っているんだ。

きっと、叶えるだけが恋じゃない。
想いを伝えるだけが恋じゃない。
胸の奥に大事に隠して、誰にも触れさせずにひっそりと守り続ける……そんな恋があってもいいだろう?


あなたと出逢ってから、既に数十年もの時が過ぎ、俺は何とかこの想いに折り合いをつけた。
あなたに対する想いとは種類が少し違っても、共に人生を過ごしていきたいと思うような女性にも出逢えたよ。

……でも、それでも……やっぱり初恋ってヤツは“別格”なのかも知れない。


最近、あなたは歳を気にするようになった。
俺が帰省するたびに「もうすっかり、おばあちゃんでしょ?」なんて自嘲するように言って、小ジワの増えた顔でおっとりと笑う。

 
俺が「そんなことないですよ。ちっとも変わらないですよ」なんて言っても、あなたはお世辞だと思って信じてはくれない。
……俺は結構、本気で言っているのにな。

あなたのことを、そんなにカンタンに“おばあさん”だとか“おばさん”だとか思えるなら、俺も少しはラクになれたのに。

どれだけ歳をとろうと、容姿が変わろうと、俺の中であなたはずっと、出逢ったあの日の印象のまま。
今でもふとした仕草や微笑みに、綺麗だなんて思ってしまうんだ。

 
本当、初恋ってヤツは自分でも儘ならない、幾つになっても性懲りもなく胸をくすぐってくる厄介なシロモノだ。


だけど、俺はひょっとすると、そんな厄介な物思いを味わうために、わざわざあなたに会いに来ているのかも知れない。

実らなかった夢や、手に入らなかった宝物を遠くに眺めて愛しむように、叶わなかったからこそ、今なお綺麗なままで胸の奥底に灯り続けるこの恋を、眩しく、哀しく、甘酸っぱくもほろ苦く味わうために……。

 

記事続き
続きを読む >>
フッター
コピーライト
This template is made by CYPHR. (C) 2018 ブログ JUGEM Some Rights Reserved.