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言ノ葉スクラップ・ブッキング〜シーン&シチュ妄想してみた。〜

管理人が妄想したシーンやシチュエーションをショート・ストーリー(?)にしたもの。
ジャンルはファンタジー・恋愛などなど。

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ミトコンドリアの恋
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JUGEMテーマ:恋愛小説

JUGEMテーマ:恋愛小説

 

「なぁ、知ってるか?太古の生物には寿命なんて無かったんだ。生殖行為を行わず、分裂で ( ) える代わりに、最初からプログラムされた死も無い。単細胞生物なんてばかにしてるけどさ、せっかく育てた身体(からだ)も記憶も、何十年か経てば必ず消滅してしまう人類(ぼくたち)に比べたら、ずっと生命体として完成された、永遠に近い存在なんじゃないかな」

僕は、なんで君にこんな話をしているんだろう。

養護教諭のたまたまいない、二人きりの保健室。
君は保健委員として僕につき添って来てくれただけで、特に親しいわけでもなければ、そもそも会話を交わした記憶さえ、ほとんど無いくらいの間柄なのに。

……ただ、いつも教室の隅で一人静かに本を読む君が、時々、妙に視界の端に引っかかるのは感じていた。

皆が群れを作って居場所を確保しようと必死でいる中、独りになることを恐れず“自分”を貫こうとするようなその姿は、まるでサバンナを独りで生き抜くライオンのように、気高く、強い存在に見えて、そんな君を何だか眩しく思ったこともあった。

だからかな。
君だったら、僕のこんな聞くほどの価値も無いような愚痴だって、笑わずに聞いてくれるんじゃないか――そんな風に、思ってしまったのは。

 

「なぁ、何で僕たちは、こんな不完全で儚い、永遠を生きられない生命体に進化してしまったんだろうな?太古の命のままでいれば、死に怯えることも、そもそも人生に悩む頭さえ無かっただろうに」

こんな話、友達とだって、親兄弟とだって、したことがない。

死ぬのが恐いだとか、人間の生命のあり方に納得がいかないだとか、言い出したところでどうにもならないことだし、答えなんて見つかるはずもない。

だから皆なんとなく、そこからは目を逸らし、見ないようにして、受け入れたフリをしながら日々をやり過ごしている――そういうものだと思っていた。

君だって、急にこんな重苦しい話をされたら、きっと戸惑って、困惑して、僕から距離を置きたくなるに違いない……そう、思っていたのに……。


「……それなら、私たちは、もしかして“恋をする”ために永遠を ( ) てたのかも知れない」

ひそやかに告げられたその言葉に、僕はまともな反応が返せなかった。

「……え?」

「ううん。“恋”だけじゃないかも知れないね。“友情”や“親愛”の気持ちだってあるかも知れない。あるいは、見も知らない芸術家の作品や、遠い国の偉人の人生に触れて、感動したり涙を流したりするためかも知れない。でも、たぶん、 そういうもの ( ・・・・・・ ) を知りたくて、私たちはこういう生命に進化したんじゃないかな。どこまで殖えても、自分の分身ばかりで、結局どこまでも“ひとりぼっち”で生きるより、永遠の命を棄ててでも、自分とは違う誰かを生み出して、出逢って、心を震わせたかったから。ひとりだけじゃ感じられない何か、ひとりだけでは生み出せない何かを、この世界に創り出したいから」


それは、思いもよらない“答え”だった。
理想論だと、ただのロマンティシズムだと一笑に付してしまえばそれまでの、どこか夢見がちな感情論。

だけど、僕は笑えなかった。
君が笑わず真剣に答えを返してくれたことにも、その答え自体にも、言いようのない衝撃を受けたからだ。


きっと僕ひとりでは、永遠に 辿 ( たど ) り着けなかったであろう、答え。
僕とは生まれてきた環境も、成長してきた軌跡もまるで違う君だから見出せた、僕にとっては未知の、全く新しい考え方。


どうしてこの世界に、君にような人間が存在するんだろう。
どうして僕は、今日この瞬間まで、そのことに気づけずにいたのだろう。

いつの間にか、心臓が、今までに感じたことのない激しい速度で、けれどどこか妙に甘ったるいリズムで、鼓動を刻み始めていた。

これは、今までに味わったことのない感情だ。
だけど僕は、生まれてから十数年間、ずっとこの瞬間を待っていた気がする。


この地球に生命が生まれてから、およそ40億年。
生物と呼べるかどうかすら分からない単純な姿から、少しずつ形を変え、遺伝子を組み換え組み換え、繋がれてきた、命。

自分とは異なる遺伝子を持つ誰かと、出逢っては恋をし、似て非なる遺伝子を持つ子どもを生み出しては、また新たな世代で新しい恋をする――。

そうして途方もないほどの時間と世代を超えてきた生命のリレーの、数えきれないバトンパスの果てに、 現在 ( いま ) 、こうして僕が生まれ、同じようにこの時代を駆け抜けるべく生まれてきた、けれど僕とはまるで違う、たった一人の君と出逢う。


これから僕は、君に対して、どんな気持ちを抱いていくのだろう。
甘いドキドキや幸福感ばかりじゃなく、切なさや苦しさも、味わうことになるのだろうか――。

だけど、そんな切なさや苦しささえも引っくるめて、この痛いくらいの胸の震えが、永遠を棄ててまで手に入れた代価だと、君は言うのだろうか。


僕は、きっと、今日のこの瞬間を忘れない。
魂の根幹を揺るがすような衝撃と、初めて覚えた甘い胸の震えと、風に揺れる白いカーテンや、伏し目がちな君のまつ毛の長さまで。

きっと、ひとつ残らず覚えている。

もしかしたら、この想いは、実らないかも知れない。
君に知られることさえなく、終わってしまうかも知れない。

それでも、僕はきっと後悔はしない。
君は僕に、大切なものをくれたから。


いつか必ず終わりが来ると分かっているこの命に、否応なく、僕は生まれ落ちた。
自らの意思でもなく、選択の余地すら与えられずに。

だけど、永遠に背を向けてまで、この儚い生命に生まれてきた、その理由が、君のくれたその優しい答えなのだとしたら――この世界も、そう悪くはないのかも知れない。
そう、思えるんだ。

 

 

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