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言ノ葉スクラップ・ブッキング〜シーン&シチュ妄想してみた。〜

管理人が妄想したシーンやシチュエーションをショート・ストーリー(?)にしたもの。
ジャンルはファンタジー・恋愛などなど。

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乙女商人のサクセス・ストーリー…のプロローグ
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JUGEMテーマ:オリジナル創作

 

「ねぇ、私、おかしくないわよね?変な恰好になっていたりしないわよね?」
同じ問いをしつこいくらいに繰り返し、ローゼリットはそわそわと落ち着きなく鏡の前を歩き回る。答えを求められたメイドは苦笑しながら太鼓判を押す。
「大丈夫です、お嬢様。御招待客のどの御令嬢にも負けない完璧なドレスです」
「そんなことは分かっているわ。問題はドレスじゃないの。中身なのよ」
メイドを返答に困らせる一言を言い放ち、ローゼリットは既に整えられた前髪の微調整を始める。
「今更何をなさっておいでなのです。そろそろおいでくださいませんとパーティーを始められませんよ」
皮肉とも呆れともつかぬ声に振り向くと、そこにはローゼリットのよく見知った顔があった。
「ウォルフレッド、どうしてここにいるの?私、入室を許可した覚えはないのだけれど」
ローゼリットはささやかな抵抗とばかりに突き放すが、ウォルフレッドは意にも介さない。
「それはそれは失礼致しました。まさかお嬢様がこの時間に未だグズグズと控えの間にいらっしゃるとは思いもしなかったものですから」
あからさまな皮肉を返され、ローゼリットは拗ねたように頬をふくらませた。
「だって、どうしたってこのドレスが似合う気がしないのですもの。こんな恰好でパーティーに出たら、皆に笑われてしまいそうだわ」
「そのようなことを悩んでいらしたのですか。典型的な被害妄想ですね。スノゥフリッツ家の御令嬢であるあなたを笑い者にする勇気のある人間などいませんよ。この国で当家の援助を全く受けずに暮らしている者が一体どれほどいると思っているのです?」
「でも、それとこれとは話が別でしょう?私、知っているのよ。皆、表向きはお父様に感謝しているけれど、裏ではうちのことを『成金』と蔑んでいるのでしょう?」
その瞬間、ウォルフレッドの双眸が眼鏡の奥で冷たく光った。
「『成金』ですか。どんな王侯貴族も元をたどれば“ただの人”でしょうに。そんなに面白くないものなのでしょうかね、ただの人間が自分たちよりも上の立場に成り上がるのは」
その毒舌の容赦の無さに、ローゼリットの方があわててしまう。
「言葉が過ぎるわ、ウォルフレッド。誰かに聞き咎められでもしたら、ただでは済まないわよ」
「おっと。私としたことが、ついつい口が滑ってしまったようですね。ですが、ここにいらっしゃるお二方は私の他愛のない戯言を誰かに告げ口なさるような方ではございませんでしょう?」
ウォルフレッドはそう言って、取ってつけたような微笑みを浮かべた。その笑顔にローゼリットは呆れ、メイドの方は呆けたように見惚れる。
「さて、お嬢様。会場入りする御覚悟は決まりましたか?早くいらしてくださらないと、予定より一刻以上も早くお着きになってしまわれたあなたの婚約者様が、暇を持て余して何を始められるか分からないのですが」
「レオン……じゃなくて、殿下がもういらしてるの!?ウォルフレッドったら、それを先に行って頂戴!」
ローゼリットはつい先ほどまで前髪ひとつに散々迷って時間をかけていたことも忘れ、弾丸のように部屋を飛び出して行った。その背を見送り、ウォルフレッド『やれやれ』とでも言いたげに吐息する。
「お嬢様も御苦労なことだ。あの歳でもう未来の御夫君のお守をしなければならないとは」
そんなウォルフレッドに、メイドがおそるおそるといった感じで声を掛ける。
「あの、ウォルフレッド様。このようなこと、あなたがなさらずともよろしいのでは?お嬢様をお呼びするためだけにわざわざこちらへ足をお運びになるなんて……。あなたはお屋敷の使用人ではなく、スノゥフリッツ商会の番頭(ヘッド・クラーク)ですのに」
その問いに、ウォルフレッドは振り向くこともなく皮肉な笑みで答えを返す。
「使用人だよ、私は。屋敷ではなく商会に籍を置いているというだけの、な」


ローゼリットの婚約者は会場の大広間に入る前に見つかった。
中庭で十数羽の兎たちと戯れていた彼は、ローゼリットに気づくと屈託のない笑みを見せた。
「ローゼリット!久しぶりだね」
「レオ……じゃなくて……殿下!何をなさっておいでなのですか!?あぁ……もうっ、そんな恰好で動物と触れ合ったりして……御衣装に毛がつくではありませんか!」
「『レオン』でいいよ、ロゼ。ここには僕と君しかいないみたいだし」
「そんなことより御自分の恰好の方を気にしてください!もうパーティーが始まるまで時間が無いのですよ!?」
「あぁ、そうか。じゃあ急がないとだね。僕も早く『未来の義父上』にお会いしたいし」
「だから、その前に兎の毛をお取りになってください!そんな姿を他の方々に見られでもしたら、また何を言われるか分かりませんよ!」
なかなか噛み合わない会話にイライラしながら、ローゼリットは彼の手を取り立ち上がらせる。
ローゼリットより二つ年上の彼は、彼女がまだ赤子のうちに定められた将来の結婚相手だった。名はレオニウス・ゴルド・リプレブルーエン。ブルーエン王国の国王と平民出身の第五王妃との間に生まれた、王位継承権第11位の王子である。
ローゼリットが彼をメイドたちの控室へ引っ張って行くと、中にいたメイドの一人が悲鳴を上げた。
「殿下!またそんなに動物の毛をお付けになって……今度は何をなさったのですか!?」
「……また(・・)?」
ローゼリットが問うような眼差しを向けると、レオニウスは無邪気に事情を説明しだす。
「離宮を出て来る時、ウチのコたちに飛びつかれてね。頭の良いコたちだから、服装や皆の態度だけで、僕がどこかへ出掛けるのを察したんだろうね。皆して『行かないで』って引きとめるから、大変だったよ。仕方がないから小さいコたちは馬車に乗せてギリギリまで一緒に連れて来たし」
「え……?」
ローゼリットが凍りついたように動きを止めた。
「何を、どこまで連れて来たとおっしゃいました?」
「うん。だから、ウチの小さいワンコたちを、馬車に乗せてこの屋敷まで……」
ローゼリットはレオニウスの言葉を最後まで聞くこともなく顔面を怒りで真っ赤にして叫んだ。
「この屋敷に、犬を!?何っってことをしてくれたの!私が大の犬嫌いだってこと、あなたも知ってるでしょう!?」
「お嬢様!敬語!敬語を忘れてます!」
メイドがあわててたしなめるが、ローゼリットの耳には入らない。
「だいたい、パーティーに小犬連れで来るなんてどういうことなのよ!?離宮の人たちは何をしていたの!?誰もあなたを止めなかったの!?」
いきり立つローゼリットを不思議そうに眺め、レオニウスはのんびりと口を開く。
「そんなに怒らなくても、犬たちはちゃんと君の目の届かない所に預けてあるから大丈夫だよ。それより、いいのかい?急がないとパーティーが始まってしまうんだろう?」
あまりに緊張感の無い物言いに、怒っていた自分が馬鹿らしくなり、ローゼリットは大きな溜め息をついて何とか心を落ち着かせた。
「そうだったわね。もういいわ。さっさと身だしなみを整えて行きましょう。今日は大事なお父様の壮行会なのですもの」


ローゼリットの父、グリンフィルド・スノゥフリッツは、十代の頃から商いの世界で頭角を現し始め、持ち前の行動力と商才で一代にしてブルーエン王国一の豪商に昇りつめた男だ。その財力はブルーエン王国のみならず、その近隣諸国や貿易相手国にも影響を及ぼすほどであり、彼の周囲には常に、その恩恵に与ろうという人々が群がって来る。
「相変わらず、すごい人出ね。ルゥバードを置いてきて正解だったわ」
部屋で寝ている病弱な弟のことを思い、ローゼリットは密かに安堵の息を洩らす。
「ああ、ルゥはまた寝込んでいるのかい?道理で姿が見えないと思った。……大丈夫なのか?君たちのお母上も御病弱だったようだし、もし良かったら王宮の御典医に診てもらえるよう取り計らうけど」
「……そうね。必要なようだったらお願いするわ。たぶん、大丈夫だと思うけれど……」
言葉を濁し、ローゼリットは物思わしげに溜め息をつく。
八つ年下の弟・ルゥバードのことは、昔から彼女の心配の種の一つだった。母の命と引き換えに生まれてきたルゥバードは、容姿も身体の弱さも母親にそっくりで、幼い頃から何かといっては熱を出し、床に伏せっていた。ローゼリットは亡き母と留守がちな父に代わり、この弟に精一杯の愛情を注いできたのだ。
「かかりつけのお医者様は、身体よりも精神的なものが原因なのではないかとおっしゃるの。あの子は一度もお母様の胸に抱かれたことがないし、お父様もお仕事で忙しいでしょう?この上、私までもがいなくなってしまったらと思うと……考えるのが恐いわ」
「なるほど。じゃあルゥが一人立ちするまで、君はうちにお嫁に来れないね」
さらりと言われ、ローゼリットは一瞬きょとんとした後、激しくうろたえた。
「い、いきなり何を言ってるのよ」
「何って、僕、何かおかしなことを言ったかい?」
「おかしな……と言うか、その……意味が分かって言っているの?それ」
目を逸らしボソボソとつぶやいた言葉は、レオニウスには届かなかった。
「あ!『未来の義父上』がいらっしゃった!御挨拶に伺わなくては……。じゃあ、ロゼ。また後で」
今しがた会場入りしたグリンフィルドに気を取られ、レオニウスははしゃいだ声を上げながらローゼリットのそばから去って行ってしまった。その瞳はきらきら輝き、頬は紅潮して、今の彼は普段のどこか浮世離れした雰囲気が嘘のように、年相応の少年らしく見える。ローゼリットの心中は複雑だった。
「レオンったら……。本当は私と結婚したいわけじゃなくて、ただ単にお父様の義理の息子になりたいだけなのではないでしょうね」
「そのお考えは案外、的を射たものかも知れませんね。殿下はあの通り、うちの旦那様のことを実の父君のように慕ってらっしゃいますし」
いつの間にそこにいたのか、背後からふいに声を掛けられ、ローゼリットはビクリと身をすくめる。
「ウォルフレッド。乙女の一人言を盗み聞きするなんて趣味が悪いわ」
「失礼。たまたま通りかかったら聞こえてしまったものですから。それで、お嬢様の方はどうお考えなのですか?本気で殿下のお妃になりたいと思っていらっしゃるのですか?」
ウォルフレッドの問いに、ローゼリットはしばし無言になる。
「……分からないわ。物心ついた頃から決まっていたことだし、当たり前のこと過ぎて実感が無いのよ。正直、これで本当にいいのかと思うこともあるわ。だって私、殿下のこと、放っておけない男友達くらいにしか思えないのだもの」
「後悔なさいませんよう、よくよくお考えになった方がよろしいですよ。ご婚約と言っても、旦那様と国王陛下との間で交わされた他愛の無い口約束なのでしょう?……おや、その御婚約者様がお貴族の御令嬢に囲まれてらっしゃいますよ。いかがなさいます?」
「放っておいて良いわよ。下手に邪魔しようものなら恨まれてしまうわ。それにどうせ、どんなアプローチをしても殿下にはまるで通じないのだから」
「あぁ。殿下は今時珍しい純粋無垢なお方ですからねぇ」
レオニウスは貴族の令嬢たちに周りを取り囲まれ、何事か話しかけられている。令嬢たちは皆、熱を帯びた瞳でレオニウスを見つめているが、レオニウスは相変わらずのほほんとした様子で、令嬢たちの視線の意味も、そもそもなぜ話しかけられているのかさえ、まるで分かっていないようだった。
「……まぁ、見た目は申し分ないのよね。熱を上げる御令嬢がたくさんいるのも頷けるわ。あれで、もう少し頼りがいのある性格で、なおかつ一般常識をわきまえてくだされば、言うことはないのだけど」
まるで“絵物語から抜け出してきた王子様”そのままのレオニウスの容姿を遠目に眺めながら、ローゼリットはしみじみと呟く。
「それはいささか難しいご注文ですね。仮にも王族であらせられる殿下に我々一般庶民の常識を御理解いただくのは至難の業でしょうし、それにあの(・・)旦那様の御令嬢であるあなたの目から見て『頼りがいのある』男など、そうはいませんでしょう?」
「……そうなのよね。私って結局、男の方を見る目の基準が、うちのお父様なのよ。でも、あのお父様と肩を並べらえれる男の方なんて、そうそういるはずないものね……」
ぼんやりと呟くローゼリットは、気づいていなかった。すぐそばで彼女を見つめるウォルフレッドの瞳の色に。
もしこの時、彼女が少しでも振り向いて、彼が自分へ向ける眼差しに気づいていたなら、この先訪れる運命を、回避することができたかも知れないというのに……。

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