コンテンツ
ヘッダ

言ノ葉スクラップ・ブッキング〜シーン&シチュ妄想してみた。〜

管理人が妄想したシーンやシチュエーションをショート・ストーリー(?)にしたもの。
ジャンルはファンタジー・恋愛などなど。

カレンダー

<< May 2020 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>

ボディ
メインコンテンツ

記事

タイトル
タイトル
明治時代・怪盗ファンタジー小説(途中部分のみ)
記事本文

JUGEMテーマ:時代小説

 

 満月の下での出会いを果たしたあの日から、青流の頭の中には旭の面影がしっかり棲みついてしまった。
 あの日以来、何をしていてもふとした瞬間に旭の顔が脳裏を過ぎる。
 それは夜に見た金髪碧眼の少女の姿だったり、昼に見た少女か少年か判断のつかない黒目黒髪の姿だったり、その時々で姿が違う。だがそのどちらの姿も、思い浮かぶたびに青流の胸をひどく揺らし、脈拍を速めた。
 青流は今日も道を歩きながらぼけっとあの日の旭の笑顔を何度も何度も頭の中に蘇らせていた。
 ふと、やけに視線を感じると思って辺りを見渡せば、青流はいつの間にか雪ヶ崎の屋敷の傍近くを歩いていた。資産家の屋敷ばかりが立ち並ぶこの辺りではボロ布をつなぎ合せたような青流の格好はひどく目につく。道行く人々に不審の目で見られるのも当然だった。
(……何でこんな所に来てんだ、俺。用も無ぇのに……)
 自嘲するような笑みを浮かべ踵を返そうとしたその時、すぐ近くから聞き覚えのある声が降ってきた。
「青流か?こんな所で何をしているんだ」
 顔を上げてその姿をみとめ、青流は「それはこっちの台詞だ」と思った。
「あんたの方こそ何やってんだよ?」
 旭は屋敷の塀に両手をかけ、ぶら下がっていた。
「いや。君が乗り越えて来たくらいだから僕にもできないものかと試してみたんだが、よじ登ったはいいものの降りられなくてな。助けてくれないか?」
 旭はひどく呑気な声で助けを求めてくる。
「……本当に何やってんだよ」
 青流は呆れた顔で旭に手を貸した。
「有難う。助かった」
「あんた、頭いいかと思ってたけど案外抜けてるんだな」
「ああ。僕の頭は必要な時にだけ働かせて特に必要の無い時は休めているんだ。効率のいい使い方をしていると言ってくれ」
「いや、全然効率良くねぇだろ、それ。現にさっきは危ない目に遭ってたじゃねぇか」
「はは。それもそうだな」
 あっさり認めて旭は笑う。
「ところで君がここにいるということは、うちに何か用があるのか?」
 問われ、青流は顔を引き攣らせた。まさか、旭のことをぼんやり考えているうちにいつの間にかここへ来ていたなどという本当のことを、本人に言えるはずもない。
「べ、べつに。用なんか無ぇよ!たまたま通りかかっただけだ。たまたま!」
「そうか。たまたま青流が通りかかって助かった。流石にこの高さから飛び降りれば足を痛くしただろうからな」
 旭は青流の言動に何の疑問も抱いていないように邪気の無い顔で笑った。
「ところで、用が無いなら今は暇か?助けられた礼に茶でも御馳走したいのだが」
「いや。いいって、そんなの。俺が屋敷にいると師匠とかいろいろうるさいし」
「大丈夫。霧峰もおじい様も今は留守にしているから」
 笑顔で手を引かれ、青流はその手のひらの柔らかさに、思わずびくりとしてそれを振り払った。
「何だ?うちに来るのはそんなに嫌か?」
「いや、違……、その……っ」
 何にうろたえているのかも分からぬまま、真っ赤な顔で首を振る。
「違う?なら、来てくれるんだな?良かった。ちょうど暇をしていたところだ。しばらくつき合ってくれ」
「うっ、いや、その……」
 青流はしばし逡巡した。
 勝手に屋敷に上がったことを霧峰に知られたら絶対にいい顔はされないだろう。それどころか表面上は平素通りに振る舞いながら、青流に与える情報にさらりと嘘を紛れ込ませたりして嫌がらせしてくる可能性がある。
 それも任務を失敗するほどの重大な偽りではなく、任務は果たせるが一歩間違えば逃走に失敗し捕縛されてしまうような、心臓に悪い偽情報。
 そして後に青流がそのことを追及すれば、うっかり間違えて違う情報を渡してしまった、などと平然と嘯くのだ。霧峰はそういう男だ。
 断ろうと思い顔を上げると、旭はひどく期待の籠もった眼差しで青流を見つめていた。気のせいか、その瞳はきらきら輝いているようにさえ見える。
「あの……な」
「大丈夫。霧峰やおじい様には内緒にしておくよう屋敷の者たちには口止めする」
 先回りして言われ、青流は断る口実を失ってしまった。
「…………まあ、いいか」
 最早逡巡するのにも疲れ果て、結局青流は招きに応じることにした。途端、旭が顔を輝かせる。その顔に、青流はただ困ったように頭を掻いた。
 
「旭様!?いつの間にお外へいらしてたんですか!?というか、その子供は何です!?そんな汚らしい子供を勝手に屋敷に入れたりして……旦那様に叱られますよ!?」
 邸内に足を踏み入れると、すぐに一人の青年が走り寄って来た。歳の頃二十代前半。おそらくは雪ヶ崎家の書生と思しき袴姿の青年。この前は見なかった顔だ。
「こら利三郎。僕の客人に対して失礼なことを言うな。だいたい、外見で人を判断するなど器の小さい男のすることだぞ」
「器の小さい男で構いませんとも。もし旭様に万一のことでもあれば私どもが旦那様に殺されます」
「いくらおじい様でもそこまでは…………やらないと思うが」
 後半、ひどく自信無さげに声を小さくして、旭は考え込むように下を向いてしまった。
「だが、まあ安心しろ。青流は僕に危害を加えることはないから」
「……本当ですか?」
「ああ。だいたい、僕と背丈もそう変わらないような少年に何ができると思うんだ?そんなにいちいち案じるな」
 笑いながら利三郎の肩を叩き、そのまま行き過ぎようとして、旭はふと思い出したように振り返る。
「ああ、そうだ。縫に茶を運ぶよう言っておいてくれ。それと、青流が今日ここへ来たことはおじい様と霧峰には言うなよ?さもないと、あのことをおじい様のお耳に入れるからな」
 旭がそれを口にした途端、利三郎は顔色を変えた。
「あ、あのこと……ですか?」
「ああ。だから、言うなよ?」
 にこりと笑みさえ浮かべて釘を刺し、青流の袖を引いて歩き出す。その後も廊下で出会う者出会う者、全てに同様の口封じをしていく。旭の私室にたどり着く頃には青流はすっかり呆れ果てていた。
「……あんた、そうやって屋敷中の人間の弱み全て握ってんじゃねぇだろうな?」
「こんな屋敷の中に閉じ込められていると他にすることも無いからな。だがちゃんと、知られると本人が気に病む類の弱みには目を瞑っているぞ。ああやって時々、ほとんど罪の無いような些細な弱みを、融通を利かせてもらうのに利用しているくらいで」
 言いながら、旭は扉を閉める。室内に二人きりになると、旭は改まって青流に向き直り、深々と頭を下げた。
「先刻はすまなかった。家中の者が不快な思いをさせた」
 今までされたこともないほどの丁寧な謝罪に青流の方が慌てる。
「ちょ……っ、いいって!頭なんか下げるなよ!それってアレだろ?さっきの『汚らしい子供』とかいうアレだろ?あんなの、俺たちみたいな育ちの良くねぇ人間には慣れっこだから!」
「そうか。慣れているのか。……苦労しているのだな」
 気にしないで欲しくて言ったのに旭は再び表情を沈ませる。青流は焦って無理矢理話題を変えようと、わざとらしく声を上げながら室内をぐるりと見渡した。
「そ、それにしてもさすが雪ヶ崎家だなー。見たことの無いもんがいっぱいだ」
 御曹子の私室らしく、室内の調度品はどれも豪華なものばかりだった。日本家屋の中であれば浮いてしまいそうな繊細な彫刻を施した洋風家具。飾棚の上に置かれた、青流が今まで目にしたこともないような珍しい品の数々。見渡しているうちに、青流は本気で目を奪われ興奮してきた。
「……つーか何だ、コレ?すげぇ!何か分かんねぇけど何かすげぇ!どうなってんだ、これ。何する物なんだ!?」
 舶来品の脇棚の上に無造作に置かれた不思議な形をした装置を、青流は食い入るように覗き込んだ。
「……何か分からないのにそこまで感心できる方がむしろ凄いな。それは幻燈機だ。どこかの師範学校に納められる予定で作られたものを、おじい様が倍以上の金を出して先取り……あ、いや、譲ってもらってきたらしい」
 仕方の無いおじい様だ、とでも言うように旭はこめかみを指で押さえ吐息した。
「ゲントウキ?」
「幻燈板に描かれた絵を光を使って壁や布に映し出す装置だ。夜の闇の中や、黒い布で囲って暗くした部屋の中でないと見られないから今は見せてあげられないがな」
「はー……。何だかよく分からんが、すごいものなんだな」
「青流はそういうカラクリ仕掛けの物が好きなのか?」
「いや、べつにそういうわけじゃなくてさ。目新しい物なら割と何でも好きなんだけどよ」 
 言いながら、青流は尚もまじまじと幻燈機を眺める。感心したように何度も溜息をついて眺めながらも、手で触れることはせず、ただ噛り付くように間近に顔を寄せて見入る青流に、旭は笑いながら声をかけた。
「べつに触れても構わないんだぞ」
「いや。いいよ。壊したら困るし」
(こんな高そうなカラクリに俺みたいなのが手を触れていいわけがない……)
 本来なら自分は、この屋敷の中に足を踏み入れることさえ許されない立場なのだから……。
 自嘲するようにそんなことを思いながら、青流はその装置から身を離した。
「しかし、こんな珍しい物をほいほい買い与えるくらいだから、あんた、本当に可愛がられてるんだな」
「いや……。おじい様達は僕を屋敷の中だけに閉じ込めておきたいらしいからな。屋敷の中で楽しめる娯楽を与えて、僕が外に興味を持つことのないように仕向ける魂胆なのだろう」
「閉じ込めておきたいって何でだ?お前が女だと分かるとマズいからか?それともお前が月織部とかいう一族だからか?」
「女ではないと言っているだろうが。……それより、霧峰はお前に月織部のことまで教えているのだな」
 やれやれとでも言いたげな旭の顔に青流は己の失言に気づき冷や汗をかいた。
 霧峰の教えてくれた秘密は、おそらく本来は雪ヶ崎の『駒』である青流にさえ明かしてはならぬ超極秘事項だったはずだ。だから青流を送るという名目で屋敷の外へ出てからこっそり教えてくれたのだろうに。
「あ、あのな、聞いたのはこの前あんたに会った日が初めてだぞ。他言は絶対しないし!」
「べつに責めているわけではない。世に広めたい類のものでないことは確かだが、他言したところで大概の人間には一笑に付されて終わりだろうしな。むしろ、あの時はすまなかったな。君の言葉を夢幻で片付けようとして。……しかし夢幻と思ってくれていた方が君のためではあったんだ。話を聞いてしまった以上忘れろと言っても無理な話だろうが……あまり深入りはしない方がいい。いくら青流が霧峰の身内とは言え、これは命に関わることだからな」
「いや、無理だろ。深入りするなも何も、俺、もう頭の天辺までずっぽりと雪ヶ崎に埋もれてるって自覚があるんだが」
 言ってしまってから、青流はハッと口を押さえた。雪ヶ崎の繁栄の裏に青流の盗賊行為があるなど、旭に知られてはならない。
 だが旭は眉一つ動かさず、青流の言葉など聞いていなかったかのように話を続ける。
「雪ヶ崎と月織部の争いに巻き込まれたら命が無い、という意味で言ったのだが……もしかしてここまでは知らなかったか?」
 旭は青流の顔をじっと見つめながら探るように言葉を重ね、青流が何も知らないという顔をしているのに気づくと「しまった」というように顔を強張らせた。
「……何だ、それ。聞いてねぇぞ、そんなこと」
「深入りするなとさっき言ったばかりだろう?知らない方が身のためだ」
「深入りするなも何も、師匠が雪ヶ崎に関わってる限り、何かあったら絶対に俺も巻き込まれる!それだったら自分の身に及ぶかもしれない危険のことくらいは知っておくべきだろう」
「……それもそうだな」
 旭はこめかみを押さえて吐息した。わずかの間を置き、諦めたように口を開く。
「月織部がどういう一族なのかは霧峰から聞いているな?」
「ああ。月の光を糸にして、その糸で何でも織れるっていう妙な力を持った一族なんだろ?」
「妙って……」
 旭は一瞬むっとしたように眉を上げ何か言いかけたが、すぐに諦めたように椅子に深く身を沈めた。
「まあ、いいが。月織部一族は帝都から見て東北に位置する小国で、国主・花遠家の庇護の下、穏かに暮らしてきた。その庇護を失わぬよう、国主一族と縁戚関係を結び、時にはその力を国のために揮い、表向きは古くから国の中枢にあった名家として、な。そして、雪ヶ崎も元はその国で代々家老職を務めてきた家だ。月織部とは代々首席家老を争う家同士で仲はあまり良くなかったのだが……ある事件を契機に両家の溝が決定的なものになってしまった」
「ある事件……?」
「清道……私の父が、母を半ば攫うようにして駆落ちしたんだ。母は月織部の姫とでも言うべき特別な地位にあった人で、その位を降りるまでは嫁ぐことも許されぬ身だった。そして父は月織部家の天敵とも言うべき雪ヶ崎家の嫡男。いくら二人が想い合っていてもその立場上、結ばれることはどうしても不可能だった。だから父は母を連れて国を出たのだが……。月織部はそれを、雪ヶ崎家が月織部の姫をかどわかしたのだと受け止めた。そして……」
「そして?」
 続きを促したが、旭はその先は言葉を濁した。
「……そして、いろいろあって……当時家老の地位にあったおじい様は職を辞し、国にもいられなくなった。そうして東京へ出て来て……結果的には、奥羽諸国と政府との戦にも巻き込まれずに済み、それどころか運良く一代で財を成すことができ、今のような大きな家になれた。だが……十四年近く経った今でも月織部の雪ヶ崎に対する恨みは晴れていないんだ」
「恨みが晴れてないって……まさか、報復でも企んでるって言うのかよ?」
「……確証は無いが、そういう動きがあってもおかしくはないな。或いは報復などではなく、もっと別のことを考えているか……」
「別のこと?」
 詳しく訊こうとしたその矢先、青流の問いを遮るように扉を叩く音が響いた。
「失礼致します。旭様、お茶をお持ちしました」
 茶器の載った盆を持ち入室して来たのは、あの夜に見た女性だった。彼女は青流の顔を見るとにこりと笑う。
「まあ、旭様。そちらの方はこの間の盗人さんですね?」
「ああ。青流だ。青流、こちらは縫。古くから雪ヶ崎家に仕えてくれている」
「ようございましたね、旭様。同じ年頃のご友人ができて」
 茶器と、茶菓子の盛られた小皿を円卓に並べながら、縫は旭に優しく微笑みかける。
「友人……か。そうなれれば良いのだがな……」
 独り言のような静かな声で言いながら、旭は答えを求めるように青流の顔を見た。
「いや、友人って……。俺みたいな馬の骨があんたみたいなお嬢……あ、いや、お坊ちゃんと友人てのはおかしいだろう」
「友誼を結ぶのに生まれ育ちなど関わりが無いだろう?大切なのはお互いの気持ちだけだと思うが」
 はっきりした口調で言い切られ、青流は思わず感情のままに「なら、友人になっても良いぜ」と口走りそうになった。が、寸前で頭をかすめたものが、青流の口を止める。
 脳裏を過ぎったのは、帝都の闇に潜む己の姿。ただでさえ暗い夜の帝都を、月明かりを避け影から影へと飛び渡る、闇に染まりきった己の姿だった。
 改めて向かいに座る旭の姿を見る。丈の高い仏蘭西窓から差し込む日射しを浴びて、その姿は明るい光に包まれて見える。改めて己と旭の住む世界の違いを思い、青流は円卓の下で固く拳を握り締めた。
「それでも……俺は、あんたの友人にゃなれねぇよ」
「……そうか」
 旭はひどく静かな声でそれだけを言うと、視線を手元に落としてしまう。縫は気遣うように旭を見ていたが、結局何も言わずに一礼して部屋を出て行った。
 

記事続き

・以前冒頭部分のみUPした明治時代怪盗モノ小説の途中部分(以前UPした部分から少しシーンをとばして二人の再会シーン)です。
 
・まだ“長編癖(=小説を書こうとするとどうしても長くなってしまう症状)”の抜けていなかった頃のものなので、今の小説より読みづらいかも知れません。その辺りはスミマセン。

・雪ヶ崎旭は普段は男装していて対外的には「御曹司(男)」ということになっていますが、正真正銘女の子です。

・旭は月夜の晩限定の特殊能力持ちで、月夜の晩・月光の下では金髪碧眼の姿になります。昼は黒髪黒眼で、男装すればギリギリ男子にも見える容姿に変わります。

・このシーンのために調べた「幻燈機」についての知識は、後に児童文学風ファンタジー小説「夢の降る島」の「夢幻灯機」として再利用(?)されています。

前後の記事
<< 異国へ嫁ぐ王女と、その教育係 〜A Tribute to Catarina de Braganca〜 | TOP | 明治時代・怪盗ファンタジー小説(途中・東京名所デート編) >>
タイトル
タイトル
スポンサーサイト
記事本文
記事続き
フッター
コピーライト
This template is made by CYPHR. (C) 2020 ブログ JUGEM Some Rights Reserved.