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言ノ葉スクラップ・ブッキング〜シーン&シチュ妄想してみた。〜

管理人が妄想したシーンやシチュエーションをショート・ストーリー(?)にしたもの。
ジャンルはファンタジー・恋愛などなど。

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光の宝玉に選ばれ、やがて大陸を救う“光の女王”となる少女の話(途中まで)
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JUGEMテーマ:オリジナル創作

 

 

 彼女は既に虫の息だった。
 白かったドレスは赤い花を散らしたようにところどころ血に染まり、顔からはすっかり血の気が失せている。
 もう助からないということを彼女自身も悟っていた。だが、それでも最後の力を振りしぼり、必死に地を這っていく。その目の前には、小さな川が流れていた。
 何とか川辺にたどり着いた彼女は、震える手で懐から何かを取り出した。それは、手のひら大の透明な珠。日の光を浴びて虹色に輝くそれに一瞬目を留め、彼女は小さく呟いた。
「どうか……新しき主の元へ……」
 傾けられた手のひらから珠がこぼれ落ちる。それは、とぽん、と音を立て川の水に沈んでいった。彼女はそれを見届けると、静かに目を閉じる。それが、彼女の最後の動作だった。
 彼女の手から離れた珠は、川底にたどり着くと淡く光を放った。その表面が一瞬、金色の光により描かれた文字とも文様ともつかぬもので埋め尽くされる。やがて、珠はゆっくりと川底を転がりだした。水の流れに逆らい、下流から上流へと……。まるで彼女の最後の願い通り、主を探してさまようように……。

 

 

「……光の宝玉姫が身罷られました」
 亜麻色の髪に顔のほとんどを隠した少女が感情の籠もらぬ声で告げる。同時にじゃり、と重い鎖の音が鳴った。
「ほう?死んだか。で、光玉はどうなった?」
 男は手の中で鎖を弄びながら問う。
「分かりません。……主を持たぬ宝玉の行方は私にも視ることができないのです」
 少女が言った途端、男は無言で鎖を引いた。少女が悲鳴を上げて床に転げる。その足首には長い鎖をつないだ足枷がはめられていた。
「……本当だろうな?」
「本当……です。嘘など申しません」
「まあ良い。信じてやろう。……今のところは、な」
 どこか含みのある声音で言い、男は薄く笑う。少女はうつむき、手に持った珠をぎゅっと握りしめた。
(お願い。だれか、守って。この世界を……)
 その声にならぬ願いに応えるように、少女の手にした珠に、一瞬針の先のように小さな金色の光が瞬いた。

 

 

「エルダー!そっちへ行ったわ!捕まえて!」
 少女が大声で叫ぶ。直後、激しい水音と少年の歓声が響いた。
「やった!捕まえた!アンゼリカ!早く桶を!」
 声を受け、川原に待機していた別の少女が木桶を手に少年に駆け寄る。
 少年は両腕に抱えていたものを急いで桶の中に放した。すぐに元気良く桶の水の中で泳ぎだしたそれは、一匹の鮎。一人が魚を追い込み、もう一人が手づかみでそれを捕らえる。少女たちは先ほどからそうやって必死に魚を捕まえていた。
 とは言えそれは彼女たち自身の食糧とするためではない。川に棲む魚も、森に棲む鳥や獣も、全てその地を納める領主のもの。領民が勝手に捕らえて食らうことは許されない。それがこの時代の常識だった。少女たちが捕らえているのも全て領主に捧げるための魚。
 そうやって魚を捕らえる代わりに村長からわずかの食糧を分けてもらうのが、彼女達にとって自らの食い扶持を稼ぐ数少ない手段の一つだった。
「もう一匹いた!構えて!エルダー!」
 少女はすぐにまた別の魚を見つけ、浅い川の中を裸足で駆けだす。灰茶色のおさげ髪が肩の上で跳ねた。彼女の名はマリア、十四歳。三人姉弟の長女であり、家族を支える大黒柱でもある。弟のエルダーは十一歳、妹アンゼリカはまだ七歳。両親はすでに亡く、頼れる親類縁者も知らない三人きりの家族だ。
 再び川原に戻り姉たちの様子を見守っていたアンゼリカは、ふと足元に目を留めた。そこには川辺の石と石の間に引っかかるようにして透明な珠が転がっていた。
 日の光を受け虹色の光沢を放つその珠を、アンゼリカは何の気なしに拾い上げる。その瞬間、珠の表面に金色の光で文字のようなものが浮かんだ。
「きれーい……」
「アンゼリカ!何やってるんだ!早く桶!」
 エルダーの叫びにアンゼリカはハッと我に返り、とっさに珠をエプロンのポケットにしまった。
「ごめんなさい!エルダー兄さま」
 再び桶を手に走り出す彼女のポケットの中で、珠に浮かんでいた光の文字は静かに消えていった。

 

 

 たっぷりの水と今日獲れた鮎の入った三つの木桶をひとつずつ手に持ち、姉弟は村の道を歩いていく。季節はもうそろそろ夏も終わり秋に入ろうかという頃。村人たちは夏畑に実ったエンドウ豆やカラス麦の収穫とこれから種を蒔く冬畑の準備で忙しそうに動き回っていた。
「あら、そばかす娘じゃない。またフィドルの所に媚びを売りに行くの?」
 雑草だらけの休耕地を鋤き返し冬畑の準備をしていた少女が手を止め、マリアの方へ歩み寄ってくる。マリアは顔色も変えずに言い返した。
「残念。不正解よ。私の媚びは誰かに売れるほど安くないの。あんたと違ってね」
「何ですって?」
「媚びを売りたいのはあんたの方でしょう?こんな所で無駄口叩いてる暇があるなら、さっさと仕事を終わらせてフィドルの家へ行ったらいいじゃない」
 少女はぐっと言葉に詰まる。フィドルはこの村の村長の一人息子だ。特別整った容姿ではないが、優しげな顔立ちと温厚な性格を持ち、村の少女たちには極めて人気が高かった。だが村長の家はただの村娘にとっては少々ハードルが高い。マリアたちのように特別の用でもない限りそうそう近づける場所ではなかった。
「言っておくけど、あんたの顔じゃいくらフィドルに近づいたってムダなんだからね。そこの所、よくわきまえておきなさいよ!」
 少女は悔しまぎれにそう言い捨てると、畑の中へと駆け戻っていった。少女の背中を見送り、マリアは小さくつぶやく。
「分かってるわよ。元からそんなつもりないし」
 マリアは自分の容姿を十分自覚していた。
 ただでさえ十人並みな容姿だというのにろくなものを食べないせいで手足は棒切れのように細く、身体には女らしい丸みもない。肌は白いがそのせいで日に焼けると顔中にそばかすが浮く。髪は灰色がかった茶色でツヤも無く、おまけにひどいくせっ毛で、上手くまとめ髪にすることもできずに、いつも何だかボサッとしている。
「……わたし、あの人きらい。いつも姉さまのこと悪く言うんですもの」
 アンゼリカの言葉にマリアは苦笑した。
「仕方ないわよ。私たちはしょせん『よそ者』だもの。おまけにしょっちゅう村長の家に入り浸ってるし。玉の輿を狙ってる娘たちからしたら面白くないんでしょう」
 マリア達姉弟はこの村の出身ではない。幼い頃、母親とともに戦火を逃れてあちこちをさまよい歩いた末、この村にたどり着いたのだ。村へ来る前の記憶はあまりにもおぼろげで、マリア達からしてみれば夢のようにしか思えない。だが『この村の生まれではない』という事実はマリア達姉弟の上に重くのしかかっていた。現に今、マリア達は自分の農地も家も持たず、村長の厚意にすがって何とか暮らしを立てている状態だった。
「やあ、マリア。そろそろ来る頃だと思っていたよ」
 村長の息子フィドルはマリア達の訪問を知ると目を輝かせて出迎えた。
「フィドルお兄ちゃん、こんにちは!」
 マリアより先にアンゼリカが満面の笑みで挨拶する。フィドルは実の妹を見るように目を細めて微笑みかけた。
「こんにちは、アンゼリカ。今日も美人さんだね」
 その言葉にアンゼリカは頬を染めてはにかむ。
「はい、お約束の鮎七匹よ。これだけ獲るの苦労したんだから、少しくらいおまけ付けてよね」
「君は相変わらず愛想のカケラもないね。もう少しアンゼリカを見習って笑顔にしてればいいのに」
「愛想が無くて悪かったわね。でもアンゼリカと違って不器量な私が笑ったところで、誰も喜ばないでしょ」
「そんな風に自分を貶めるもんじゃないよ。確かにアンゼリカやエルダーとはタイプの違う顔立ちだけど、君の瞳には他の人間にはない強い輝きがある。それは君だけの、君にしか無い魅力だ」
 真剣に諭されて、マリアは毒気を抜かれた気分になる。フィドルのこういう冗談もロクに通じなさそうな生真面目さが、苦手でもあり、でも、時々ありがたくもある。
「……ありがと。そういうこと言ってくれんの、あんただけだわ。お世辞でも嬉しい」
「…………お世辞なんかじゃ、ないんだけどね……」

 

 

「フィドルお兄ちゃんって、マリア姉さまのことが好きなのかなぁ?」
 洗濯物を畳みながらアンゼリカがつぶやく。マリアは針を手に繕い物をしながら、けらけらと笑った。
「何言ってんのアンゼリカ。そんなわけないでしょう。フィドルだったら村の女の子よりどりみどりなのに、わざわざ私みたいな十人並み以下の女を相手にしたりしないわよ」
「でもフィドルお兄ちゃん、姉さまの前でだけ態度がちがうのに……」
「……肝心の姉さんがこれじゃ、フィドル兄ちゃんも報われないなぁ。……アンゼリカ、大丈夫だよ。姉さんの方には全くその気がないから。アンゼリカが大人になる頃にはフィドル兄ちゃんも諦めてるって。チャンスは絶対来るさ」
「って、まさかアンゼリカ、あなた、フィドルのことが好きなの……」
 驚いて顔を上げた瞬間、マリアは思わず持っていた針で自分の指を思いきり突き刺してしまった。
「痛ッ!」
「大丈夫?姉さん。何やってるんだよ」
 指先に見る間に赤い血の玉が盛り上がる。だがマリアはそれには構わず必死な表情でアンゼリカにつめ寄った。
「ダメよ、アンゼリカ!あなたは私と違って容姿に恵まれてるんだから、こんな田舎の村長の息子の嫁なんかで終わっちゃダメ!あなたの顔だったら領主様に見初められて奥方に迎えられることだって夢じゃないんだから!」
「でも、わたし結婚するならフィドルお兄ちゃんのお嫁さんがいい」
「お願いよ、アンゼリカ。あなたが絶世の美女に育って、玉の輿に乗って、おとぎ話のお姫さまみたいに幸せになるのを見るのが私の夢で生きがいなんだから!」
「自分に叶えられない夢を妹に押しつけるのはやめた方がいいよ、姉さん。それに領主の奥方なんかそんないいもんじゃないよ。血なまぐさい槍試合を観戦しなきゃいけなかったり、狩に同行しなきゃいけなかったり、いざという時には領地を守るために兵を指揮して戦わなきゃならないんだよ?アンゼリカには絶対無理だって」
「他人事みたいに言ってるけどね、あなたにも私は期待してるのよ、エルダー。あなたの顔ならそのうちきっと、貴族の姫君だって落とせるわ。身分的に結婚は無理でしょうけど、取り入って上手いこと良い職や地位を手に入れられれば……」
「姉さん、黒い……。腹黒いよ……。僕、そんな下心と謀略にまみれた人生送りたくないよ……」
 アンゼリカは上の姉弟ふたりの会話がさっぱり理解できないらしく、きょとんとした顔で見つめていた。が、ふと思い出したようにエプロンのポケットから例の珠を取り出した。
「そうだ、マリア姉さま。今日、川ですごくきれいなものを拾ったの」
「え!?何、ソレ、綺麗。何だかとても高価そうね……」
 マリアが目をきらきら――否、ぎらぎらさせて珠を受け取る。その時、指先から流れる血の一滴が珠に触れた。瞬間、珠の表面がまぶしいほどの光の文字で埋め尽くされた。
「な、何!?」
 それはこの大陸のいかなる国の文字とも異なるものだった。
<血液の接触を確認。血液認証を開始します>
<登録済みの血統情報と照合中>
<……一致しました。よってマリア――を当端末の新しい管理者として登録致します>
 表示されたその情報を、三人が理解することはなかった。
「うわぁー……きれーい」
「ちょっ、姉さん!アンゼリカ!それ、何かヤバそうじゃない!?離れた方がいいよ!」
 エルダーが叫ぶ。だがマリアの目は珠に釘付けになってしまっていた。
『――光の……に、なって』
 頭の中に、声が聞こえる。今にも絶えそうにか細い、女の声だ。
『私の代わりに、この国を救って。新しい、光の……』
 一瞬、脳内に川辺に倒れ伏す白いドレスの女の姿が浮かぶ。
「……何?今の……」

 

 

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